映画版『終わった人』の感想(途中からネタバレ含)

《推定睡眠時間:0分》

定年ラスト出勤の舘ひろしがいよいよラスト定時に近づく時計をボケェーっと眺めているファーストシーンが『アバウト・シュミット』と完全一致。
定年って生前葬だなぁとボヤくゾンビワーカーの自分探しムービーなので『アバウト・シュミット』なのでしょうけれども自分を探す範囲がカルチャースクールと古本屋とかなのでアチラと違ってあんまり本気で探してくれない。

こういう定年オッサンおるんだろうな、自分を探そうにもまず探し方がわかんないっていう、仕事でも私生活でも敷かれたレールの上しか走ってこなかったので、そのような身の処し方しか学んでこなかったので、会社から放り出されたらもうどうしていいかわかんないっていう人。
物語が始まるのは定年退職その時からですが舘ひろし演ずる荘介は大手銀行の出世コースを外れて関連会社に出向させられた人、というわけで本社勤務に続くレールから外れた時点で既にゾンビ化していたのだった。

それはそれで時代の犠牲者という感もあるので広く探せないなら1カ所深く掘ればおもしろいものも出てくるんじゃないかと思うがそういう書き方をしているということは要するにそんなにおもしろくなかった。
無論ぼくも大人ですからあまりおもしろくないだろうとある程度わかった上で観に行ってますがキツイ映画ってあるじゃん。面白い/面白くない軸とは別にキツイ軸ってあるじゃないですか。
キツかったよ加齢臭強くて。中高年にはこういう演出が刺さるだろうみたいな計画的加齢臭がキツくてあぁこれは俺みたいの客として想定されてないわみたいないや! それもわかってますけどれども、わかって観てますけれどもでもキツイ加齢臭。覚悟でどうにかなる問題ではない。

例。コンビニで買った鮭弁当の切り身の薄さに「薄っ!」の声を上げてしまう舘ひろし、というシーンがありますがその切り身が厚さ1cmぐらいっていうこれ加齢臭つらくないこの画。そんな弁当ねぇだろのリアリティよりリーダビリティ最優先の画作り、中高年向け越えて中高生向けになってないむしろ。
例2。暇を持て余して徘徊していると前からジョギング中の若い女がやってきて「えっ!」の声が出ちゃう舘ひろし。胸を揺らして走ってきたことに対しての「えっ!」にしてはバストサイズ普通じゃないっていうのとバインバインの効果音。あと「えっ!」はねぇだろ、「えっ!」はいくらなんでも出ないだろ。やっぱ加齢臭つらくない。

こういうわかりやすい映画というのはそれ自体悪いものではないと思うがしかし、しかしですよ…これはちょっと製作サイドがメイン客に想定していると思われる中高年男性の理解力を低く見積もりすぎて子ども教育ビデオもしくは老人レクリエーション化してないですかね…。
いや俺が知らないだけであぁいうのはノスタルジーを喚起する懐古的ベタなのかもしれませんがさ、でも仮にそうだとしても加齢臭濃度変わらないよなっていう。

※以下ネタバレ入ってきます

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『終わった人』のタイトルで主演・舘ひろしの出オチ(予告オチ)企画であろうからそんなことを言っても仕方が無い気もするがそれにしても、画もアレなことになっているが内館牧子女史の原作をどの程度反映しているのか知らない(読んでないし読む予定もないので…)シナリオもなかなかこう、ウっとくるものがある。
スポーツクラブに通い始めた舘ひろしは普通にトレーニングに励んでいるだけでマダム方の歓声を浴びる今井翼を目撃する。一体なにものか。その正体は若手IT社長であった。「なぜこんな老人だらけのスポーツクラブに…」「新ソフト開発のためのマーケティングです!」。

こみ上げるなにかを飲み込んで話を進める。ババァネットワークから東大卒の元大手銀行マンの情報を得た今井翼は舘ひろしを顧問にスカウト。馬鹿みたいな展開だがその目的は舘ひろしの経歴で社をデコレートすることだったので変なところで生臭かった。
こうして今井翼の知遇を得た舘ひろしは再び仕事の世界へ。どうせムービング置物だしなにか仕事らしい仕事をやっている様子は画面からはあまり窺えないがレールの上に乗れればそれでよい舘ひろしなので急に生き生きしてくる。

