関根さんの初監督映画『騒音』観てきた!しあわせ映画だった!

観てきたんだよ、関根勤初監督作品『騒音』。したら上映前に関根さんら出演者のトークショーがあってさ。んで出演した村松利史さんが言うの。

「ノー・ペーソス!ノー・マーケティング!こんなにピュアな映画はない!」

いやそれ、マジだったんだよ!ピュアなの、この映画!ピュア!なんか初めて8ミリカメラ渡された映画好きな小学生がさ、もう嬉しくなっちゃって、朝から晩まで友達と一緒に映画ごっこやってる、みたいな。
いいよね、そういうの。こっちまで嬉しくなっちゃうナァ。あそうそう、映画はこういう話でした。

平和なS区に地底人が群れをなして出現!人間を体育座りさせたままにする毒ガスを武器に襲撃を始めた!
このままでは街中の人間が全て体育座りさせられてしまう…そんな中、S区の地底人対策本部はある発見をする。
長年虐げられてきた非リア充のキモオヤジたちには、毒ガスが効かない…!かくしてミジメな日々を送っていた温水洋一、村松利史、飯尾和樹、岩井ジョニ男、酒井敏也が招集され、地底人と戦うべく渡辺哲と千葉真一に鍛えられるのだった…。

再び村松さんの言葉。「脚本読んでビックリしましたよ!関根さん60超えてるのに、こんなにピュアな脚本書くなんて!」
いやまったく、60を超えてこんなに中二、どころか小二な話を書けるのがまずスゴイが、そこに照れも衒いも全くないあたり凄まじい。
関根さん、ホントにこの手の小二(小児)的バカを愛してるんだろうな。で、ホントに映画も大好きなんだろう。すげーバカですげー低予算なんだけど、だからなにか、すげー映画してるんです。

良かったのはまずキャストだよな。温水洋一、村松利史、飯尾和樹、岩井ジョニ男、酒井敏也っつーキモオヤジ軍団が一つの画面に収まってる、その力強さ!(?)
恐いヤンキーに絡まれてみんなで「ひぇ~」とか「うわぁ~」とか言いながら土下座するシーンなんてニヤニヤが止まりませんな。

んでまたこの人たちがホントに小二、仕事がさぁとかローンがさぁとか、そんな大人の会話とか辛気臭い感じが全然ない。
みんなでニヤニヤイチャイチャしながら飲み屋で今日の失敗談(また精神年齢の低い失敗談なんだコレが)を語っちゃったりして、ある意味天国。あぁキモイ!あぁダサイ!あぁ愉快!最高!

温水さんたちは関根さんと縁の深い人たちだそうで、やった!映画撮れる!じゃあ友達たくさん呼ぼう!ということらしい。
小堺一機、キャイ~ン、マキタスポーツ、みうらじゅん、どぶろっくから明石家さんまにタモリさん、んで娘の関根麻里までみんな集まった(ルー大柴は…?)。みんな気心知れてんので、実に楽しそうに遊びながら演技してて、なんだかとてもしあわせだ。

それだけじゃ飽き足らず、関根さん憧れの俳優さんもたくさん呼んだ。渡辺哲が怒鳴り散らし、息子と参戦の千葉真一が息吹をすれば、車だん吉が風のように現れる。ナレーションは山寺宏一。
グっときてしまうのはそんな芸達者の友人たちや憧れの俳優さんたちを大事に大事に撮っているところ。
スターが出りゃ、シーンの流れを寸断してまでずっとその人を追う。好きなだけカメラの前で遊ばせて、芸をしてもらって、一通り終わったらシーンを切る。
古臭い作り方じゃないか。昔の映画みたい。

でもそれがイイ。スターが出てきたらお客さんはその人が観たいじゃないですか。関根さんはソコで黒子(まさに)に徹して、芸人さんや俳優さんに映画を託す。その人たちを信じて、その魅力を最大限に引き出そうとする。
お客さんを第一に考えてるワケですが、そもそも関根さん自身が現場での一番のお客さんだったんだろう。そういうの、ちょっと泣けてしまう。

