《推定睡眠時間:50分》
100回は大袈裟に言いすぎだと思うが30回ぐらいならウソじゃないってぐらいこの映画のキャラを使った上映前マナー広告を半年ぐらい新宿ピカデリーで見せられていたのでなんか有名アニメとかなんだろうと思っていたが実はオリジナル脚本らしく、いや一応原作はルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』なのだが、これはもう古典だから原作もの映画とは言わないだろう。原作に頼らないオリジナルのアニメ映画というのは応援したくなる。そりゃたしかに『THE FIRST SLAM DUNK』も『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』も面白かったけれども原作が面白い漫画は映画になっても少なくともある程度は面白いのは当たり前なのであって、その事実が面白くない。たとえ映画自体の面白さが並程度ではあったとしても原作なしのオリジナル脚本の映画が面白かった時の方が映画を観る喜びが味わえるというものではなかろーか。
そんなわけでオリジナル脚本のアニメとつい昨日ぐらいに知って俄然興味が出てきた『不思議の国でアリスと』はポスターを見ると遠目には『プリキュア』かと思ってしまうカラフルなゴチャゴチャ感。こういうの好きこういうの好き。こちらはまぁお話的にはゴチャゴチャした映画ではなかったのだが興行的には不振だった原恵一の『バースデーワンダーランド』とかも画面を見ているだけで楽しくなってしまう豊かな色使いがよくて、あくまでも一般論としてという話だが、男児向けのバトルまんがなんかはあまりヴィヴィットな色使いはしないから、アクションは面白くても絵を見る楽しさはぶっちゃけ薄いのに対して、女児向けを想定して作られている『バースデーワンダーランド』みたいな映画は色使いや小物使いなど、絵を見る楽しさに溢れてる。今ではインターネットの世界で不名誉にも大爆死オリジナル劇場用アニメの代名詞となってしまった『ポッピンQ』も事故ってる感はたしかにかなり感じられたとはいえ、絵がカラフルでいろんな衣装とかが出てくるから、俺はなんだかんだ楽しんだものであった。
で『不思議の国でアリスと』なのだがすっかり女児向けと思ったら冒頭いきなり主人公のヤングウーマン女友達と飲酒。実はこの主人公、大学卒業を控えて就活中という案外大人な設定。出鼻を挫かれるということもないのだが、とはいえ女児向けアニメを期待していた身としてはそうくるのかーと思ったことは否定できない。この主人公がどうしてアリスの世界に入るのかというとなんでも主人公の祖母は大物クリエイター? デジタルアーティスト? とにかく、デカい企業と豪邸を構えて次から次へと世間を驚かす新事業やコンテンツを放っているぽいのだが、この人が死んじゃった。その遺作がアリスの世界に入れるVRマシンだってんで、主人公はそのテストユーザーとして豪邸に招待されるんである。つまりこの映画の中に登場するアリスの世界はVR上の虚構なのであった。
率直に言ってこれはちょっとワクワクさせられない設定じゃないだろうか。だってVR用の仮想ヘッドマウントディスプレイみたいの(無線イヤホンみたいの付けるとそこから仮想スクリーンがウィーンて出てくる)を着けてるからウサギとかトランプの兵士とかお茶会とかネコとかが見えるわけである。これらはみんな生きた存在じゃあなくデジタル生成物にすぎないし、ヘッドマウントディスプレイを外したら見えなくなる。後半は寝ていたのでもしかしたら間違っているかもしれないが、プログラム上の存在だったアリスたちに自意識や生命が生じるというようなSF展開もおそらくなかったんじゃないだろうか。現実的な設定といえばそうかもしれないが、この世界には今見えている現実とは別の側面が存在するのだというファンタジーが『不思議の国のアリス』が今もキッズを中心に(なのか?)人々を惹きつけてやまないところなのだとすれば、これはアリスものとしてちょっとどうなのだろう。
それに絵の楽しさもカラフルゴチャゴチャなポスターから想像されるようなものではなかった…いやまぁカラフルはカラフルでゴチャゴチャはゴチャゴチャなんですけど、どうにも色彩や美術に想像力の飛躍とか美意識の迸りが感じられず、主人公がVRアリスランドで体験するあれこれの出来事が全部よくある遊園地のアトラクションにしか見えない。VRアトラクションという設定だからアトラクションに見えて正しいのだが、いやだからやっぱりこれVRっていう設定がアリスものに合ってないと思うんですよね…VRアリスとそこに込められた祖母のメッセージを通して自信を失い何をしていいかわからなくなってる主人公が自分の歩む道を見つけるみたいなものがやりたかったのだろうとは思うが…。
そんな具合でわくわくアニメ期待勢の大人なのに精神年齢こども才には退屈に感じられるところが多かったが、電気を消した部屋で主人公が一人ゾンビシューティングもののスマホアプリを漫然とやりながら虚しく独り言を言ってる場面とか、細かい部分ではある程度(精神的に)大人であれば共感できるような描写も少なからずあり、おそらく作ってる側にしたらアリスものというよりもたぶん『おもひでぽろぽろ』みたいなアダルトウーマン向け映画がやりたかったんじゃないだろうか。そういう視点で観ればそう悪くない気もするので、これは何を求めるかで結構変わってくる映画かもなー。ちょっとした社会風刺も含まれているから、『バービー』みたいな映画が好きな人なら好きかもしれない。