良かったです映画版『ルイの9番目の人生』感想

《推定睡眠時間:0分》

原作はリズ・ジェンセンという人のベストセラー小説らしく邦訳が出たのは2006年だそう。アマゾンの商品ページを見ると出版社コメントに「アカデミー賞監督アンソニー・ミンゲラによる映画化決定!」とある。
監督に文芸映画の巨匠を据えて進んでいた(?)プロジェクトがどう紆余曲折あって『ヒルズ・ハブ・アイズ』とか『ピラニア3D』の男気スプラッター監督アレクサンドル・アジャに回ってきたのかわからないが、アンソニー・ミンゲラの実子で俳優のマックス・ミンゲラが脚本に加えて製作にも名を連ねているから少なくとも事故的なものではないだろう。よかったよかった。

いや、俺はアジャの人間ドラマ路線はずっと期待していたのでこうなって二重によかったですよ。『ヒルズ・ハブ・アイズ』は大好きなんですけどあれがいいんですあれが、家族ドラマの部分ね。
バケーション中の都会ファミリーがネバダの食人ファミリーの餌食になる映画ですけどこの都会ファミリーがトラジコメディ風に描かれていて。娘婿と義父の気まずい会話とか、反抗期まっただ中の不機嫌生意気長女が一瞬だけメンタルバリケードを崩して笑みをこぼすところとか、そういうのが良く出来ていて、苦いリアルとシンパシーをじわじわっとヒッチコック的なサスペンスが蝕んでいくからヒルハブはこわいかった。

そのへん『ルイの9番目の人生』も近い作りかもしれないないや別に人食い家族とかスプラッターとかは出てきませんが。こう、家庭不和の中でギリギリのバランスを保っている家族のドラマがまずあって、そこに伏流する狂気の相貌が徐々に露わになってきて、みたいなところが。
それアジャの前作の『ホーンズ 容疑者と告白の角』も同じなんですけどあれはそんなに上手くいってる気がしてなかったんで(なんせ原作長大だからちょっと脚色に難があった)、ジャンル映画の枠の中で家族の悲喜こもごもを語るっていうアジャ映画のひとつの完成形かなぁと思いましたね『ルイの9番目の人生』は。

そういうことやってきた人だと思いますよやっぱ。長編デビューの『フリア』から『ハイテンション』から『ピラニア3D』から…いや『ピラニア3D』は違うかもしれないけど。
家族の問題をジャンル的な意匠に結びつけるってモダンホラーの手法じゃん。ていうところでジョー・ヒルの、父親スティーヴン・キングの得意とするところの普通人の秘めたる悪意+崩壊家族テーマをジャンルミックス的に飄々と語り直してみせた『ホーンズ』とアジャが接続されるのであった。

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映画版『ホーンズ』がダメだなぁと思ったのは語りのアクロバットが原作の大きな魅力だったのになんだかとても固い、生真面目で展開に彩がない。なんかしっとりした地面に這いつくばるようなドラマになっちゃった。

『ルイの9番目の人生』が面白かったのは齢9さいにして既に8度も死にかけているサバイバーのスタンド発現してる説も浮上するルイくんを語り部にしていたところで、このルイくんの最新瀕死は崖から海に落ちて昏睡状態というものだったからつまり昏睡状態のこどもの夢とも現実ともつかない奔放な語りに任せて映画が進行することになる。
『ジョニーは戦場に行った』とか『潜水服は蝶の夢を見る』みたいなものだがもっとシニックでもっとファンタジックでもっとジャンル横断的。『ホーンズ』になかった語りの面白さが、面白ければ面白いだけ表裏一体の悲劇性も増すような形で、よぉく出ていたようにおもう。

ジャンル横断的ということはタランティーノみたいな人を引き合いに出すまでもなくオタク的というに等しいのでこれも、ファミリー悲喜劇とヒッチコックスタイルの焦らして焦らして焦らしてサスペンスを基調にしたちゃんとした映画の体裁をとりつつグロイ海棲怪物とか出てくるのでちょっと笑ってしまう。
そのシーンのホラー演出に力が入ってるんだまた。なんかマカロニ系の陰惨ゾンビ映画みたい。ルイくんのママが窓越しの視線に気付くシーンもマリオ・バーヴァの『ザ・ショック』みたいな感じだったから隠しても隠しきれないアジャのホラー愛です。べつに、隠す気もないのかもしれないけど。

冷静に考えればこの筋立ては若干かなり相当わりと無理がある。が、その無理を押し通すために憎まれ口を叩き続ける昏睡中のひねくれ子供(手加減のないクソガキっぷりが実にチャーミング)を語り部にしているのだろうから、それでなにが問題かって感じすね。空想の波瀾万丈はおもしろい。
感想なのにほとんど内容に触れていないが、それはつまりお話が面白かったのでネタバレしたくないという思いの表れなので、なんか察してください。

あと良かったのはあの人、なんか色々思う所もあるようだが感情を押しつぶして仕事に徹してる風の中国系の刑事さん、テリー・チェンという人だそうですがえらい存在感あったな。
端役の人がちゃんと世界の一部を支えてるって感じられる映画って良いよね。いやあ、面白かったですよほんと。なおホラーマニアのアジャであるからこれはこのオチはあれとかあれのオマージュのつもりだったのではないかとニヤニヤしたが完全にバレネタなのでお得意の反転処理で済ます。

『怪物はささやく』と見せかけて『パトリック』とか『ザ・センダー』!

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悲劇なんだか喜劇なんだかよくわからないが人生そんなもんだろう的な滋味深系諦観が通底。

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