世の中だいたいなんとかなる映画『セラヴィ!』感想文

《推定睡眠時間:0分》

渋谷の旧シネパレスで復活したシネクイントのこけら落し上映はこの『セラヴィ!』と『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』なのですが先に観た『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』に俺の記憶違いでなければ(その確率は極めて高いが)ロバート・アルトマンの『ナッシュビル』でトランプ的ポピュリスト大統領候補の予想外の予備選大躍進を報じていたアンカーマンが出ていて、出ていてというかこの人がビリー・シーン・キングとボビー・リッグスの歴史的エキシビションマッチの開催を告げる当時のニュースフィルムが引用されていたのですが、『バトセク』で描かれるエキシビションマッチが73年で『ナッシュビル』の公開が75年だからわりと70年代を象徴するようなアンカーマンの人っぽい。

その『バトセク』マッチの舞台となるのはヒューストンのアストロドームだったのですがスポーツが全滅領域の俺にとってのアストロドームは同じくアルトマンのアホでブラックでファンタジックなニューシネマ『バード★シット』の主人公バッド・コートが鳥人間になって飛行した場所でしかない。
うーん、香るぞアルトマン。そんな香料は確実に使われていない『バトセク』なので観ているこっちの幻覚臭なのですが『セラヴィ!』はふるいお城を借りて行われる結婚式の裏方系群像喜劇ということで『ウェディング』! アルトマンにも結婚式群像喜劇の『ウェディング』があるじゃないですか! 『ゴスフォード・パーク』! アルトマンにも華やかなブルジョア・パーティの給仕群像喜劇『ゴスフォード・パーク』があるじゃないですか!

そのわざとらしい書き方はなんだ。ともかく、誰もそこを気にしてプログラムを組んでないと思うし特にアルトマンと縁がある映画館でもないと思うがなんとなくアルトマンが香ってしまう新生シネクイントのオープニングでしたね。長い。前置きが。

アルトマンを牽強付会ったので俺としては『セラヴィ!』そういう映画という感じ。つまり大好き。たいへん微妙に笑える。すばらしくおもしろい。
お城に集った愚連隊的クセ者スタッフどもが見切り発車で準備スタートした式をなんとかつつがなく終えようとするのだったが当然、うまくいくはずはないのでバラバラグダグダの大混乱に。
でもそんなもんでしょ。そんなうまくいかないけどなんとなく回ってるでしょ毎日。差し迫った問題の最終的な解決も完璧なハッピーエンドも結局はあり得ないのかもしれないけど苦笑しながらなんとなく楽しくやれたらそれでいいじゃないすか…みたいな。

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俺はこういう種類の人生賛歌に弱いので堪えられないのですが、なんでも2015年のパリ同時多発テロに触発されて始まった企画だとエリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュの監督コンビが言っておりー、リップサービスっぽい気もするがそれがまたジンワリと染みてしまうのはアルトマンの大傑作『ナッシュビル』がテロの不安と混乱の中でバラバラに引き裂かれた大衆を“It Don’t Worry Me”がなんとなく繋げるとそのような映画だったからで、直接の関係など別になくてもいいが、音楽を担当したジャズ・ベーシスト、アヴィシャイ・コーエンの“Wedding Song”がこの『ナッシュビル』の混乱よりも遙かに規模の小さな結婚式の崩壊状況の中で果たす役割を目にした時に、思いがけないところで思いがけないものが思いがけず繋がった気がしたのでうわもう超染みるわ、『セラヴィ!』超染みるわぁってなったわけです。いや本当、あそこは最高なんですよあそこは。

音楽、いいっすね。これはもう2018年の俺ベストサントラ決定。ちょっとだけ浮世離れした非日常に連れてかれる“Seven Seas”からエレガントに高揚する感じで始まってですね、それで終始キレていたり自己顕示欲が強烈すぎたり仕事が極端に雑だったりメシとエロの事しか考えてなかったりとかする結婚式愚連隊どもが見事に噛み合わないで場が混乱していくにつれて音楽もジャジーにカオスを帯びてきてこれはあれだな、こういうサントラの構成は『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のとかちょっと近いな。
そっからの“Wedding Song”ときたらもう、たまらんね。で、その隙間を『君の瞳に恋してる』とかアース・ウィンド&ファイアーとかのド定番が埋めるという。

