さらば消耗品映画『エクスペンダブルズ ニューブラッド』感想文

《推定睡眠時間:0分》

『エクスペンダブルズ』の一作目を観た時にはいやもうこんなの毎年やってくれよ! 毎年作れるだろこの内容なら! お正月とかの風物詩にして! と強く強く願ったもので、毎年とはいかなかったがその二年後2012年に『エクスペンダブルズ2』、そのまた二年後2014年に『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』と続いたので、これはもう二年に一度のお祭りとして定着したな、よかよか…と『エクスペンダブルズ3』なんかは薄味でどんな内容だったかほとんど覚えていないくらいなのだが思ったのであった。

だが、しかし。その後2016年になっても2018年になっても『エクスペンダブルズ4』製作されず。その間つぎはジャッキーが出るとかニコラス・ケイジが出るとか色んな話もあったがそのうち話題に上らなくなり、たしか『エクスペンダブルズ2』の後ぐらいに女性アクションスター総出演版のスピンオフ企画もあったはずだがそちらも実現することなくどこかへ消えてしまった(それとは別に女性だけのスパイチームの活躍を描いたハード・アクション『355』もジェシカ・チャステイン主演で数年前に製作され、これは面白かったのだがまったく話題にならなかった…)。

前作から待つこと実に8年。ついに完成した『エクスペンダブルズ ニューブラッド』こと『エクスペンダブルズ4』だが、本国米国での興行は振るわず批評も芳しくない。いやそんなことは気にしないが、多少ショックを受けたのはこれほどの人気シリーズ(だよね…?)にも関わらず、さっき上映劇場を探していたらなんと渋谷で上映なし。まさかである。俺の頭の中では渋谷のスクランブル交差点の大群衆の中で「あ、今日から『エクスペンダブルズ』の新作が公開されるんだった!」と叫べば大群衆が一斉に振り返り、映画館は当然満席で予約なしには観ることが叶わず現地に到着してくそー予約しておけばよかったー! と悔しい思いをするに違いなかったのだが、現実には東京文化の中心と言ってもいいような渋谷では上映すらされない。

とはいえ渋谷はシネコンがTOHOシネマズ一館しかない映画の街とはいってもミニシアターの街。新宿や池袋が複数のシネコンを駅前に擁するのを考えればこれは一口に映画といっても文化の違いというものかもしれない。ところが新宿や池袋などの『エクスペンダブルズ4』タイムスケジュールを観るとおそらくお客さんがもっとも入りやすいと思われる夕方~21時ぐらいまでのあくまでも俺にとってはという意味だがちょうどいい時間帯にあまりやってない。朝から16時ぐらいにかけて3回ぐらい上映されて最後の1回が21時45分とか終電ギリギリの深い時間というシネコンがどうも比較的多いように見える。

…これ客が入る映画だと思われてないだろとくに若い世代中心に! シネコンのピークタイムは『SPY×FAMILY』とか『名探偵コナン』に取られてるだろこれ! 哀しい! もはや『エクスペンダブルズ』ではお正月興行は戦えないとでも言うのかッ! まぁでも、通常上映よりも料金が高いドルビーシネマでの夜遅くの回だったとはいえ、確かに俺が観た回は中高年が6人ぐらいしか入ってなかった…。

しかし売れるとか売れないとかそんなものは映画の面白さとは一切関係ない。いやむしろこの冷遇状況こそ本来『エクスペンダブルズ』に相応しいのではないか? 考えてみれば初代『エクスペンダブルズ』は『ロッキー・ザ・ファイナル』の大成功で劇的にハリウッドにカムバックしたスタローンが80~90年代のハリウッドアクションを彩り現在はメジャーな仕事があんま来なくなってしまったアクションスターをかき集めてブルース・ウィリス×アーノルド・シュワルツェネッガーの共演まで実現させた「消耗品」たちの一念発起プロジェクト。それがまさかこんな大きな神輿になるとはハリウッドの誰も真面目には思っていなかったに違いない。

そう考えればメジャー路線に舵を振りきった結果なんかポンコツどもの哀愁みたいのが無くなってしまった前作『エクスペンダブルズ3』よりもこの『エクスペンダブルズ4』の方がこのシリーズの旨味を感じさせてくれる作品だったと言えるかもしれない。日本での副題が『ワールドミッション』とかいう大袈裟だしあとそれステイサムの『メカニック:ワールドミッション』でパクられてたぞ! 感のあった前作はなにやらスケールがでかかった。ところがシリーズ最終作と謳われたこの『エクスペンダブルズ4』はアクションの舞台が砂漠とタンカーの上とかいうVシネかというスケール縮小っぷりである。本国公開2022年、ということは間違いなく撮影期間とコロナ禍ピーク時がバッティングしているであろう。きっと後半がずっとタンカーの中というショボさはコロナ禍による撮影制限が大いに影響しているに違いない。

