なんだなんだ映画『NOCEBO/ノセボ』感想文

《推定睡眠時間:50分》

この映画の監督ロルカン・フィネガンの前作『ビバリウム』は何の説明もなくどんどん日常が異常世界に取って代わっていく、あるいは異常世界が日常化してしまう不条理劇のようなSF映画だったので、『NOCEBO/ノセボ』も作風は近く冒頭、主人公のファッションデザイナーが誰かの死亡報のようなものを電話で受けると同時に目の前にダニ? のようなものにたかられた病気の野良犬が現れ、そのワンちゃんがぶるぶるぶるっと身体を震わせるとダニが飛散しファッションデザイナーうぎゃああああ! 犬は幻影のようだったが彼女のうなじにはダニが食い込んでおり…タイトル『NOCEBO』。

さてそれから数日後ファッションデザイナーはいつものように金持ち生活を送っておりましたがと何事も無かったかのように話が続くのでえ、なに? 諸々、なに? まずあの電話は誰の死亡報なの? あとあの犬は幻覚だったの? 幻覚ならどうしてそんな幻覚見たの? 病院とか行かないの? あのうなじに食い込んだダニは? 何も説明しないのでもうわからないことだらけ。なんだこりゃと思いながら観ているとベトナム人の家政婦登場。しかしファッションデザイナーは家政婦など呼んだ覚えなし。「そんなことありません、昨日連絡をいただきましたので参りましたよ、マダム」「ああ、そう…じゃあとりあえずお願いします」。どうしてファッションデザイナーは記憶がないのだろう? 記憶がないのにどうしてホイホイ素性の知れない家政婦を家の中に入れるのだろう? そのうえ家政婦ときたら夜な夜な呪術のようなものを実践し…なんなんだ!

もっとも俺もダテに映画で二百万の年収を浪費していないのでこの家政婦の正体および犬の幻覚が暗示するものについてはツイッターで遠回しなネタバレを踏んでしまったこともあり薄々勘づいていた。もはやどこの誰かも思い出せないがそのアカウントさん。あなたね真面目にこの作品を論じて社会問題に関心の高い自分をアピールしたかったのはわかりますが(そうでなければ自分の頭の中に感想を置いておけばいいだけの話だ!)そういうのねやめてください。気にしませんよ別にネタバレなんか私は。ネタバレを踏んだって面白い映画はちゃんと面白いですからねたとえば『タイタニック』は最後にディカプリオ死にます。

しかしだよ。ネタバレは構わないがなんでしょうね、真面目な自分をSNSでアピールするためにネタバレをするという身勝手さがなんかイヤ。だってこれ説明しない映画なんだもん。説明しないでナニコレナニコレって観ているうちに段々と事の真相がうっすらわかってくるという作りなのだからさ…それを「この作品が扱っているのは〇〇で」と語ってしまったら台無しじゃないですかそれは! いいよ別に! そういう映画だとわかってもビジュアルとかエッジが効いてるからわりと面白く観られるよ! だけれどもだけれどもそこはなんていうかさあああああああああ!!!!!

なんでツイッターの社会問題に関心はまぁまぁあり社会問題に関心がまぁまぁある自分をアピールしたがるが個々の社会問題についてはそんなに詳しいわけではなくそれぞれの分野を深く掘り下げることもないタイプの人はこう無思慮なのだろうか。無思慮で無配慮なのに自分は正しいことをしていますから的な免罪符を笠に着てその下からチクチク口を出してるから何を言われても反省とかしないしねってなんだそれは特定の誰かの悪口なのか! いやそういうことでもないんだがツイッターそういう人多いじゃん! 多い…本当に多いんだよ!

脱線するにも程があるが家政婦の正体がなんとなく読めてからは寝てしまっているのでほかに書けることもないのであった。俺が想像した正体が当たっているかどうかはエンドロールに入るまで寝ていたので定かではないが、ところどころ半覚醒で観ていた映像の断片を繋ぎ合わせればたぶん外れてはいないだろうと思える。まぁ、しかし。ネタバレアカウントへの文句をグチグチと書いてきたが、こんなもん大したネタじゃないわな。俺は我欲の弱い他人のことを考えることのできる正義の映画好きなのでネット上の自分の価値を高めるためのネタバレなどはしませんが、ネタバレなし状態で観たところで前半の不可解な展開の意味が明らかになっていく(と思われる)後半にナンダッテー! と驚けるナイーブな人は少ないんじゃないだろうか。

その題材およびテーマの掘り下げは浅く寓話としてもちょっと安易というかツイストが足りない。だから、この映画の面白さの大部分は序盤のなんだかわからんところにある。そこで早々にネタを察知してしまってはきっとそんなに面白く観ることはできないだろう。なんだなんだ、なんなんだ。そう煙に巻かれているうちが花である。その点でも『ビバリウム』と近く、そういえばあれも事件の核心は見せないものの想像はさせてしまう後半は不条理劇風の序盤に比べてあんまり面白くなかった。あんまり引き出しの多い監督ではないんだろう。

ちょっと余計な一言を最後に付しておくが、かように白けてしまったのは犬の幻覚の場面といい主人公の性格といい去年やったケイト・ブランシェット主演の『TAR』と結構被ってたせいでもある。こんなもんなんだろうな、今の英語圏ホラーの最先端なんていうのは(『TAR』もホラー枠とする)。こんな程度でしかこういう題材とテーマを描けないんですよ。これで意識が高いつもり、最先端のつもり、社会批判のつもり。映像や音楽はスタイリッシュだが、そのへんつまらんもんです。

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