共和党だってウーマンアクション映画『ダーティ・エンジェルス』感想文

《推定睡眠時間:35分》

あまりにも『ピカソ・トリガー/リーサル・エンジェルス』『グラマーエンジェル危機一発』などで知られるB級お色気アクションの巨匠アンダディ・シダリス監督作っぽすぎるタイトルだがこちらの方はシダリス映画のように全編通して旅行気分でゆるゆるとやっているわけではなく監督が『007/ゴールデンアイ』『007/カジノ・ロワイヤル』のマーティン・キャンベル、お話はパキスタンの女子学校でアメリカの外交官かなんかの娘たちがISISに拉致されアフガニスタンのどこかであわや性奴隷危機ということでかつてISISに部下を殺され半ば自暴自棄気味になっていたアメリカの兵隊さん(エヴァ・グリーン)が人質奪還に立ち上がるみたいなハードなものでなんかすいませんでしたシダリス映画と一緒にしたりして。でも俺の観た回は観客のオッサン率が100%だったので客層的にはシダリス映画と被ってると思うぞ!

さて2025年の現代を舞台にしながら未だにISISがアメリカ人が好きなだけ殺していい仮想敵として登場する(※既にISISは地方犯罪組織レベルにまで弱体化済み)この映画はその時代錯誤といいアフガニスタン人道支援を行うはずの医師がアフガン国境警備兵を「このマグルが!」と罵倒しISISに拉致された人々を助けるはずのエヴァ・グリーン率いる奪還(※殺戮)チームのメンバーまで「ファッキン・ブルカなんか被らねぇわ」とムスリムをナチュラルに愚弄するなど世界の標準はアメリカなので世界中がアメリカになることが世界平和であると考えアメリカ的なものの価値を理解しないばかりか否定したりするアラブ世界の住民は全員愚鈍な下等人種として扱う態度といいまったく典型的な共和党アクションなわけですが、従来の共和党アクションと一線を画す点があるとすればそれは奪還チームがブレイン以外は全員女性で固められているという点であった。

ISISとおんな部隊が戦う映画というのは過去にも『バハールの涙』『レッド・スネイク』などがあったが、共和党アクションの枠組みでそれをやっているのがこの映画のオリジナリティと言えるだろう。軍隊といえば男なんて考え方はもう古い。女の人にも存分に中東の人を殺してもらうのがアメリカ流の男女平等というものだ。といってもチームアクション的な見所はほとんどなく各メンバーの得意分野を生かした展開なり描写なりも少ないので女キャラで固めた意味はあまりない。なんとなく女キャラで固めとけば政治的に文句も言われないだろみたいな雑な配役は、たとえばイスラエルの広報が2023年10月7日のハマスの越境虐殺の被害を強調するために多数の被害者がレイプされましたとか言ったりするように(それは事実なのだろうが)、女の人のレイプ被害の言説やフェミニズム思想が異民族差別や軍事介入(他国でアメリカ人が拘束されたからといって軍隊を秘密裏に派遣して攻撃を行うのは異常な主権侵害行為であるし司法も無視した異常な殺人行為なのである)を正当化するために利用され得ることを示している点で興味深くはあるものの、『355』みたいなウーマンチームアクションの佳作と比べるともう少し真面目に作れやという感じである。

あと主人公のキャラがだいぶダメなのもちょっと考えものだよな。この人、なんらかの特殊作戦という名の米軍の異常暴力行動によってアフガニスタンに潜入しISISに部下と共に捕らえられたというのが映画の始まりで提示される初期設定なのだが、あわや処刑(その方法は石打ち刑ということで流れるようなアフガニスタンとかムスリムとかはこんなに野蛮ですよ~のイメージ醸成はさすがベテラン監督である)というその瞬間、ヘリで強襲した援軍によって救出される。ところがヘリが離陸しようとすると「まだ部下が残ってる! 戻れ!」と激しく抵抗、この状況で戻ったら向こうRPG持ってるし撃墜されてアンタだけやのうてワテも死んでまうがなということでパイロットは主人公の無茶振りを賢明にも無視するのだが、後日主人公はどういうアレかミリタリーに明るくないからよくわからないがこのパイロットを自分の部下を見殺しにした責任が云々と提訴するのである。

いやそんなもんおめーの現地での任務遂行上のミスが原因なんだし自分を助けてくれたパイロットを提訴するとか八つ当たりにも程があるだろと思うのでまったくこの人は軍人失格だし軍人じゃなくても一緒に仕事はしたくない人である。しかもそれを補うだけのめちゃくちゃな戦闘スキルがあるとかそういうわけでもないので単に迷惑な人でしかなく、それはまぁ単に迷惑なだけの人でも映画の主人公になる資格はあるかもしれないが、とはいえこれはインディーズのダメ人間コメディとかではなくアラブ世界に対する偏見で凝り固まった暴力的で反知性的な共和党アクションなのだから、そこはもう少し主人公を魅力的なキャラとして造型してもらいたかったものである。観ながら頭を使わないでいいのが共和党アクションなのでそういう「これはどうなの?」を生じさせる描写などは困るのだ。

とはいえラスト30分ぐらいはおそらく銃撃銃撃また銃撃という感じでそのへんさすがはマーティン・キャンベルという激しい戦闘シーンが楽しめるに違いない。憶測になっているのは激しい銃撃音などが続くと寝てしまうという謎の奇病によってこの映画最大の見所と思われる終盤の戦闘シーンを一切見ていないからであった。そこを見なくてもB級共和党アクションとしてこれはどうかと思いつつ楽しめはしたのできっと悪い映画ではないだろう。それにしても、およそ20年前にハリウッドは『キングダム/見えざる敵』というアメリカの根深いアラブ蔑視が際限の無い暴力の応酬を招くことを見事に描き出した傑作社会派アクションを世に放っているのに、20年経ってもアラブ世界の理解に進展がないどころか明らかに理解が退行しているのはなんなんだ。

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