《推定睡眠時間:40分》
『プレデター2』に育てられたと言っても過言だが過言ではない俺からすれば『プレデター:バッドランド』は本編や予告編すら観るまでもなく宣伝文を読んだだけで初代『プレデター』や『プレデター2』から地球と銀河の彼方のプレデター星ぐらいかけ離れた魔改造作品であることは明白だったのでシリーズ権利元の20世紀フォックスがディズニー傘下となって20世紀スタジオに改称されてからのプレデターとはいったいどんなものなのだろうかと野次馬根性で観に行ったしその結果スクリーンで目撃したものには心の中で笑ってしまったのだが、なんとなく他の人のネット感想を観てみると主に若い人たちであろうか、とくに「あのプレデターがこんなことに!」みたいなことを口走っている人は見当たらず、多くの人がこの映画をストレートに楽しんでいるようであったから、そうかープレデターファンも世代交代かーとか思ってしまった。
お祭り企画だった『エイリアンVSプレデター』は例外として20世紀フォックスによる旧プレデターシリーズは明確にSFホラーだったので当然プレデターは怖いヤツであった。何が怖いって異星文明の謎兵器の数々や凶悪な面構えも怖いわけだがやはり光学迷彩によって姿が見えないというのがプレデター最大の恐怖。姿の見えない何者かに突然どてっ腹をぶち抜かれ喉笛を切り裂かれた挙げ句に皮を剥がれて木とかに吊されてしまうこの恐怖はネタが割れてしまえば多少薄れるのでシリーズを重ねる毎にプレデターの透明度は薄れ、その代わりに異星兵器などがピックアップされるようになったが、ともあれ旧プレデターシリーズにおいてプレデターが怖いものであったことには変わりないし、人間とエイリアンが共闘する『エイリアンVSプレデター』でさえ最初は得体の知れない恐怖の対象としてプレデターは人間どもの前に姿を現すのであった。
だがもはや時代は変わった。今や「プレデターが来るぞ~」と脅迫しても怖がる子どもなどおるまい、それならばいっそということなのか『プレデター:ザ・プレイ』に続くディズニー傘下20世紀スタジオによる新プレデターシリーズ(俺称ディズニープレデター、略してディズプレ)の第二弾に当たる今回はプレデターに狩られる人間が主人公ではなくプレデターが主人公、そのうえ映画の冒頭では銀河のどこかにあるプレデター星での生活の一端が描かれ主人公プレデターは大好きなお兄ちゃんとプレデター語で普通に会話をしてしまうので恐怖感はゼロだ。その後このプレデターはプレデター星から放逐され危険生物うごめく異星で危険度トップの怪獣の首を取ろうとするのだが、道中出会った英語話者アンドロイドのエル・ファニングを背中におぶって運んでいるうちにほんやくこんにゃくも使わず軽口を叩く仲になり、すごくなんとなく『マンダロリアン』のグローグーを思わせないでもないマスコット異星生物も仲間に加わって、いろいろあったのち最終的に2人プラス1匹で朝日を見上げて「これが俺の家族だ!」とプレデターが言って終わる。おわかりであろうがこの映画のプレデターは多少ヤンチャなだけのヒーローポジションであり、かつてのような悪役ではまったくなく、そのためジャンル的にもSFホラーからSFアクション&家族愛(?)に変更されているのであった。
だがそれだけではない。20世紀フォックスの二大稼ぎ頭モンスターが激突した『エイリアンVSプレデター』には『エイリアン』シリーズの悪徳企業ウェイランド湯谷社がゲストキャラ的に登場するが、その設定を引き継いでブラッシュアップした今回の映画では実はプレデターが降り立った危険惑星にはウェイランド湯谷社の開発基地があったということになっており、プレデターはウェイランド湯谷社のアンドロイド労働者たちと戦うことになるのだ。ディズニーと20世紀スタジオの狙いはもう明らかだろう。『エイリアン』シリーズ最新作の『エイリアン:ロムルス』はウェイランド湯谷社の異星基地で低賃金重労働をさせられる若者たちが主人公であった。ということは『エイリアン:ロムルス』と『プレデター:バッドランド』の世界は繋がっているわけで、これはいつか新生『エイリアンVSプレデター』に至るユニバース作品なんである。
なるほどMCUやDCEUのような既成IPを活用したユニバース展開は映画会社にとって高い集客力やグッズ売り上げが見込めるという点でたいへん魅力的、きっと今や銭ゲバの妖怪と化したディズニーは『スター・ウォーズ』シリーズのようなユニバースをもういっこ作ろうとしてウェイランド湯谷社がさながら帝国軍の如く暗躍しエイリアンやプレデターがそれと戦うユタニバースを計画しているんだろう。どうせ宇宙が舞台だしそのうち『スター・ウォーズ』シリーズともクロスオーバーするかもしれないし20世紀スタジオの大ヒットシリーズとして今でも高い人気を誇る『ダイ・ハード』シリーズからマクレーン刑事も認知症で役者稼業を引退し現在は介護を受けているブルース・ウィリスの代わりに最新AI技術などを駆使して出張してくるかもしれない。たしかゲームではマクレーンとエイリアンが戦うやつあったよそういえば昔。
こうなるともう俺の知ってるプレデターじゃない。だからもう新生プレデターシリーズに関しては俺にはわかんないとしか言えないな。俺にとってのプレデターはあくまでも怖い(けどそれがカッコイイ)キャラだしあと透明なキャラだけど、なにせ今回の映画のプレデターは光学迷彩を持ってない設定なのでラストシーンの数秒を除きほぼ全編に渡って透過度ゼロってぐらいで、もうねその点だけでも全然違うんだって「あの」プレデターとは。名前が同じだけで知らん人なのよこっちにとっては、この新プレデターは。逆にこっちからプレデター道に入った人は旧プレデターシリーズのプレデターが普通に人を殺すホラーキャラだからギャップあるだろうな。
まぁなんか『スター・ウォーズ』の番外編みたいな感じだったからどうでもいい会話が無駄にクソ長すぎるという問題点を除けないが除けばそれなりにたのしい宇宙アクションなんじゃないでしょうか。旧プレデターは人間を容赦なく狩っていたから相応に血にまみれていたが、新プレデターは人間を殺さないっていうかそもそもこれ人間は一人も出てこなくて人間っぽく見えるのは全員アンドロイド労働者だからプレデターがアンドロイド労働者をいくら殺しても血が出ず、たとえ映画でも出血が苦手という人にやさしい(血が出ないし人間が殺されないのでレーティングでR指定を食らわず配給会社にもやさしい)。家族思いのプレデターはどうぶつにもやさしく頭を撫でてやったりしていたので、ご家族みんなでご覧いただける安全にして健全なプレデターが『プレデター:バッドランド』といえよう。さすがはディズニー(傘下の20世紀スタジオの)映画である。
リドスコ爺はAVPシリーズを嫌っている反面、「エイリアンとブレードランナーは同じ世界観だ」とも語っていましたが(フィリップ・K・ディックとダン・オバノンの立場は…)、D社的にはどう考えてるんでしかね。