【アマプラ】『ムーンフォール』かなりよかった感想文

《推定ながら見時間:100分》

俺は破壊王ローランド・エメリッヒをなにより風刺家だと思っているので今度は月を落として地球破壊! というこの愉快な設定の『ムーンフォール』に皮肉な調子があまり含まれておらずむしろいまどき人間の善意や隣人愛をストレートに信じるようなところさえあったことに若干の驚きを隠せないでいるのだが、考えてみればエメリッヒの前作『ミッドウェイ』もかなりシリアスに太平洋戦争を描いており、そこには米兵をエキストラまで含めて完璧に白人で統一することで太平洋戦争を「白人の戦争」として捉える批評的な眼差しはあっても茶化すようなムードはなく、日米両国の前線兵士に対する敬意を込めながらあくまでも殺し合いの悲惨と不毛を見せていたのだった。

『インデペンデンス・デイ』でアメリカのパトリオティズムを風刺した破壊王である。2004年の『デイ・アフター・トゥモロー』で早くも今日かまびすしい気候変動問題に取り組み警鐘を鳴らした破壊王である。事実と違うなどと批判もあったが2015年の『ストーンウォール』ではハリウッドでいち早く性的マイノリティ支持を堂々表明した破壊王なのである。ちゃんとしすぎているだろう逆に。なんで破壊王バカ映画の作り手みたいに言われてるんだよ。俺も破壊王とか言ってちょっとバカにしているとはいえ。

まぁでもね、やっぱりこういうあらすじを見ると破壊王だなー! って言いたくなります。なんか宇宙滞在中にデプリだか小惑星の破片だかみたいのを浴びて同僚を失った宇宙飛行士のパトリック・ウィルソンが「あれは地球外生命体の仕業だよ!」って言い出して解任されるんです。それから10年、月人工構築物説を提唱する陰謀論者の清掃員ジョン・ブラッドリーは勤務先の大学の研究室から月軌道のデータを盗み出して驚愕の事実を突き止める。つ…月の軌道が変わってこのままだとあと何周かしたら地球にぶつかる! そのころウィルソンのかつての同僚だったハル・ベリーはNASAの偉い人に呼び出されます。

「ご覧の通りもうじき月が地球に衝突する」
「エッ! じゃどうするんですか?」
「知らん! 私は逃げるから君が後任を務めたまえ!」

こんなあらすじから真面目な展開を想像するのは不可能なのでまたバカやってるなと思いながら観ていたわけですが、バカバカしいネタでもはいそうですバカですよと開き直ってギャグにしたりせず、むしろこれこそがSF的想像力なのだと言わんばかりの愚直さでワンダーな映像のつるべ打ちとなるのだから、なにか感動を覚えてしまうのだった。まさか破壊王の映画で感動するなんて!

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どのようなワンダー映像といえば月が近づきすぎて潮汐力により海が消えるとか外を歩くと重力が軽くなってるから月面を歩くみたいにぽよ~んぽよ~んと飛んでしまうとか、ほら楽しいでしょう? それで月に行くと月の内部がすごいことになってるんだよ。すごい内部を宇宙船でびゅんびゅん飛ぶ。そこで語られる事態の真相もスペースオペラかってぐらいのスケールで、ついでにいうとちょっとだけ『惑星ソラリス』とか『2001年宇宙の旅』みたいなシーンもあるからね。なんて欲張りなSF映画! いや、すばらしいと思いますよ。それでいてパッチワークじみていたり過剰にオマージュを意識させるところがないので。立派なオリジナルのSF映画です。

あと良かったのがこれ月に向かうハル・ベリーたちと崩壊間際の地球で避難地を求めて逃げまくるその家族の動向が並行して描かれるんですけど、最近の映画っていうか世相ってサバイバルの論理がめちゃくちゃ強いじゃないですか。あなたは自分のために生きる権利がある、他人のことよりも自分のことを第一に考えよう、自分が生き残ることが一番大事なんです、みたいな。でもこの映画はそうじゃないんですよね。色んな人種の人が出てきてみんなが困ってる誰かを助けるために決死の行動を取る。それも考えた上でのことじゃなくて咄嗟の判断でやる。だからカメラもその行為のひとつひとつをいちいちクロースアップしない。わざとらしく音楽で盛り上げたりもしない。あたかもそれは人間ならば当然の行為だから、という感じで。

壊れゆく世界の中で誰もが自分のやるべきことをやる、というのは誰もが生存の切符を求めて他人を出し抜こうと躍起になっていた破壊王の風刺大作『2012』とはまるで逆。『2012』のメイン登場人物はおそらくオールアメリカ白人だったがこちらは多人種多国籍というのがその理由かもしれない。懐の深い映画ですねぇ。白人ピザメガネの陰謀論者だって無下にしたりはしないからね。陰謀論者集会のシーンのネジの外れっぷりには笑ったけれども、ずっと宇宙飛行士に憧れてて認知症の母親にはNASAで働いてるって嘘をつきつつ実際は清掃員とファストフード屋のバイトっていうこいつをさ、月に向かうハル・ベリー船長が「お前が必要だ! 宇宙飛行士になりたかったんだろ!」ってスカウトするシーンなんかグッときましたよ実に。

スペクタクルあり、ドリームあり、人間に対するリスペクトと信頼あり。テンポも良すぎるほどに良好でエメリッヒらしいユーモアも随所に散りばめられて超面白いと思うのだが、なんでも本国アメリカでは大コケしたんだとか(それで日本でも配信オンリーになってしまった)。まったく! どいつもこいつもマーベル映画ばかり観てバカになってしまったに違いない!

【ママー!これ買ってー!】


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テイストが似ていると思ったのは『ゴジラVSコング』だったがここまで漫画的に振り切っていないところが『ムーンフォール』の良さでもあり欠点でもあるのかもしれない。

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2 Comments
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パン毒
パン毒
2022年7月30日 11:36 PM

確かにエメリッヒの映画をトンデモに括る風潮は分からなくもないのですが、それだけではない「何か」がエメリッヒの映画にはあるんですよね。
演出過多なんだけどあくまでサービスで、リアリティラインはちゃんと引いてるみたいな。
私はそんな”変な真面目さ”がエメリッヒの良い所でも悪い所でもあると思ってて、ムーンフォールではそれが良い方に作用してて割と好きな作品でした。
ただ、最後のアレはいらなかったかなとは思ってます。