最高の佳作映画『フューチャー・ウォーズ』感想文

《推定睡眠時間:20分》

映画が始まるとそこは2055年ぐらいの未来世界なのだが、いったい未来とはどんなもんやをゆっくり堪能する間もなくカメラは未来世界のフランスにあるビッグ原子力発電所内部へ。どうやらもう少しでメルトダウンしそうで大変だと二人の職員が焦っているのだが、メルトダウンを止めるためのボタンというのがどれかわからない。青いボタンか、それとも黄色いボタンか…そうだ説明書を読もう! だが説明書を見た職員愕然、「中国語で書かれてるから読めない!」。うーむどうしようか…とそこへ突如として現れたのがなにやら汚い身なりをした男、未来人を自称するこの男は原発のメルトダウンを止めるためにやってきたと言い、黄色いボタンを押せばメルトダウンは間一髪防げるのだという。

えーでも知らないホームレスの言ってることだしなぁと勝手にホームレスと決めつけた上にこの非常事態でも他人を信用しないフランス人職員二人。「しょうがないな、ちょっと待ってろ!」とタイムスリッパーはその場から消失。職員二人が「?」を呑気に顔に浮かべているとタイムスリッパー、今度は見た目からして中国人っぽい人を同伴して登場である。「この人は中国人のワンさんだ! ワンさんに説明書を読んでもらってくれ!」。だが説明書を読んだワンさんの答えは想定外であった。「なんと言ってる?」と職員。「私は上海出身の普通話話者だがこれは広東語だから読めない…だそうだ!」とタイムスリッパー。沈黙。「…もうちょっとだけ待ってろ!」バヒュン! ぼわん! 「なにやってんの?」「はぁ…はぁ…お前たちにとっては一瞬だろうが、俺はこの半年間というもの不眠不休で中国語の勉強して今に戻ってきたんだ! さぁ今なら中国の普通話が読めるぞ!」「必要なのは広東語だろ。お前間違ってるよ」。

こんなベタなタイムスリップ・コントが冒頭から堂々と繰り広げられてしまったらそれはもう期待しかないという『フューチャー・ウォーズ』である。お話はここで一旦過去に戻って2022年ぐらいのほぼ現在、フランスでは今の時代はクリーンエネルギーだということである国会議員の主導で新原発の誘致が進んでいたが、その娘である主人公はこれに反発、なにがクリーンエネルギーだてめぇの天下り先を作りたいだけだろと啖呵を切って反原発アクティヴィストたちと行動を共にしていた。たしかに原発はクリーンエネルギーだがこれは2055年ぐらいの未来にはトンチキな職員二人がどっちのボタンかな~とか言っているうちに爆発してしまう危険原発、それなら建設は止めた方がいいだろう…と観てるこっちは未来を知っているからそう思うが2022年現在のフランス人は誰もそうとは思わない。

このままでは危険原発着工不可避。ということで主人公は国会議員の父親に縁を切られる覚悟で父親のノーパソを盗み出し、そこに何らかの汚職を見つけてスキャンダルにしようとするのだが、すんでのところでまたもや例のタイムスリッパーが現れた。2055年のトンチキ原発職員を説得してメルトダウンを防ぐことは不可能だったので、タイムスリッパーはそのずっと前に遡りそもそも原発を建設させないようにと考えたのだ。だがそこにタイムスリッパーよりも更に未来なのか別の時間軸の未来なのかよくわからないが、とにかくタイムスリッパーの住む未来世界とは異なる未来からやってきた時空警察が登場。時空警察の目的は過去を改変させないこと、すなわち原発メルトダウンの大事故防止を防止することであった。慌てて未来へ逃げ出すタイムスリッパー。その時間移動に主人公とその父親は偶然巻き込まれてしまい、二人は未来世界を冒険することになるのだが…。

思いがけずあらすじが長くなってしまったが時間SFはやはり設定をちゃんと頭に入れておくことが大事であろうからまぁしょうがない。どうだ面白そうだろう。このあらすじを読んで面白そうと思わなかったらそれはもう仕方がないな、そういうものだ。だが俺は大いにお気に入った。SFにもいろいろジャンルがあるが時間SFは俺がとくに好きなSFジャンル、この映画は長いあらすじからわかるように原発建設計画の進む現在(2022年)、原発がメルトダウンする近未来(2055年)、タイムスリッパーの住む遠未来、そして時空警察の住む遠遠未来と序盤20分ぐらいで実に4つもの時代が出てきてあちらこちら行ったり来たりするのだから、時間SFのたのしい盛り沢山である。

四つの時代と四つの時代の人々が出てきて絡み合う物語といえばなにやらクリストファー・ノーランの映画のように複雑そうだが心配ご無用、冒頭のタイムスリップ・コントの時点でわかっていると思うがこれはあくまでもSFコメディである。原発建造阻止の物語も登場人物の行動原理も難しいところぜんぜんなし、もちろんギャグも人が急にすっころんだら面白いみたいなやつばかりなので小学生低学年から爆笑可能だ。客入りの寂しい場内はしんと静まりかえっていたが俺は上海出身のワンさんが出てきた時点で既に笑っていた。

これだけでもじゅうぶん面白い映画なのに未来世界のビジュアルは『マッドマックス2』型のポストアポカリプスでしかも放射能雲によってゾンビがいっぱい、崩壊した未来世界のVFXもちゃあんとしていてなんだこれはオタクの好きなものだけ詰まったスペシャルお子様ランチか!? ともう、そのわりには20分も寝ているが大満足である。オタクのスペシャルお子様ランチという点ではニール・マーシャル一世一代の『ドゥームズデイ』を彷彿とさせ、悲惨な未来を変えるために様々な時代を奔走するユーモラスな時間SFアドベンチャーという点では『夏への扉』のようでもある。基本的にふざけているがヒューマニスティックなラストにはちょっと泣かされるあたり、俺のSF映画オールタイムベスト10に入っている名作『グランド・ツアー』にも、まぁ匹敵はしないがちょっと似た感じがあった。

こんなにオモシロ要素を詰め込んでいるのに妙にこぢんまりとして大作感がなく腹八分目な味わいというのはむしろこの映画の美点である。最近のSF映画はやたらシリアスだったり大袈裟だったりし過ぎじゃあないかと俺は思う。この映画なんか四つの時代が出てきて原発は爆発してゾンビで溢れかえって人々は食うものがないので人肉を食ったりして人の世は終末を迎えるのに悲愴感とかまるでなく実にあっけらかんとしたもんである。そういう映画をB級と呼ぶとすれば、ここにはB級だからこそのSF本来のワクワク感や思考実験の楽しみがある。それは奇想や壮麗なビジュアルで観客を圧倒することが至上命令となってしまった『スター・ウォーズ』以降のハリウッドSFからは失われてしまったものだ。

製作国がフランスだし、この手のB級SFは以前ならDVDスルーになっていたものだが、劇場公開されたのは去年のハリウッドストライキでジャンル系ハリウッド映画の新作供給が多少減っているためだろう。ハリウッド映画の穴埋めでこんな素敵な佳作がかかるんならハリウッドにはもうずっとストライキやっててほしい。『フューチャー・ウォーズ』、よきクラシカルB級SFでございました。

※どうやって時間SFとしてのオチをつけるのかなと思ったらこれがなるほどその手があったかと結構唸らされるオチで感心してしまった。そうか、そういうハッピーエンドもあるよな。15年ぐらい経ってから見返したらちょっと泣くかもしれない良いオチだった。

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