中編邦画二本立て感想『優しさのすべて』『カウンセラー』

これもコロナ禍の影響なのかなんとなく最近都内のミニシアターでインディーズ邦画の中編みたいなのをやる機会が増えているような気がする。まぁ中編映画なんつーのはなかなか一般の映画館で観る機会がないのでそれも悪くない。ってなわけで観てきましたよ中編邦画2本。その感想をはいどうぞ。

『優しさのすべて』

《推定睡眠時間:0分》

このタイトルはどういう意味なんだろうと観ながら考えていたがひとつの解釈としてたとえば見て語るべき何らかの問題を見なかったことにし続ける優しさ、そんな優しさしか持っていない人たちの物語、というのはまぁまぁありな感じかもしれない。若者の議論嫌いというのは最近よく言われることだがこの映画に登場する若者たちも議論や対話、つまりそれを通して自分をさらけ出しつつ相手の本心を強引に引き出そうとするような会話をしない。だから表面上は彼ら彼女らの毎日は平和で優しさに溢れているように見える。しかしその内実は? といえば結構あやしいもんだってなわけである。

内容的には最近の邦画にありがちな若者群像で何の仕事をしてるんだかよくわからないアコギ弾きのボンクラ男とその彼女で自営デリヘルみたいのやってる人のなんでもない日常とその周辺にカメラを向けつつ主人公2人の関係の軋みのようなものを捉える(もうこんなもんは全部まとめてシモキタ系とか呼んでやればいいんじゃないかと思う)。登場人物も出来事の核心には触れないがカメラもまた出来事の核心に触れようとしないので波乱の予感はそこかしこにあるが肝心の波乱はすっぽりと映画から抜けている…という作劇が取るに足らないシモキタ系カップルの日常に緊張感を含ませていて、得も言われず不気味。意図的にオチてないオチも実に気持ち悪いと思う。

面白いのだがでも最近なんかこういう邦画多過ぎませんかいやマジで。不条理劇の一歩手前で踏みとどまったようなリアルな若者群像とか未熟な恋愛模様とかそういうやつ。この手の映画は作るのに楽ということはないだろうが金をかけずに狙った以上の効果を引き出しやすいところはあるだろうからまぁみんなやりたがるんでしょうな。『桐島、部活やめるってよ』ぐらいまではまだそうした試みにも目新しさはあったと思うが濱口竜介とか今泉力哉みたいな作り手の映画が流行っちゃうともはや新鮮味は感じられない。

ということでこれ以上言うこともとくにはないのだがひとつだけあるとすれば最初のシーンは居酒屋で主人公カップルとその友人男性が飯を食う場面なのだがその直後のナレーション(このナレーションの正体は映画の最後にわかる)で「私たちは行きつけのレストランで食事をした」とか言っていていやそこどう見ても居酒屋だろ! チェーンの居酒屋だろ! と思うのだがこれは撮影上の都合でこうなってしまったのだろうか。それとも居酒屋をレストランと表現する客観と主観のズレを「見たくないものを見ない」若者たちの心理の表れとして意図的にズラしたのだろうか。どちらでもいいのですが、わりとそういう細かいところが面白い映画だったりしたかもしれん。

『カウンセラー』

《推定睡眠時間:0分》

これ俺の中では今年観た映画だったんですけど去年公開されたやつみたいで。へぇ光陰矢の如しですねぇ、そして人の認識なんてアテにならないものですねぇ。というわけでということもないのだが人の認識が怖いという映画です。主人公は自宅みたいな間取りのメンタルクリニック的なところでカウンセラーをやってるらしい女の人。もうすぐ結婚するというのでおめでたムードが漂いますがそこに予期せぬ来訪者。文字通り予約なしで受診しにきたこの正体不明の女の人が主人公に恐怖をもたらし幸せ家族計画をぶちこわすことになるのです。

厳密には別の職業になるのだろうがカウンセラーが体験する恐怖を描いたJホラーの親戚的先駆けのような映画に長崎俊一の『誘惑者』というものがあって、これがどのような映画かといえばメンタルクリニックを経営する草刈正雄のもとに一人の女性患者がやってくる、でどうも他の患者と違った様子の彼女に興味を引かれた草刈は彼女と関係を深めていくのですが、深めれば深めるほどに患者と治療者の立場は逆転、しまいには草刈の方がパラノイアのようになってしまうのです。

『カウンセラー』、この映画にちょっと似てたな。どちらにも共通するのは安定していて安全なはずの治療者側の精神が患者の語る物語に侵食され不安定になっていくというところ。主人公に感情移入する観客もその現実の揺らぎに晒されて不安になる、最初は主人公の見ている光景になんの疑いも抱かずに映画を観ているのに、次第に主人公の見る光景が、認識する現実が、なにやら信頼できないものに感じられてきてしまう。その気持ち悪さ。

正直これも黒沢清フォロワーの映画好きが撮ったいかにも映画学校なり学科なりのシネフィル講師に褒められそうな映画という感じでその意味では『優しさのすべて』同様あまり面白味は感じられないのだが、まぁね、40分かそこらでサクッと終わる映画ですから。観てる間は退屈しないし、俺はぶっちゃけそれ以上のものはこの映画にないと思うのだが、暇つぶしには悪くない。患者役の女優さんもイイ感じに気味悪くてなかなか楽しめる映画でした。

【ママー!これ買ってー!】


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『優しさのすべて』のチラシで蓮實重彦がこの映画は『サンタクロースの眼は青い』に匹敵するとか煽ってたんですけどどっちも過大評価だろ。

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