拷問パニック映画『デトロイト』の感想

《推定睡眠時間:0分》

デヴィッド・ボウイの曲にもあったなぁ、『Panic in Detroit』というのが。監督キャスリン・ビグロー。題材67年デトロイト暴動。サイバーパンク風ハードボイルド世紀末暴動パニックお祭り騒ぎな『ストレンジ・デイズ』っていうのビグロー撮っていたからなんかそういう系統かなあ。

…ぐらいの認識で劇場に突入したところまったくもって陰に惨で勘弁してくれってなる。テンション沸騰の疑似戦争アクションサスペンスに備えて大スクリーンをどーんと仰ぐ最前列中央にでーんと陣取ったらがーんと見せつけられたのはウィル・ポールター演じる白人傲慢警官の大狼藉でした。パニックなのはデトロイトよりもこいつの方だった。

おもしろいなぁと思ったのは暴動の映画なのですが暴動参加者の方が冷静に見えるというか、火焔瓶投げまくったり略奪しまくったりしてるくせに妙に冷めていて、この人たちはこんなんで別に何か変わるとも思ってない。単なる憂さ晴らしの自覚と諦めがある。かのように描かれている。かのように見えた。

だが事態の収拾に当たる州兵・州警察・市警察のそのまた末端の人間にとってはそうではないわけだ。まるで南北戦争が再来したかのような大動揺っぷり。憂さ晴らしの黒人蜂起は白人優位の盤石体制を疑いもしなかった阿呆どもの目には紛れもない革命と国家の危機に映ったのである…かどうかは知らないが!
自らの犯罪を犯罪と自覚しつつシニカルに事を遂行する連中よりも犯罪を取り締まるために自らの犯罪に目をつむる連中の方が、その目的が自己完結しない分だけ抑制が効かないという話ではあった。

映画はセミドキュメンタリータッチの群像劇になっていて、適宜当時のニュースフィルムや報道写真を引用しながら67年デトロイト暴動を緊迫感ありありに鳥瞰再現、憤怒と暴力と倦怠の同居するデトロイトの風景はたいへんな見応えも本題はそこではなかったね。

焦点が当たるのはアルジェ・モーテル事件。暴動下デトロイトの警ら中に銃撃を受けた(?)市警・州警・州兵が狙撃手の潜伏先と目星をつけたアルジェ・モーテルに突入、滞在していた黒人白人に拷問まがいの尋問を加えているうちに虐殺の様相を呈してくるというおぞましい事件で、暴動デトロイト群像はここに収束するからちょっと『パニック・イン・スタジアム』みたいなパニック映画っぽい趣。

アルジェ・モーテル事件は実際に起きたとはいえ藪中案件らしいのでリアルとか事実からは多少距離を置いて見る必要があると思うが、いやそれにしてもひどい話。超震撼。
なにが震撼ってひどすぎてコメディに見えてしまうところが震撼ですよ…市警バカすぎるだろみたいな…まぁ安全地帯からはなんとでも言えるわけですが…。

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そういうわけでデトロイト大パニックは途中から凄惨系密室劇みたいになってくる。その模様はなんだかスタンフォード監獄実験とかミルグラム実験のようだ。
実際、心理学実験のような映画なんじゃないかと思ったな。ストーリーを見せるというよりは、ある状況を設定してその中で人がどう反応するかということに主眼が置かれているような印象強め。

映画は黒人パーティのガサ入れから始まるが、そこで警官がちょっとしたガサテクニックを使う。個室の中にガサターゲットを一人だけ連れてって実際には殴ってないのにぶん殴る音と怒号を外の連中に聞かせる。すると音に恐怖した部屋の外のガサターゲットは大人しくなって警官に従うのだった。修辞ではなく字義通りに実験的な導入部。

こうしてデトロイト実験が始まるわけだ。暴動の実験。街を破壊してみたら白人どもはどう動くか。鎮圧の実験。州兵の出動でデトロイトは仮想戦場と化す。その終着点がアルジェ・モーテル実験で、暴動下の人手不足でなんの実績も能力も教養もないが職務には変に忠実な新米警官が銃撃犯人捜しゲームに駆り出された時に、いったいなにが起こるかっていうシミュレーションなんだとおもいましたねこれは。

段々悪化していくモーテル内の状況に対して州警察とか州兵が取る行動の冷徹な描写とかも含めてのシミュレーションで。そういう意味ではあの新米警官クソ憎たらしいクズだけどあいつばっか悪人として見てもしょうがないってところはあるな。
暴動シミュレーションから見えてくるのは組織とかひいては社会の構造の問題で、唯々諾々とそれに従う人がいないと組織とか社会とかは回らないけど、唯々諾々と従うだけの人が管理職的なポジになったら刻々と変化する状況に全然対応できないから逆に組織回らなくなるじゃんみたいな、そういうのが露になる。
こわいよね、外部の目も社会倫理も何も通用しないし理解できない会社一筋人間みたいな人…俺も前のバイト先で厭な目に遭わされたよそういうやつに…。

ミルグラムが実験レポート『服従の心理』で殊更おそろしいものとして描写した被験者がそのまま抜け出してきたようなザ・凡庸な悪を怪演の ウィル・ポールター、滑稽も狂気も卑屈も蒙昧も全部遠慮なしにぶっ放してくるからひたすら濃い凄い疲れるけど面白い。なんか今月の新作映画こんな悪役ばっか出てくる気がするな『ブリムストーン』とか『伊藤くん A to E』とか。

新スターウォーズでは二作目になってもまた個人的にしっくりこないジョン・ボイエガはこっちだと超よかった。シドニー・ポワチエみたい。毅然として、内に怒りは秘めてるんだけど表面には出さないで、事態の収拾を第一に考える理性の人。
一応主役格もこの人をストーリーの主軸にしない、というのが渋い作り。頼りになりそうなキャラに頼らせてくれない。それにしても新スターウォーズでもこの映画でも不遇な役回りだ、ボイエガ。

暴動実験の強烈に比してエピローグは通り一遍で精彩を欠いた気がしたがそうは言ってもエピローグなしで映画館から放り出されたら鬱る映画だからな…歌手の人の選択とエンディングの歌でホッと胸をなでおろす。べつにしあわせな結末というわけではないが希望はあるので。

2018/1/28 ※多少追記済み

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『パト2』に『コンプライアンス』ぶっ込むとたぶん『デトロイト』が合成されます。

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さるこ

こんにちは。推定睡眠時間0分!
私はいつも映画館にコーヒーを淹れた水筒を持ち込むのですが、今回は一滴も飲むいとまがありませんでした。囚われの身でした。『スリービルボード』では〝クズ〟警官の上司が黒人になりましたが、まあ、時代は流れてるよ、ってことなのかな?たまたま見た日が接近してたので、何となく。

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