空虚にハッピークリスマス映画『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント』感想文

《推定睡眠時間:50分》

群像劇の名手として知られるロバート・アルトマンの『ウェディング』は結婚の祝いの席に集まった人々の一日を描くものだが、アルトマン群像劇の特徴は俗にグランドホテル形式などと呼ばれるタイプの群像劇、たとえば日本では三谷幸喜の『ザ・有頂天ホテル』などが、最初はバラバラに思えたさまざまな人々のドラマが最終的に一点に収束するという構成を取っているのに対して、収束しない、ということは最初から最後まで個々のドラマがバラバラなわけで、よってグランドホテル映画がそのラストで観ている者に感じさせるパズルのピースがピタッとハマったようなカタルシスが、ない。顕著なのは『ショート・カッツ』だが、群像劇というよりもオムニバス映画に近い印象を観る者に与えるこうした作劇にどんな効果があるかということがこれを観ればわかる。『ショート・カッツ』はその名の通り人間関係の切れ目を描いた映画であり、最初から最後まで平行線を辿り交わることのない群像劇は、現代アメリカ社会に生きる人々の間にある分断を強く印象付けるのであった。

この『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント』も手法としてはアルトマン的な反カタルシスの群像劇だったが、受ける印象はアルトマン群像劇の反対といってもいい。なんせクリスマスイヴである。クリスマスイヴときたらもうアメリカでは無駄にお祭り騒ぎ、ミラーズ・ポイントというたぶん町だと思うのだが、その町でクリスマスイヴに浮かれる様々な人々のとくにドラマらしいドラマもないお祝い模様をザッピングしていく……ときたら分断を印象付けられるどころか観ていてハッピーな気分になるに決まっている。最近日本公開されたショーン・ベイカーの初期作『フォー・レター・ワーズ』もクリスマスが舞台ではないものの学生たちのホームパーティの一夜をアルトマン風の群像劇で描くという点でこの映画によく似ていたが、こちらもやはりハッピーな後味。『フォー・レター・ワーズ』は2000年制作の映画だが『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント』の時代設定は2000年前後なのでその点でも重なり、なにか、アメリカのインディペンデント系の映画監督たちのあいだに、たのしいパーティ模様をただ見せるだけのあるあるハッピー群像劇の系譜みたいなのがあるのかもしれない。

ただ俺は根暗なのでアメリカ人のハッピークリスマスを見せられてもぶっちゃけハッピーな気分にはとくにならないごめんさっきハッピーな気分になると書きましたがウソつきました。いや、ハッピーな感覚はありましたよ。でも気分とまではいかない。ふーん、楽しそうでいいんじゃないすか、が関の山である。なので観ているあいだずっと別のことを考えていた。いや別というのも違うか、アメリカのクリスマスの空虚さ、空虚であるが故の過剰なハッピー感、みたいなものについて考えていた。

クリスマスの歴史講釈を垂れるつもりはないので超かいつまんでしまうと、アメリカのクリスマスはヨーロッパのクリスマスにある伝統と宗教性がほぼ完全に失われた、言うならば宙に浮いた祝祭。それはヨーロッパのクリスマスがカトリックの文化であり、ルターに始まるプロテスタントはこれをキリスト教の一種の堕落と否定的に捉えたためで、アメリカは新天地を求めるプロテスタントによって建国されたものであるから、そのクリスマス祝いはヨーロッパの伝統的なクリスマスとは切り離されているんである。たとえば英語圏でクリスマスの象徴となっているサンタクロースというのも、まぁ今では各国に広まっているとはいえ、ヨーロッパのクリスマスでは伝統的な存在ではないのだ(ただしクリスマスツリーは元々プロテスタントの文化だったものをカトリックのクリスマスが取り入れたので、ヨーロッパのクリスマスと共通している)

いろんな人たちのクリスマスが描かれる『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント』を観るとアメリカのクリスマスはもはや単なるバカ騒ぎの口実以上のものではないことがよくわかる。アメリカのクリスマスといえば家々を飾る絢爛たるイルミネーションだが、これなどアメリカのクリスマスが内実の無い祝祭であることをよく表しているんじゃないだろうか。内実がないからこそ派手に飾って誤魔化そうとする。内実がないからこそ際限なくハメを外して盛り上がることができる。イヤになるとまでは言わないが、そこに空虚さを感じる俺はまぁたぶん珍しい側の人なんでしょうな。みんなそういうの大好きじゃないですか、とくに意味もなくみんなで盛り上がるっていうの。

そんな『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント』でした。とくに面白くはなかったが(空虚な祝祭を通して友好的な人間関係を偽造しようとするアメリカの人の行動様式は興味深かったが)、なんか、クリスマスパーティとかやるときに適当にテレビに流しとく映画としてはいいんじゃないすか? クリスマスパーティなんか行ったことないから知らんけど。

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