島シリーズ第一弾映画『忌怪島』感想文

《推定睡眠時間:45分》

何パターンかあるのだろうが最近映画館で観たこの映画の予告編はパロディ調のもので離島では楽しいことがこ~んなにいっぱい! とのアニメ声女子ナレーションとキラキラ音楽を背景に流れるのは様々な怪奇現象ということでリゾートCM風の予告編演出と本編映像のギャップでおもに若年層の客を笑わせ興味を惹こうという作戦なのだが、この映画の監督・清水崇といえば今やすっかり『呪怨』の人ではなく村シリーズの人、そして村シリーズの第一弾『犬鳴村』ではエフェクトや音楽などポスプロで操作できる部分をいじって『犬鳴村 恐怖回避ばーじょん』なる読んで字の如く元から怖くない『犬鳴村』を徹底して怖くない映画にしたお笑いバージョンも後に公開されたりしたので、どうも今度は島シリーズというのを始めたいらしいこの映画『忌怪島』も村シリーズ路線の怖さ控えめネタ鑑賞推奨みたいな映画かと思うのはおそらくめちゃくちゃ自然なことだろう。

だが蓋を開けてみれば頭にザかドの付くシリアスホラーであった。ゆーて村シリーズも通常バージョンの方は別に笑えるところとかなく湿度の高いシリアスホラーだったのだが、今回はVRを題材にしたホラーということで多少はポップな感じなのかなと思いきや、村シリーズを超える話の重さ。これは一杯食わされました。いや、俺はいいけど予告編あんなだしポップコーン片手に楽しめるカジュアルなホラーだと思って観に来た中高生とかはどう思うんだこれ。それともそれが狙いなのだろうか。真面目な映画を観たがらない中高生に騙してシリアスホラーを観せるという。逆にシリアスホラーの客離れを招く気もするのだが。

入場特典でもらったキラキラシールを裏返すとこんな仕掛けが。中高生にJホラーを売るために宣伝部の人はいろいろ考えてるんだなぁ(でもリンク先を見たらちょっと期待外れだった)

個人的にはコメディ調のホラーよりも笑いどころ一切なしのシリアスホラーの方が好みなので村シリーズももうちょっと怖さがあればとは思いつつもなんだかんだ面白く観たし、清水崇と投影のガキを騙してでもJホラーの王道を貫こうとする姿勢は立派だと思うのだが、ただ『忌怪島』、怖さでいえば村シリーズよりも怖くなかった…というのはこれはVRで構築された仮想島で起こる怪奇現象は現実の島に秘められた忌々しい過去に根ざしていたという物語なのだが、現実世界でも度々起こるとはいえ基本はVR上の怪奇現象である。VRかぁ。いや、やりたいことはわかる。前に掲示板で読んだがオンゲーのロビーでいつも同じ場所で踊ってる女がいて気味悪かったが実はその女は…みたいなそういうデジタルが生み出した怪談、現実とは異なるデジタル世界だからこそ生じる恐怖というのは確かにある。のんびりゲーム『ぼくの夏休み』の8月32日バグなどにはバグと分かっていても心底ゾッとさせられるものだ。

しかしこの『忌奇島』、残念ながらその手のデジタル特有の恐怖表現はほとんどできていない。そうなると幽霊の手が出てこようが幽霊の引きずる鎖の音が響こうが「所詮VRでしょ?」とか思ってしまう。予算的な都合かこのVR島は一般開放前のスタンドアローン環境である中に入っているのは開発チーム数名のみというのもマイナスに作用していることだろう。どっかの島の怨念が何百キロ離れたところでVRゲームかなんかやってるオタクデブニート童貞を襲うとかならオタクデブニート童貞である必要は別にないわけだがこれは何か理不尽で逃げ場のない、そしてデジタル特有の恐怖を感じる。

しかしリアル島に拠点を構えたVR開発チームがバタバタ死んでいくだけなら…まぁ開発チームなら別にいいか俺と関係ないし、と他人事感が出てしまうのは薄情だとは思うが仕方のないことだろう。この映画の企画が持ち上がったのは去年後半ぐらいだと思うのだがその頃はまだ話題性が多少あったメタバースが今では失敗が誰の目にも明白になり、先日のAppleの発表会では新たなVRデバイスも公開されたが、数十万円の価格帯を考えればVRが一杯に普及するのはやはりまだ先のこと、という状況も逆風。島というだけあってこの映画では水が恐怖のモチーフになっているのだが、まさしく映画は水物である。

奄美群島の風土を取り入れた忌み話はJホラーの王道とはいえ悪い出来ではなく、南洋的な厳しい陽光の中の空虚や寂しさ、開かれているようで閉鎖的な殺伐とした空気感が出ていてなかなか良かったのだが、このリアル島パートとVR島パートの食い合わせに難があり、両者を半ば無理矢理(と見えるのだが)接合した結果、展開が要領を得ず遅々として本筋に入ってくれないので怖い映画なのに眠くなってしまった。ホラー映画なんか半分以上寝てもだいたいの場合どんな話か起きてすぐ了解できるものだがこれは目を覚まして15分ぐらい観ていても話の全容が掴めなかったので、寝ている自分を棚に上げて言うのもどうかと思うが構成がよろしくないというか、そもそもVRと南洋忌み話のドッキングという企画に無理があったんだろうと思えてならない。その無理をモノローグの説明で補うあたりもかなりいただけないところである。

映画の最終盤、ユタ(沖縄・奄美のシャーマン的な婆)が「そんなことをしたらこの島の全員が死ぬか気が狂うよ」とある人物に言うのだが、その「島の全員が死ぬか気が狂う」シーン、わくわくして待っていたら出てこないままエンドロールに入ってしまった。そんな殺生な。チープでもいいからその光景を作ってくれたらだいぶ印象が違ったのに…トータルで言えば、そんなわけで楽しめないことはないがやはり不満の方が大きい映画であった。空気感は良いのになぁ。ま次の島に期待ってことですかね。なんだよ次の島って、日本列島ダーツの旅じゃあるまいし!

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ぶっちゃけストーリーは面白くないし観たいシーンが絶妙に無いニール・ブロムカンプのデジタル・オカルト映画残念作なのだが、そこはさすがブロムカンプということでデジタル世界に特有の不気味さの表現は見事なものでした。

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2 Comments
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匿名さん
匿名さん
2023年6月22日 12:37 PM

コテコテ関西弁キャラに嫌味で偏屈なやつおっとり巨乳にサバサバ系、自分以外に興味ない天才主人公とその主人公を通して画面の前の私たちに語りかける系ヒロインとアニメチックなキャラ作りも忌み話にミスマッチだったような……
PCがエラー吐くシーンとかもアニメ的表現でしたよね(真っ赤な警告テキストが全部のPCで表示されブーブーなるサイレン普通ならディドゥンとかいってエラーて出るだけ)
全体的にアニメ特に押井さん庵野さんの影響かなというシーンがよくありました
清水監督にそのイメージないので脚本の方がそうなんですかね