金曜レイトショー映画『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』感想文

《推定睡眠時間:10分》

前作がそんなに濃い映画ではなかったのでさほど昔の映画ではないはずなのだがキャラクターなんか全然覚えておらず、ただこれだけは頭にあったのがピョン吉とひろしの映画っていうね。ピョン吉とひろしじゃないですかこんなもん! トム・ハーディとシンビオートの関係性これ! おぼろげな記憶を拾い上げると確か前作には爆食シンビオートがひろしの身体を借りてレストランでドカ食い大暴れとか悪いシンビオート仲間がロケットに乗ってどっか行こうとするのをぶん殴って防ぐとか部屋に入ってきた特殊部隊を暴飲暴食とかあれ結構覚えてるね!? でもキャラクターは全然覚えてないからドラマパートが弱かったんだろうな。

それで前作はそういう派手なシーンがそこそこあったんで今回もいろいろ食うのかなぁと思ったらバトルシーンは途中と最後に計15分ぐらいある程度で他はなんか寿司屋の梅さん的ポジションな近所のコンビニのおばさんや恋のライバルのムカつくけどわりと良い人などを交えてのほほん生活ギャグ路線。もうシンビオートも地球に馴染んじゃってるからな。前作の時はひろしが気を抜けば地球人の一人や二人食いそうな感じが多少ありましたけど今回はそういうのないね。毒が抜けた。

映画が始まるとトムハが刑事にお呼ばれしてどうこうっていうシーンになってそこでう~んこいつ美味そうだな~食っちまうか~? ってシンビオートがトムハの背中から出てきてわざと言うんですけどそんなの絶対食うつもりないじゃん。仲良しじゃん単なるなにそれ。そこでああいいよ食っちゃえよってトムハが言ってもシンビオート刑事食わないで逆に説教モード入るよね。お前そんな捨て鉢になるなよみたいな。お前らしくねぇじゃねぇかみたいな。

なんかそういう感じだよ今回。馴染んじゃってるからもう。家でニワトリ飼って名前つけて可愛がってるもんシンビオート。大好物のチョコを買わせにトムハを近所のコンビニに行かせたらチョコが品切れでふてくされるもんシンビオート。トムハと喧嘩して一回トムハの身体から出たけどやっぱりトムハが恋しいから仲直り共生するとかそれそういう回あったよど根性ガエルに。

いいですねゆるゆるとしてて。いわゆるアメコミ映画的なものとはちょっと違うっていうかアメコミ映画はアメコミ映画でも明らかに参照しているのは最近のやつじゃなくてティム・バートン版『バットマン』二作とかサム・ライミ版『スパイダーマン』三作とかで、最近のアメコミ映画ってマーベルでもDCでもキャラクターの内面とかドラマっていうのをすごい丹念にリアリティを持たせて描き込みますけど、バートン版『バットマン』とかライミ版『スパイダーマン』みたいな『バットマン・ビギンズ』以前のアメコミ映画ってどんなにシリアス路線のストーリーでもコミック的な絵空事感があって、それが寓話的なムードを醸し出して魅力になってたりするじゃないですか。

この映画はそういう寓話的なアメコミ映画の現代版で、その意味で近いのは他の現代アメコミ映画よりもディズニーヴィラン映画の『クルエラ』とかだと思った。人はそれなりに死ぬけどなんか大惨事が起きるわけじゃないし、ヴィランつっても今回の敵はでかい野望があるわけじゃなくて矯正院で出会った幼なじみ的恋人のナオミ・ハリスと幸せに暮らそうとして(あと恋路を邪魔した人間どもへの復讐)そのために超人化したシリアルキラーのウディ・ハレルソンですからね。この悪の規模のささやかさ。上映時間も慎ましく昨今のアメコミ映画では最短なんじゃないかというたったの98分で、少しだけ最近のアメコミ映画に対するアンチの姿勢も見える。

確かに『エターナルズ』とか『ザ・スーサイド・スクワッド』みたいなA級の現代アメコミ映画は面白いがA級映画は観るのにそれなりの気力体力を要するので一本観るだけでもなんとなく気合いが要るし、多かれ少なかれ現実を反映したところがあるから完全に作り話の世界って感じがしなくて観終わったらメンタルが疲れてしまう。でも『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』は気合いとも疲れとも無縁だし大した映画じゃないから眠かったらどっか適当なところで寝ればいいっていう気楽さがある。

それはそれで正しい娯楽映画の姿、土日だったら大作映画が観たいですけど俺は金曜の仕事帰りに観るんだったら『エターナルズ』よりも『ザ・スーサイド・スクワッド』よりも『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』が観たいですよ。金曜のレイトショーで観るときに満足度がプラス30点ぐらい加算される映画だなこれは。なんかリゾーティ~な浜辺でトムハとシンビオートがまったり夕陽を眺める癒やしのシーンもありますしね。なにその平和感と昭和漫画感!

※ところで実に潔くて素晴らしいなと思ったのは一度は強敵カーネイジの攻撃に倒れたヴェノムがすごい方法で立ち上がる。なんというかですね小賢しい脚本家ならピタゴラスイッチみたいに伏線を張り巡らせて回りくどく立ち上がらせますけどこれはそんな小細工は一切なく正面突破にも程があった。プロレスっぽいかもしれない。バトルも特殊能力感とか基本的に無くぐちゃぐちゃともつれながら殴り合ったり高いところからぶん投げたりとかしてるだけですし。潔い。

【ママー!これ買ってー!】


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ウディ・ハレルソンとナオミ・ハリスの殺人カップルはこれが元ネタ。恵まれない境遇の男女が自分たちの幸せを勝ち取るために暴力を行使しまくるっていうところがヴェノムの利己的な性格と被って面白いよねみたいなことだろう。

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