フレンチ・スプラッター後継作映画『ネバーランド・ナイトメア』感想文

《推定睡眠時間:30分》

もはや説明は不要であろうパブリックドメイン・ホラーの最新作、今度はあのピーター・パンを魔改造である。このシリーズを俺は楽しみにしていて『邪悪な国のアリス』だけはセンスもないくせにアート映画ぶっててしょうもなかったがそれ以外のパブリックドメイン・ホラーは全部しっかりB級ホラーとしておもしろかった。さしたる内容もなく、さしたる予算もなく、さしたる学びも……いや、学びに関してはさしたるではなくまったくないわけだが、そんな、観て得るものはとくにないが観ている間は適当に楽しめ怖がれるというパブリックドメイン・ホラーに対する俺の信頼は厚い。

ということで今回もわくわくしながら映画館の席についたわけだが、すると近くの席に女子高生グループがなにやらきゃぴきゃぴしながらやってきたではないか。え、この席で合ってるよね? みたいな会話をしているから映画館に普段はあまり来ないタイプの女子高生たちなんであろう。むろん外には一切出さないが俺は多少うろたえた。ふだんから映画館に来る習慣のない女子高生たちである。おそらくパブリックドメイン・ホラーを観たことはないだろうし、そもそもそういうカスみたいなサブジャンルが業界に存在することすら知らないのではないだろうか。

これは困った……なんか申し訳ない感じになるじゃん! いや、別に俺が申し訳なさを感じる必要は完全にまったくないのだが、とはいえこちらはパブリックドメイン・ホラーという大人の金儲けの都合で生み出された映画群がだいたいどんな世間的評価を受けているか知っているわけである。すなわち、カス。俺はパブリックドメイン・ホラーは必ず観に行くし毎回楽しませてもらっているが、残念なことに世間的には千円も二千円も払ったのにこんな下らないもんを見せやがってといやそれはまだわかるがアマプラとかでほぼ無料で観てるくせにカス映画クソ映画だと噴き上がっている失礼な連中も珍しくない始末で、おめーらこんな映画に何を期待してるんだよバカじゃねぇのかとか思わなくもないが、ともかく、近くの女子高生はおそらくこの映画が世間的にカスと呼ばれる映画であることを知らないわけで、知っている俺としては罪悪感を覚えずにはいられなかったんである。といって「ちょいとお姉ちゃんがた、この映画はね、カスだよ。別の映画を観た方がいいんじゃないかな?」と100%善意の警告をして通報されるわけにもいかないし……。

だがしかし、ところがである。上映終了後、女子高生たち「超怖かった~!」「声出てたよね笑」「てかグロ!」ときゃいきゃい楽しそうに話し始めたではないか! よかったぁ、ピーターパンを自称する単なるジャンキーがひたすら暴力を振るって人体を損壊していくだけのいろんな意味で荒んだ映画だから開口一番「クッソつまんなかったんだけど」「チェンソーマンにすればよかった」とかキレ口調で言われるかと思ってたのに、ちゃんと楽しんでくれたようである。やはり友達と観に行くならコワイ映画というのは今も昔も変わっていないようだ。なんだかイイ話、イイ光景であった。

こんな話を長々と書いているのはもちろん『ネバーランド・ナイトメア』がピーターパンを自称する単なるジャンキーがひたすら暴力を振るって人体を損壊していくだけの映画だからである。とくに終盤30分は予算の無さが如実に窺える狭い屋内でプロレスの如く殴ったり殴られたりを延々と繰り返すだけの中身の無さ。原作リスペクトのゼロ加減はシリーズの中でもトップクラスであり、テキトーな過去のトラウマを抱えたジャンキー男女が魔法の薬と二人が呼ぶおそらくヘロインでネバーランドに逃避しつつ金とかがなくなってくると子どもを攫ってくるしついでに目に入ったヤツを殺すとかそんな感じであるから夢もなにもなくいろんな意味で実にヒドい映画だと思う。

しかし、こと暴力描写に関してはなかなかのハイレベル、これはこの映画を他のパブリックドメイン・ホラーと区別するところで、『プー2 あくまのくまさんとじゃあくななかまたち』もスプラッター描写が激しかったが、痛さを感じさせるという点ではこちらの方がだいぶ上だ。途中で大した意味もなくフレンチスプラッターの嚆矢『ハイテンション』のオマージュと思しき車での追跡シーンがあったから、たぶんアレクサンドル・アジャとかフレンチスプラッター諸作が好きな人が監督した映画なんじゃないだろうか。フレンチスプラッターというがたとえばそれに分類される『ハイテンション』にしても『マーターズ』にしても『屋敷女』にしても強調されるのは暴力であり、その結果としてたくさん出るとはいえ血は副産物に過ぎない。観客に痛さを感じさせる強烈な暴力描写こそフレンチスプラッターの特徴なわけで、この映画はそれを受け継いだと見えるのだ。

その点に着目すれば終盤30分のダラダラと引き延ばされたプロレス的殴り合いもスーパークライマックスに見えてくるんじゃあるまいか。というかそれ以外に見るべきところはあまりないのでそれを見るしかない。いいね。それ以外はだいたいテキトーだけど(※いや、でも、本当はピーターパンの気持ち悪い芝居とかジャンキーハウスの汚し美術とかよく見れば丁寧に作っているんですが)これがこの作品の売りなんだと決めた要素だけはしっかりと作り込む。決して全面的に手を抜いたり、全方位に媚びを売って見所がなくなってる映画じゃない。一本の娯楽映画として骨がある。俺はこういうものがイイB級映画だと思ってるので今回も満足ですよ。なんだかんだ勧善懲悪だから後味も悪くないしね。あの女子高生たちも次は何か知らんけどまたパブリックドメイン・ホラー、観に来てくれるといいな(人魚姫とかピノキオあたり超やりそう)

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