【ネッフリ】びっくり映画『ホールド・ザ・ダーク』感想文(ネタバレ途中から)

《推定ながら見時間:15分》

これはちょっと色々びっくりした映画なのでせっかくのサプライズ体験を削ぐような記述はひとまず後回しにするとして(ちゃんとその前にアラート出しますから・・・)、大丈夫な方のびっくりに関してまず書いておくと俺はこの間までやってた『ウインド・リバー』というネイティブ・アメリカン居住地を舞台にしたヘビィなミステリーが年間ベスト級に面白かったのですが、これ『ホールド・ザ・ダーク』、めっちゃ『ウインド・リバー』と対になる映画だったな。

どっちも主人公が森林動物に詳しいハンター系の人で。舞台になってるのがそれぞれ深アメリカのワイオミングとアメリカ辺境のアラスカと地理的に対照的などっちも雪の深いところで。
でなんというか一番そこで立場の弱い人が悲惨な目に遭って、そこに先住民と入植者たるアメリカ白人の構造的格差、憎悪と差別と搾取みたいのがぐちゃぐちゃに絡み合ってうわもうなにこれ闇、超アメリカの闇じゃんみたいな。

『ウインド・リバー』の方の先住民はワイオミングなのでネイティブ・アメリカン。『ホールド・ザ・ダーク』の方はアラスカだからイヌイットかなぁ、と思っていたら俺はネッフリオリジナルの映画はだいたい吹き替え+CC付きの英語字幕で見ているのですが、この先住民の人たちが自民族の仲間と話している場面でYup’ikと字幕に出、このユピクというのはイヌイットとはまた別のエスキモーの下位民族集団らしい(ウキペの受け売りだから心許ないが)

映画はこのユピクの人たちが住んでいる糞辺鄙な雪深い集落からのお便りを動物詳しい作家兼狼ハンターのジェフリー・ライトが受け取るところから始まる。
前略、作家の人。あなたの本読みました。狼倒したんですね。すげぇ。実は私の息子が狼に攫われました。助けて下さい息子攫った狼殺して下さいお願いします。

こんな手紙でよく行ったなと思うがジェフリー・ライトはそういうわけで集落にやってくる。
なんと寓話的な。そこはさすがにアメリカ映画というわけで、この一見よくわからん行動も娘と疎遠になったジェフリー・ライトが手紙を書いたヤングマザーに娘を重ね合わせた、失った娘を象徴的に取り戻すための代理行動としてヤングマザーのそれと対になっていたりするが、そんなことよりこの濃厚なダークメルヘン感だ。

早速狼ハントに出かけようとしたジェフリー・ライトだったがシャーマン的なババァにヨソ者は邪悪を運んでくる帰れ! と怒られる。
近所のユピクの男たちに挨拶しに行ったら(そんな悠長な状況ではなかったが)この人らユピクの言葉でひそひそ話してて全然相手にしてもらえない。
寒いしなんかここの人たち危ないっぽいからさっさと寝ようと布団に入ったらお手紙の主が異邦人の歓待か、依頼者としての報酬か、全裸でお布団に入ってくる。それになんだか祈祷の声が・・・『ウィッカーマン』かい。

なにがなんだかわからんがともかくのっけから異様かつメルヘン。神経症的に些細な環境音を拾っていく音使いと陰影の濃い撮影が生み出すこの呪術的ムードはなかなかすげぇ感じであると書いて以下ネタバレ入りつつの感想にシフト。

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ところで『ウインド・リバー』とこの映画を並べて見た時に面白いのがこのユピクの人たちとワイオミングのネイティブの人たちは今に至る経緯は異なっても今現在置かれた棄民的社会ポジションはそんな離れてないということと、『ウインド・リバー』の方は真っ当な市民権すら与えられないまま中途半端に白人化されてしまって自民族の原文化にもアメリカ的白人文化にも帰属できない先住民の姿が悲劇的な色彩を帯びていたが、『ホールド・ザ・ダーク』の先住民は白人文化への迎合を最後まで拒んで自民族の文化(風習・神話・掟とか)にあくまで固執したことが悲劇の呼び水になったりしていて、先住民の二つの悲劇がここでは相反しつつ重なっているということだった。

というわけでこれは書かずにはいられない子ども死なれ妻逃げられユピク男による中盤の大銃撃戦というかテキサスタワー的なスーサイド大銃乱射である。
『ウインド・リバー』の銃撃戦もすごかったがこの銃乱射もすごかった。片や引っ張って引っ張って引っ張って緊張感がピークに達してからの発砲そして銃撃戦、片やまるで日課でもあるかのように無造作に発砲してただただ警官隊が死んでいく銃乱射、と演出まで目指すところが逆を向いているが、これがまた面白いのは『ウインド』(もう面倒くさいから略す)の銃撃戦が各々の領土と生命を守るための防衛戦だったのに対して『ホールド』のそれはただもう破壊、安全な領土を自分の命と引き換えに戦場に変えるローン・ウルフ的なテロ志向、というところ。

そのことが意味を持つのは色々あってジェフリー・ライトが追うことになるヤングマザーの夫、アレキサンダー・スカルスガルドが中東のどっかの戦場でスナイパーに(ユピク男がそうしたように)撃たれて帰ってきた人間だからだった。
集落に帰ってきて息子の死と妻の失踪を知ったスカルスガルドが何をするかと言えば警官と住人を津山三十人殺しもかくやといった調子でぶっ殺し始めるんである。ええっ!