浮世離れした非日常とか書いてしまった。結婚式愚連隊の中にはいちいち人の文法間違いや重複表現を指摘する面倒くさい言語オタクが混ざっているのでそいつに読まれたら即座に横線と赤ペンを入れられると思いますがこの人は『メニルモンタン 2つの秋と3つの冬』で見たふんわり系ハゲのヴァンサン・マケーニュ。
風采上がらない系男子が充実している映画だったのでヴァンサン・マケーニュのほかにもアルバン・イワノフという太い人が出てくる。この人は現場経験もないのに急遽呼ばれた取っ払いの人。ともに冴えないヴァンサン・マケーニュとアルバン・イワノフが横に並んだ時の絵面ね。イイです。イイ。

それにしてもお城を借りてやるぐらい豪勢な結婚式なのに顔も知らん取っ払いの人を使うのか。式を取り仕切るウェディング・プランナー、ジャン=ピエール・バクリがつい(別の)客の値切り交渉にキレる場面で幕を開ける映画なので要するに金がないのだった。
フィジカル寄りのコッテリしたギャグで笑わせるがそこらへんきっちり社会派風。この会社は社会保険とか負担したくないっていうか負担できる経営状況じゃないので取っ払いとか酔っ払いとか使うし低賃金で使えそうな移民とか積極的にスカウトしていく。より安く都合良く使えるので中にはビザ無し系っぽい人も当然いる。

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この移民というが難民っぽいのがスリランカの人。スリランカ難民というと俺にはかなり相当イメージしにくいのですが、おフランスでは比較的カジュアルな社会的課題になっているっぽいと在仏スリランカ難民が主人公のパルムドール受賞貧困バトル映画『ディーパンの闘い』からなんとなく察す。
基本はウェディング喜劇なので移民問題人種問題がどうのという話でもないがざっくり言えばこんな感じですみたいな社会の縮図の観。
フランス文化に迎合するわけでもないしかといって完全に移民コミュニティに引きこもってるわけでもないし、些細な摩擦や衝突がないわけでもないが破局に至るほど深刻にならないし先鋭化もしない、移民の非正規(あるいは非合法)雇用は一義的には搾取であるとしてもまた別の一面では新生活の足がかりにもなっていたり、とか中々スッキリ割り切れないから重層的なモザイク人間もよう。

しかし別にまぁスッキリ割る必要もないという映画なので社会的なメッセージは明快で人種とか国籍とか階級とか性別とか年齢とかその他諸々の人の属性はわりあいグチャッと混ざった方がなんかあった時に柔軟に対応できるしあとご飯とか音楽(アヴィシャイ・コーエンはイスラエルの人だ)のレパートリーがふえるので文化生活的によい。ホロいし苦いが単純明快。
映画に描かれるのはそういう場としての結婚式なのでカーニバルの思想だこれは。アルトマンの諸作と並んで連想したのはジャック・タチの『プレイタイム』で、とくにナイトクラブの抱腹絶倒大混乱が結構重なる感じがあるが、そういう由緒正しき仏製カーニバル映画の系譜の上にこの映画も置かれるんじゃないかというところ。多様性の混乱と破壊の中にこそ融和と創造の契機を見るわけである(W杯の優勝で暴動が! とのニュースも流れてくる中でタイムリーな映画だ)

ちなみに上の暴動はフランス各地で起こった暴動(?)とプッシー・ライオットの決勝乱入をダジャレたつもりだったのですがそんな風なかどうかは仏語を解さない以上はわからないが言葉遊びが非常に多い。
フランス人はダジャレ好き。スタッフがすごい大声で人を呼んでうるさいとかジャイアンリサイタルが開かれたりとかあとなんていうかなドリフで家にパトカーが突っ込んでくるみたいないやもっと大がかりでバカなんですけどそういうコッテリしたギャグの合間合間にダジャレでしょ。めっちゃオッサンじゃん。飲み屋のオッサン仕様じゃん。

と、いうようなことをやりつつメールで送ったつもりの「メッセージ」の語が「マッセージ」に変換されてしまったとかいうメディア思想家マーシャル・マクルーハンの『メディアはマッサージである』(当初「メッセージ」だったが誤植で「マッサージ」になってしまった)引用ジョークを差し挟んできたりする周到さ。
その手があったか仕出し屋の必殺技、堂本光一的ショッキングイリュージョンな隠し芸、高校生ノリのゆるいスリランカ人トーク。おもしろいなぁ、軽い気分でよくよく練られた本気のゴッタ煮。このゴッタグルーヴは乗ってしまうよ。

【ママー!これ買ってー!】


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混乱と破綻が直結してしまう人が多すぎる昨今なので別にあっちでこっちでグダグダガタガタになったところでそう簡単に全体破綻しねぇよっていうアルトマン映画で解毒。

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