俺が東京国際映画祭に行くようになったのは二三年前からなのだが毎年行く度に東京国際はコンペのレベルが低いとぶーぶー文句を言っている気がする。いや、だってしょうがないじゃない実際低いんだから。そりゃ中には良い作品もあるけどこんなもんコンペ作に選出するなよみたいなのもゴロゴロあって玉石混交、作品ごとのレベル差がちょっと大きすぎるので曲がりなりにも国際映画祭としてあるべきレベルのキュレーションが本当にできているのか甚だ疑問。なんか知らんけど「あんま面白くないけどバランス取ってこの国の映画も一応一本入れとこか」みたいな雑なキュレーションしてない? いや、していない、していないと思います! すいませんすべては私の妄想でした! シンゴー! シンゴー! なぜ急に草彅剛の全裸事件を蒸し返すのか?
はい、ということで今年の東京国際映画祭で観てきたコンペ作5作の感想でーす。タイトルの後ろには英語題が付いてまーす。本当はコンペより『MISHIMA』が観たかったがチケット取れませんでしたー。
『飛行家』(Take Off)
《推定睡眠時間:50分》
エンジニアの父親から空を自由に飛ぶ夢を受け付いた男の半生を描く映画。中国映画といえば(?)パラシュートの代わりに着用すれば滑空できるモモンガスーツ推しですがこの主人公はモモンガスーツにジェット推進まで付けてるので『アイアンマン』みたいに空を飛べる。それを使って悪人退治とかは別にしない(一発芸企画みたいなのには出る)
つまらないわけではなく普通に楽しめる娯楽ヒューマンドラマだがその普通がコンペ作としては問題で、こんなもん普通に劇場公開すればよくてわざわざ国際映画祭のコンペに出す程のものじゃあないだろ。いやまぁ興行のプラスにするために国際映画祭に出して箔を付けるというのはみんなやることなので出すのは悪いことじゃないけど、これをコンペ作として通す国際映画祭のコンペ作選出委員の人たちにはやる気あんのかおめーと思いますよ。なんか中国最新娯楽映画特集みたいな枠をコンペとは別に作ってそこで上映すればよかったんじゃない? 最近は中国映画の熱心なファンも多くなりましたし。
『アトロピア』(Atropia)
《推定睡眠時間:0分》
時代設定は2007年ぐらいだったかなぁ、ネバダ砂漠とかあのへんにイラク市街地を模したハリボテの街があって、これからイラク派兵予定の実戦経験のない新兵たちがここでイラクでの任務のシミュレーションをする。シミュレーションの精度を高めるために街にはイラク住民役の人たちが住み込みで働いてて、その一人で女優志望の人が主人公。なんでも近々このアトロピアにハリウッドスタァが役作りのためにやってくるというので主人公は売り込みをかけようとするのだが、はたして上手くいくだろうか?
これは面白かった。ハリボテタウンでの戦場ロールプレイという題材からは『es』のような陰惨な展開(進駐軍と被支配住民を演じているうちにホンモノの憎悪感情が生じてきちゃったり)をついつい期待……あいや予想してしまうのだが、実際には『マッシュ』×『脳内ニューヨーク』みたいなオフビート・コメディ。とくに物騒な展開にはならず話の軸は主人公の恋愛という穏当っぷりだが、イラク戦争当時のアメリカ国内でいかにイラク戦争のリアリティが欠如していたかをのほほんムードの中で痛烈に皮肉っていて笑える。アトロピアを訪れるハリウッドスタァもしっかりコケにしていてここは見物なのだが、誰がハリウッドスタァを演じているかは観てのお楽しみ。
『ポンペイのゴーレム』(Golem in Pompei)
《推定睡眠時間:70分》
ユダヤ民族のゴーレム伝承を起点として舞台役者たちがユダヤ受難史を語っていく前衛朗読劇をビデオカメラで撮影したドキュメンタリー。こんなもん映画じゃないと言うほど了見は狭くないが朗読劇をほとんどカット割りもなくフィックスで撮っただけのもの(イントロダクションとして超ほんの少しだけフィクションパートあり)を二時間弱観て面白いと言えるほど感性は壊れてない。寺山修司とか好きな人なら面白く観られるんじゃないすかね。知らんが……。
『雌鶏』(Hen)
《推定睡眠時間:0分》
『ハックル』『タクシデルミア』のパールフィ・ジョルジが雌鶏の人生(鶏生?)を描く異色のアニマル・アドベンチャー。全部観てないのにそう言うのもどうなのかと思いますが今年の東京国際映画祭コンペ部門で受賞に値する映画はこれぐらいじゃないすかね。鶏目線(POVじゃないよ)で人間の世界を眺める発想が面白く、似た趣向の映画としてはスコリモフスキの『EO』とかがありますけど、『EO』があまり動物目線を感じさせなかったのに対してこちらはしっかり動物目線なのが良い(戯画化されているけれども)
鶏目線で眺めればありふれた光景もファンタジックな大冒険の舞台に見えてくる。人間にとって鶏の命など取るに足らないように鶏にとっても人間の命なんかどうでもいいから、映画の終盤に鶏の周辺で巻き起こるかなり悲惨な事件も軽くスルーされてしまう。そして鶏は今日も卵を産む。透徹したブラックユーモアを滲ませつつ根底にはプリミティブな生命賛歌が常に流れる、厳しくも優しい見事な寓話だったとおもう。鶏たちの演技も実に達者。
『裏か表か?』(Heads or Tails?)
32ミリフィルムで撮られた(はず)映像が美しいガンファイトのないマカロニウエスタン。鉄道建設に沸く20世紀初頭のイタリア田舎にアメリカからウエスタン・ショウの一座がやってきた。アメリカでは万人にチャンスがあるんだと謳い上げるその興行に触発された地元有力者っぽい人の若妻は夫のDVと鳥籠の鳥のような生活に嫌気が差して夫を射殺、一座のカウボーイと共に逃避行に出る。
オフビートでこれといった事件の起こらない自由を求めての逃避行はおそらく『地獄の逃避行』や『ボウイ&キーチ』といった1970年代アメリカのロードムービーを手本とするもの。70年代アメリカ映画の自由と倦怠の入り混じるあの独特の感じはなかなかよく出ていたと思うが、でもまぁ人真似するだけじゃあんま良い映画にならないんじゃないですかね。映像は良いし現代音楽的な劇判も良くて面白く観ましたけど、せっかくお金もらって映画作れてるんだからもっと自分たちの世界観出せばいいのにって思う。主演女優の人はキレイっていうか好き。