下半身もレールに乗り始めた。レールというか舘ひろしの勃起BGMとしてロケット打ち上げの管制室カウントダウン音声が採用されているので軌道と言うべきであるがそれはともかくとしてカルチャースクールで出逢った絵本作家志望の受付嬢・広末涼子と日本文学を媒介にええ仲になってくるんである。
今井翼と広末涼子。なんすかねこれは10代とか20代だとまず顔を知らないし若すぎて未知カルチャーのカウンターに遭う危険性もあるが30代のそれなりに世間を知った社会人なら表面的にであっても年長の自分を立ててくれるからオッサン観客も安心して自己を舘ひろしに投影して溜飲を下げられるとかそういう感じのキャスティング判断だったりするんですかね。

オッサンのためにまだ広末涼子を演じる広末涼子が不憫でならないがもっと不憫なのは今井翼で舘ひろしと一緒に歩いていたら過労による心臓発作と思われる詳細の説明されない何らかの病に襲われその場で死んでしまった。えぇ!
結局は今井翼も広末涼子も舘ひろしの肩書きやポジションを求めていたのであって舘ひろしの本体はわりとどうでもよかったという話なのだから舘ひろしも可哀相だが、待遇の酷さという意味では館ひろし及びオッサン客を勃ち上がらせるためのエロ要員として客席に向けては広末涼子を演じ舘ひろしからは若干の不自然なボディタッチと同意なきホテル誘導を受ける広末涼子と舘ひろしを持ち上げるためだけに(作者に)殺される今井翼の方が勝ってしまうよな…。

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事実、今井翼は舘ひろしのために供される生け贄であった。亡き前代表の一存で顧問の座を得た自分が社に残っては新代表も椅子の座り心地が悪かろうと今井翼の死を受けて辞意を表明する舘ひろしだったが全社員を前に退任の辞を述べている最中、新代表から自分の代わりに代表を務めてほしいと懇願されそのまま代表の椅子に座ってしまう。えぇ!
ある種、異世界転生的な。当然(?)舘ひろしの就任後に会社が倒産するシナリオ的既定路線なのであるがその理由が取引先のミャンマー企業(うろ覚え)が政情不安で潰れたからというもので、舘ひろしと仲間たちはみんなブチ切れていたが大手銀行並びに関連会社勤務ウン十年の顧問がその分かりやすいリスクを読めなかったという点は不問に付され、オッサン客が気持ち良くなれるようアジアの新興国のせいで俺たちは的な仄かな責任転嫁がなされるのであった。

アジア人の表象。舘ひろしがうっすい鮭弁当を買うコンビニの店員は東南アジア系っぽい人なのだったがコンビニ定型句の語尾をわかりやすく間違えるうっすいアジア系の外国人表象。
加えてアジア系外国人店員はマニュアル通りにしか対応できないというわけで舘ひろしが一旦家に持ち帰って食ったコンビニ弁当を店内ゴミ箱に捨てようとするとその店員から「家のゴミ捨てるのダメ!」×3を食らうというシーンがあるが、これはその、どの視点からどう見ればいいんだよ俺はって感じになるな(こんな生真面目な外国人コンビニ店員は早々いねぇよ普通ゴミ捨てぐらい黙殺するよとでも言えばいいのか)。

これら諸々の加齢煙幕をくぐり抜けて舘ひろしが故郷・盛岡に舞い戻る後半は俄然おもしろく見られたので仕事とか広末にうつつ抜かしたりしないでさっさと里帰りしたら良かったのにと思うが、いきおいやっぱ故郷だよね的なところに物語は着地した(盛岡で震災復興NPO職員になる)のでゼロ感情移入の方向から見ても最後はスッキリという奇跡。
故郷に帰りたい舘ひろしの心情は上京組オッサン客のハートを握ったかもしれないが同時に舘ひろしを故郷に追い返したい俺の心情も握ったので、また前半部の加齢臭もラストから逆算すれば映画的に首尾一貫性があるというものなので、よくできているなぁと思うのだった。

あとちなみに全然触れてませんがそこに自分の店を開こうとする美容師の妻(黒木瞳)とか絡んできて仕事をバトンタッチする形になるっていうのもよくできたもんですよね。
高校時代にラグビー部主将だった舘ひろしが勝利を得たい一心でチームメイトに反則を指示するシーンとか実に時宜にかなっているな。

【ママー!これ買ってー!】


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というわけで『アバウト・シュミット』です。

↓原作

終わった人 (講談社文庫)

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