キラキラ脱出映画『いなくなれ、群青』感想文(途中からネタバレあり)

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《推定睡眠時間:15分》

奇しくもゼロ年代の邦画業界を賑わせた映像ユニット「群青いろ」の高橋泉が脚本を書いた『スタートアップ・ガールズ』と同日公開だったのでおもしろい偶然もあるものだなあと思っていたら『スタートアップ・ガールズ』の方は近所のシネコンでは公開初週にして早くも打ち切りになっていたのでリアルにいなくなってしまった。やっぱり安易にいなくなれとか言うものではない。

いつのまにか消えてしまった「群青いろ」だったがそれはともかく『いなくなれ、群青』もいつのまにか人が消えてしまう映画。物語の舞台は階段島と呼ばれる奇島で、誰に何に捨てられたのかは本人にもわからないがそこには捨てられた人々が集まってくる。
流刑か! だが島の生活は平穏そのもの。島の外には出ることができずネットは閲覧のみで新作ゲームがダウンロードできないからパッケージ版の入荷を待つしかないとかその手の我慢できない不自由さえ我慢できればお金の心配もなく天国のように暮らせる島である。そしてその島の住民はある日突然、どうしたことか忽然と姿を消してしまったりするのだ。

映画はその島に気付いたら住んでいた後ろ向き高校生・七草くん(横浜流星)の前に元カノの真辺さん(飯豊まりえ)が現れるところから始まって、地方系キラキラ映画の意匠、すなわちインスタ感のあるファジーな映像、料理はできるし優しいし頼りがいはあるしな理想のお兄さんの存在、学園祭とかの学校とか地域の各種定例行事をターニングポイントにしたシナリオ…等々を借りてミステリアスかつキラキラな学園映画として進行していくのだったが、設定が不穏すぎるのでとてもキラキラと青春などしていられない。

そこがこの映画のなかなかおもしろいところで、技術的には雲泥の差があるとしてもその批評性においては山戸結希渾身の反キラキラ映画『ホットギミック』に迫るところがある。あったように思う。
原作由来なのかもしれないが真辺さんが女言葉を使わずに「~するべきだ」「~とは思わない」「~してほしい」ってな具合に中性的な言葉遣いを貫いているのも、生一本なキャラを立たせるためでもあろうけれども、やはりキラキラ映画的な受動的で意志の弱い女子高校生像をぶっ壊す意図があったんではなかろうか。

文句を言わなきゃそこは楽園。自分に課された役割をちゃんと果たしている限りはいつまでも平和。けれどもそのキラキラ世界はたったひとつでも疑問を覚えれば途端に息苦しい監獄に変わってしまう。多くの地方系キラキラ映画がひた隠しにする現実を暴き立てようとするわけだ、この映画は。アッパレ。

はいじゃあネタバレ入りまーす嫌な人は帰ってくださーいオール自己責任でおねがいしまーす。

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その不穏な設定からは様々なおぞましいものを想像してしまうが(臓器売買とか、思想矯正とか、災害で全員死んでましたオチとか)事実はもっとファンタジー、人がいつのまにか連れてこられていつのまにか消えてしまう階段島の秘密とは! いっそゴミ箱にポイしたい自分の嫌いなところを現人格から分離して置いておくことのできる自分墓場であった。

なんだそれは。俺その説明がされていたかもしれないところ寝てたから急なSF展開に驚きが隠せない。っていうか島の外の世界についての言及がないからSFなのかどうかもよくわからないが、まあ寓話的に理解すればいいのかなそのへんは。いいのか? いいも何もそういう映画だったんだからその現実は受け入れるしかない。ないんだよ!

まあなんというか真辺さんの如く言いたいこと伝えたいことがストレートな映画でそのへん好感は抱きますがもう少し論理的に話を進めてもよかったんじゃないかと思わなくもない。大オチに誘導するその手つきはかなり強引に舌足らずだった。
実は島の真実に気付いていた七草くんは島の各所に思わせぶりな落書きを残して(「君たちは鏡の中の君たちなんだ」みたいな)真実を仄めかしつつも平和な島から出たくないので気付かないふりをしていたらしいのだが、その前提としてそもそも真実に気付くと消える「ことができる」ってなんだよとか分離した自我がもう一人の自分として生きてるってなんだよっていう謎ポイントがあるのであくまで真剣な七草くんが滑稽に見えてしまう。

リスカ的に自分でバイオリンの弦を切っておいて切れてしまったことにする音楽部の女子生徒(この人もどうも真実に気付いていたらしい)とか、その代わりの弦を探して全力ダッシュする彼女に惚れてるチャラ系男子生徒とか、とくに何をするでもなく屋上でずっと本を読んでる一匹狼系イケメン(こいつも真実に気づきかけているが行動を起こそうとはしない)とか、キラキラの裏に隠れた痛みを帯びた屈折した青春群青ちがう群像は繊細でよいかったし、そこにどうしても島から出たい真辺さんが少しずつ亀裂を入れていく展開も生々しい緊張感があってよかった。

なので…ざっくりとでもオチに腑に落ちるSF的理屈があればなぁ。このへん好みの問題かもしれませんが結局お前らの感情の問題かよみたいになってしまって、閉鎖的なキラキラを打破して外の世界に目を向けよとか、自分の嫌なところから目を逸らすなとか、現代をぶん殴るポテンシャルのあるメッセージが殴る具体的な対象を見つけられずにふわっとどこかに消えてしまうような、エモでなんとなく解決されたような感じになってしまうのはもったいないなぁと思ってしまった。

ちょっとノベルゲーっぽいツタに覆われた廃墟の灯台やどこまでも群青色の空のこの世ならざる感(東山魁夷の風景画っぽくもある)。横浜流星の鬱屈顔と弱々しいぶっ壊したい衝動の迫真性。真辺さんは島から出たが真実を知っても島に残る人もいる。キラキラはしょせん虚構だが自分から選んだ虚構を壊す権利は誰にもない、という力強い個の尊重。
そういうところ本当よかったんで最後らへんの理屈だけもう少しなんとか…あと録音も所々苦しかったのでそこもできればなんとか…っていう、『いなくなれ、群青』でしたね。結構、なんとかが多かった。

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キャリー・マリガン超かわいい。

↓原作


いなくなれ、群青(新潮文庫)

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