だいたい事の発端からしてなにがなんだかわからない映画なのに中盤で何の前触れもなく唐突にそんなことされたんでめっちゃ驚いたがその後でスカルスガルドが狼のマスクを被るように、あるいは『ウインド・リバー』と被るように、ついでに言えばスカルスガルドがやっぱりパートナーを失い途中から殺人マシーンに豹変するダンカン・ジョーンズのネッフリオリジナル映画『MUTE』とも謎のキャラ被りを見せるように、行為と出来事の二重化、対比、厳格な互酬性といった部族性が根底に置かれたシナリオと考えればこれも、案外サプライズでもないのかもしれない。

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砂と雪の対比。我々はどこだか知らない中東の片隅を破壊して女を犯し子どもを奪ったから、我々もまた女を差し出し子どもを差し出しアメリカの片隅の我々の町を破壊しなければならない。
ヤングマザーがジェフリー・ライトに身体を差し出し殺させようとすることはまた彼女自身が望む息子殺しの代償として二重化される(ところでこのヤングマザーは『マッドマックス 怒りのデスロード』でガールズの一人だったライリー・キーオだったのでまた部族の掟に縛られるのか、という感じになる)

異邦人と先住民。スカルスガルドはスウェーデンの俳優でそのことは劇中でも言及されるが、彼は中東のどこかでも異邦人で、あのユピクの集落でも異邦人で、そこで視点を変えて(別にこっちが変えなくても勝手にくるくる視点が変わる映画なのだ)見てみると異邦人ジェフリー・ライトにとっては彼がそこの先住民なのだが、アメリカ内地からやってきたジェフリー・ライトはスカルスガルドにとっての先住民になる。

警官が乱射ユピクを説得する。俺たちは水道も電気も引いたんだ。これで前より暮らしが良くなったはずなのにどうして憎む?
同じロジックはスカルスガルドも戦地で、今度はそれを発する側として経験したことだろう。で、言われた側の答えは乱射と殺戮であった。
超余談ながらこのロジックは『マッドマックス 怒りのデスロード』でイモータン・ジョーを突き動かしたものでもあるな。

異邦人の両義性。彼は文明の恩恵と救済をもたらす者でもあり、共同体を破壊する者でもある。子どもを救いに(?)集落を訪れたはずのジェフリー・ライトもだから、シャーマンババァから悪魔の手先呼ばわりされなければならなかったのだ。
この集落では誰もが誰もにとって異邦人であるし、同時に先住民でもあった。スカルスガルドとジェフリー・ライトの二人の異邦人先住民がその境界線を曖昧にしてしまうんである。

スナイパーの襲撃で傷を負ったスカルスガルドが輸送ヘリに乗せられて帰還すれば、それと呼応するようにジェフリー・ライトはスカルスガルドの潜伏地にセスナで降り立つ。
スカルスガルドはスナイパーに殺されなかったのだからジェフリー・ライトもまた殺されずにスカルスガルドに逃がされるのだった。

それはさすがに偶然だとしても『ウインド』が主演ジェレミー・レナーに対して『ホールド』は監督が『グリーン・ルーム』とか『ブルー・リベンジ』とかのジェレミー・ソルニエのジェレミー繋がり。
ジェレミー・ソルニエとか俺は『グリーン・ルーム』そんなに面白くなかったので急にこんなのでぶん殴ってこられたらびっくりする。こっから逆算すれば『グリーン・ルーム』にもその片鱗がないとも言えないかもしれませんが(辺境とか異邦人とか法を超えた部族的共同体の掟とか)

どこまでも見えざる掟に縛られた二本ですが『ウインド』と『ホールド』の根本的な相違点はどこにあったかと考えるに『ウインド』は超越的な裁定者としてジェレミー・レナーが事件を解決に導いて、崩壊した秩序と領土の境界線を回復していくわけですが、『ホールド』はその題名に偽りなしのダークエンド、境界線の画定できない、そこにいる誰かが異邦人か先住民かあるいは狼かも何も決められない暗闇の中で、安全な領土なんて入植者に都合の良いお伽噺で、超越的な裁定者なんか存在しないと宣言する、とその点に尽きるように思う。

監督・脚本のテイラー・シェリダンが自ら『ボーダーライン』に続くフロンティア三部作と位置づけているように『ウインド』は入植者の幻想なんである。
ダークメルヘンのスタイルを取っているくらいだから『ホールド』もまた幻想で、ただしその幻想は被入植者の、昼の場面ばかりの『ウインド』に対する夜の幻想なのだ。

寂しげな子どもみたいな眼差しに肉食動物の凶暴を宿すスカルスガルド、『MUTE』に続いて無垢サイコっぷりがすばらしかった。ネッフリ映画界のマッツ・ミケルセンとして今後もこういう渋いやつどんどん出てほしい。

【ママー!これ買ってー!】


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『ウッドストック』の監督マイケル・ウォドレーたぶん唯一のフィクション映画にして昼の論理を夜の幻想が浸食する系のネイティブ・アメリカン&狼映画。

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