ヤクザ大暴れ映画『孤狼の血』感想(基本的に見た人向け)

《推定睡眠時間:0分》

いやバリバリのヤクザものだと思っていたのでわりとミステリーの比重が大きいっていうのは結構な誤算だったんですよ。中盤あたりで伊吹吾郎の組から敵対組を三日以内に挙げろみたいなことを言い渡されるじゃないすか、悪徳刑事の役所広司が。じゃないと抗争だぞコノヤローみたいな感じで。
ヤクザ社会の均衡を保つためなら法を破ることも厭わないのが役所広司なわけじゃないすか。だからこれ役所広司的には大ピンチなわけじゃないすか。警察的にも一大事じゃないすか。でもなんか妙に緊張感が湧いてこないっていう。

なんでだろうと考えていてハタと思い当たったのはヤクザ側の動き、あんま出てきてなかったなっていうそこで。役所広司の正体が云々のミステリーの部分と松坂桃李の正体がバレないかのサスペンスが物語の中心になっているからヤクザの抗争っていうのはそれ自体どうでもいいっていうか、役所広司と松坂桃李の相克の背景にしかなってなかったなぁっていうの思って。

そういう具合に想像していたイメージとのズレが俺の中でかなり大きかったというのがあんまノレなかった一因。なんですけどでも正直言えばぶっちゃけ最初の東映三角マークが、今の若干スタイリッシュなやつじゃなくて例のみんなお馴染みの東映三角マークが、グラインドハウス的エフェクト付きで出てくるところで既にうーん? みたいな。
それでその後ナレーションで時代背景が説明されるストレートな実録路線オマージュでうーん…ってなっちゃって。あぁこれ俺ダメかもってもうかなり早い段階で感じたりはしていたんだ実は。

いや俺はですね本当こういうの苦手なんですよ。タランティーノ的な小手先のくすぐりっていうか…タランティーノ&ロドリゲスの『グラインドハウス』とか全然面白くないし。全然面白くないっていうかあの2in1映画のそれぞれの作品は面白いし嫌いじゃないんですけど『グラインドハウス』っていう企画としてやることが全然面白くないって話で。
だってオタク的パロディにしかなりようがないんですよそんなの。ロドリゲス編の『プラネットテラー』ってグラインドハウス的エフェクトをギャグにしてる場面がたくさん出てくるじゃないすか。状態悪くなった部分のフィルムを切った劣悪プリントで上映してる設定だから肝心な場面がジャンプカットみたいになっちゃうとか。

あれ笑えて好きなんですけど、でも今の映像技術とか上映形態とかでもって、しかも興行的にも批評的にも既に実績のある人たちが集まってわざわざグラインドハウス的な映画を再現するっていう、それ扱う題材に反してサロン的な戯れになってるよなぁっていう風に思ってるわけです。それが、嫌。

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だからこれも最初の実録路線オマージュがオマージュっていうかパロディに見えちゃって大丈夫かなぁ? ってなるわけ。それでその後に出てくるパチンコヤクザがさ、いかにも悪いだろぉ~みたいなヤクザで…ヤクザっていうか山賊だよね見た目。
それでもうヤクザ映画的な興はけっこう削がれちゃって…そしたらもうなんかその後の抗争がどうみたいなヤクザ群像が全部つまらないパロディ的な書割に見えてきちゃって、という次第。

役所広司と松坂桃李のお話として見ると面白いところあったと思うんですけど、でも俺はやっぱキツかったな。ヤクザ描写のつまらなさが役所広司がああなった動機の部分まで潰しちゃってる気がしたんで。
なんか、残酷な方法で人を殺すとか。セクハラはもちろん女を平気で犯そうとするとか。エロ描写グロ描写は結構なものだったんですけど(特に藤原カクセイ作の腐乱死体は素晴らしいの一言)、でもヤクザの怖さとか面白さってそういうことすかねぇ…少なくとも東映実録路線ってその手の即物的な描写でヤクザの輪郭を描いてはいなかったと思うんですよ。ヤクザ社会の構造をしっかり描いてそこからヤクザの怖さ面白さを炙り出すって感じで。

あとあれです、伊吹組の若頭を張ってる江口洋介が言うじゃないすか、ヤクザは顔でメシ食ってるんで、みたいな事を。その顔はメンツの方の顔でしょうけど文字通り顔でメシ食ってそうなヤクザが出てこないのも萎えるところで…伊吹組のシマにあるクラブのママが真木よう子で、それも無理あるだろうって思うんですけど真木よう子ママと付き合ってる息吹組の若手がヤクザどころかチンピラ感も希薄な普通の人の良さそうな若手で…それがそういう逆転の発想っていうんじゃなくて本当に普通の良い人が無理矢理ヤクザの役をやらされてるみたいな感じなんですよ。

たぶんそれ、その人の演技が悪いっていうんじゃなくてあんまりヤクザに興味のない映画ってことなんだと思ったな。息吹組の敵対組織に嶋田久作とかいるのに全然存在感がない。石橋蓮司はいつもの石橋蓮司をなぞるだけ。伊吹吾郎の出番は僅かで、物語になんら影響を与えない劇的な添え物感だ。
東映実録組の訃報が続く中で伊吹吾郎は数少ない現役バリバリの実録当事者じゃないですか。『脱獄広島殺人囚』に半裸で登場して「やばい…こいつは本物のヤクザだ…」と松方弘樹を怯えさせた伊吹吾郎がそのポジションってなぁ。

それと反比例して矢島健一とか田口トモロヲとかっていう刑事の面々は物語には直接絡まないのに生き生きと血が通ってるように感じ。
なんすかねぇ、そのへん『県警対組織暴力』を念頭に置いてるんだと思いますけど、と同時に思うのはやっぱこれ不良に憧れる良い人が背伸びして不良っぽい格好してみましたみたいな映画だったんじゃないねぇかなっていう、そう思わせる善性が前に出すぎちゃってる気がして、それがヤクザの締め付けが厳しくなる中での劇場用ヤクザ映画の表現の限界なのか、それとも作ってる人の素質なのかはわかんないんですけど、なんにせよこれはやっぱり俺には厳しい映画だったよ。

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寝起き一番でシャブかけスイカを頬張ったりシャブシャブにシャブをふりかけてシャブシャブシャブや! とか言っていた狂人ヤクザの役所広司を見てもらえれば俺のガッカリ感も多少わかってもらえると思うので見てない人は見てくれでもシャブは絶対禁止な。

↓原作

孤狼の血 (角川文庫)

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