小二な話と書いたが、しかし単に無邪気に戯れてるだけじゃない。ところどころに顔を出す風刺は意外とシャープにキマってて、なんと映画の最後にゃ昨今取り沙汰される日本の社会問題、というか外交問題?に切り込む。

そこで発せられるメッセージは素朴なもので、まぁみんな仲良く世界平和を目指しましょう、みたいなもの。
よくある映画だと鼻白むそんなメッセージも、この映画なら気にならない。どころかメッセージに気付いた瞬間、いまひとつピンと来ない地味地味な謎タイトルに込められたものが判明してちょっと感動してしまった。

要は外国人とどう接するかということなのですが「騒音」というのは外国人絡みのトラブルの最も身近なものでしょう。日常に持ち込まれた違う文化圏の音はどんなものでも慣れないと騒音に聞こえてしまうじゃないですか。
でもそれは本当に騒音なのかっていうことですよね。ちゃんと耳を傾ければそれは言葉だったり音楽だったりするんじゃないか。恐らくそういう含意がタイトルにはあって…深いですよ意外と!そのへん!

こんなバカな映画なのになにかを訴えようという姿勢。恐らく関根さんの愛する『シベリア超特急』のオマージュだろうと気付き、そこでまたちょっと感動させられるのだった。
オマージュと言えばパンフレットには「映画オマージュが100個ある!」と書いてあった。観てるときは全然気付かなかったんで、パンフに載ってる関根さんの言葉を追ってみた。

「飯尾くんが女の子にぶたれるシーン、あの女の子は飯尾くんの嫁さんが演じてて、『Mr.&.Mrs.スミス』のオマージュなんですよ」…分かるワケねぇだろッ!

しかし個々のシーンのオマージュは分からんが、全体として『フライングハイ』とか『ケンタッキー・フライド・ムービー』、Z級映画の代表選手『アタック・オブ・ザ・キラートマト』やそれにオマージュを捧げた『マーズ・アタック!』みたいな感じはある。
『フライングハイ』と『ケンタッキー・フライド・ムービー』は確か関根さん好きだと言ってたと思うんで、参照した部分は多いんじゃなかろか。ダメ人間への共感と映画愛に満ち満ちた作風は『マーズ・アタック!』的。

画的にはとても貧相でコント番組の延長も、それさえZ級映画の巨匠エド・ウッドのオマージュだとか言って笑い飛ばしちゃえんのがこの映画の強みだ。
暇でかつマニアな方はオマージュ探してみると面白いと思います。渡辺哲が怒鳴るシーンのカメラワークが『イングロリアス・バスターズ』のオマージュとか、そんなんばっかなんで分かんないと思いますが。

別に傑作とか秀作とかそんなんじゃない。そんなんじゃないけど、ひたすらバカバカしくて、ずっと笑えて、で最後にチョットだけホロリとさせられて、実に映画らしい映画じゃないかと俺は思う。
エロもグロもナシ。せいぜいあってもオッパイ(乳首は出ない)に聴診器を当てるぐらい。誰でも観れるようにとても配慮された映画なのだ。
で、配慮されてるけど愛はこもってると。単なる商品としての映画じゃねぇと。でも、どこまでもお客さんを楽しませるために作られた映画だと。

下らない映画の下らないシーンのためにワザワザ富士山をバックに(した公園で)撮影を敢行してるあたりも考えると、なんか映画の理想系みたいに思えてくる。
いややっぱ別に理想じゃねぇな、こんなどうしようもないバカ映画。しかし理想かどうかはともかく、この上なくしあわせな映画なのだった。

2019/6/21:多少加筆・修正してます。

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ラスト1分ぐらいまでほぼ温水さんの一人芝居とゆー驚愕のシチュエーション・スリラー。企画ありきのユルいコメディかと思ったが意外としっかりした作りで驚く。なにより一人で90分持たせる温水さんの硬軟自在の芝居が素晴らしい。

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