もはやその残念感すらグッとくる。そうであった。こう言ってはなんだがやはり残念感があっての『エクスペンダブルズ』ではないだろうか。なかなか企画が動かずようやく撮影に入ったと思ったらコロナ禍直撃、しかしどんなヨゴレ現場だろうと一度引き受けたからにはこなさなければならない…この哀愁! これが使い捨て傭兵軍団『エクスペンダブルズ』の境遇と重なるのだ。

初代エクスペの面々はもはやほとんど残されていない。ガトリングが恋人テリー・クルーズはいつの間にかチームを抜けたか前作で死んで代わりにスタローンが『大脱出』シリーズから連れてきたかもしれない50セントとラテン系の誰かと金髪の中国系チャンネーが何ができる人なのかよくわかんない人としてチームに加入、初代であんなに仲睦まじくやっていたステイサムの彼女はいつの間にステイサムのもとを去っておりおそらく前作でチームに加入したと思われるがまったく覚えていないミーガン・フォックスがステイサムとデキている、ジェット・リーは『エクスペンダブルズ2』の時点で既に持病悪化によりアクション俳優業継続不可でチームを離脱しており、ドルフ・ラングレンは律儀に今回も参加してくれたがさすがに加齢が響いたかアクションはほとんど用意されていない、そんな中ランディ・クートゥアは初代から変わらぬ十八番のマッシュルーム耳ネタでまだ食いつないでいる…。

『エクスペンダブルズ3』で新入生を何人も迎えたはずのエクスペンダブルズだったが個人主義的かつ根性主義とヨゴレ仕事を嫌う現代の若者である。冒頭からしてリーダーのスタローンが酔って指相撲で負けて大事な指輪を取られちゃったから一緒にそいつらをぶちのめして指輪を強奪して欲しいという「それお前が完全に悪いじゃん!」としか言いようがない犯罪的プライベート・ミッションに相棒ステイサムを半ば無理矢理連れて行く粗野なエクスペンダブルズには、きっと今のスマートな若者たちはとても馴染めなかったのだろう。作戦とかあんま立てないで出たとこ勝負でどうにかしようとするし。あとランディ・クートゥアのマッシュルーム耳ネタを出勤のたびに聞かされる。

もはやあの和気藹々とした部活的愉しさはない。古参メンバーは加齢により動けなくなり、若造新規メンバーとは話が合わず、仕事もタンカー襲撃というそのタンカーには例によって核兵器があるので大仕事のはずだがなんか地味な感じの仕事しか回ってこない…この涙を誘う枯れっぷりが、ある意味では『エクスペンダブルズ』初心回帰とは言えまいか。そう、初代もなんとなくこんな気持ちで観てた気がする。ジェット・リー、ああ懐かしいね、ドルフ・ラングレン、あーあーあーそれは懐かしいね! 実際にはジェット・リーもドルフ・ラングレンもコンスタントに仕事をしておりジェット・リーなどはアクションを封印して挑んだ2010年の『海洋天堂』が後期の代表作といっていいほどであるが、それでもやはり、『エクスペンダブルズ』とは「枯れ」なのである。初代にでノンアクション参加のミッキー・ロークの大きくて小さな背中を君たちは覚えているか。時代に使い捨てられた男たちが重くて痛い腰を上げて誰からも顧みられない決死の作戦に挑む…その意味で、むしろ『エクスペンダブルズ4』は初代以上に『エクスペンダブルズ』という作品の本質が表れているとさえ言えるかもいれない。

たしかに悪役がイコ・ウワイスで助っ人参戦がトニー・ジャーにも関わらずウワイス×ジャーのドリームマッチが用意されていない点など「わかってねぇなオメェ!!!」としか言いようがない痛恨の采配ミスだし、個々のメンバーのアクション見せ場があまり用意されておらずステイサムのアクションに比重が置かれすぎている点などどうかと思う。そもそもステイサムはキャリア的にはうなぎ登りなので「お前は消耗品ではないだろ」というツッコミもあるが、たくさんの爆発、たくさんの銃撃戦、たくさんのチェイス、たくさんの死体、そしてたくさんの枯れ…これはやはり『エクスペンダブルズ』である。

邦副題『ニューブラッド』にして監督スコット・ウォーがシリーズ終結を宣言というの午後ロー的なオチもあってオイと言いたくなるが、しかし、まぁ、これで終わりでいいんじゃないだろうか。楽しませてくれてありがとう『エクスペンダブルズ』そしてスタローン。どうか安らかに…ってまだ死んでないよ誰も!

※あとタンクトップを着たミーガン・フォックスの乳首がどうも透けているように見えてなんかドキドキした。

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2 Comments
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カモン
カモン
2024年1月7日 6:04 PM

いいなあこのレビュー
さてはノッてるね?笑