【そこそこ徹底ゲーム考察】『ペルソナ2 罪/罰』(その4)

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前回から引き続き『罪罰』事典。

グランドクロス

惑星直列のことだと思っていたが重なる部分もありつつ異なる概念のようで、ウィキペディアには「西洋占星術におけるグループ・アスペクトの1つで、黄道十二宮上で4つの惑星が十字型に並ぶ配列」と書いてある。なるほどよくわからない。どのみち西洋占星術の話だから占い師の人だけわかっていれば別にいいだろう。その難しい専門用語を流行語にまでしてしまったのだから『ノストラダムスの大予言』でお馴染み五島勉は偉大である。

ノストラダムスの終末予言とセットで語られがちなグランドクロスではあるが、シリーズ一作目の『大予言』にはグランドクロスは僅かしか…というか全然出てこない。『大予言』での五島の関心はもっぱらノストラダムスの予言詩を卑近な実例を挙げておどろおどろしくビジュアル化することに向けられており、その実例のショボさ(ノストラダムスはカーキチ族の登場を予言していた! とか…)には苦笑を禁じ得ないが、これでもベストセラーにはなって一大ムーブメントを巻き起こしたのだから、にわかに理解しがたい16世紀の黙示文学に大衆的かつリアルなイメージを与えることで世間の耳目を集めることには成功したようだ。

グランドクロス(によって引き起こされるポールシフト)がノストラダムスが予言した(?)1999年の破局の原因として出てくるのは未読だが1979年刊行のシリーズ二作目『ノストラダムスの大予言2』らしく、一作目で下地を整えたので多少マニアックな概念を持ちだしても読者は着いてくるだろうという計算があったのかもしれない。このあたりの展開は『20世紀最後の真実』からの『滅亡のシナリオ』とよく似ているし、『罪』の仮面党を引き継ぐ形で『罰』の新世塾が行っていたことと同じである。まず空想的なものを身近なもので実体化しておいて、妄想は現実になると世間に信じ込ませた上でその妄想を加速・肥大させていく。今日のフェイクニュースの作り方も同じであるから、その意味で五島は時代の先駆者であった。

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グランドクロスまで待っていられない。1982年の惑星直列と1986年のハレー彗星の接近により人類は発狂期に突入、恐怖の大王が降ってくるまでもなく世界の終末がやってくると煽るのは日本オカルト界の重鎮・武田崇元が有賀龍太名義で1981年に発表したオカルト・ルポ『ハレー彗星の大陰謀』だ。この本もご多分にもれず『大予言』的な終末イメージを踏まえた(そしてここでも謎のメッセージを残して死んだ友人を追っているうちに…というハードボイルド調の物語が採用されているわけである)雨後の竹の子の一本だが、グランドクロスはもとよりノストラダムスすら出てこず、ニューエイジ科学を援用することで「唯物論的な」破局予想図を展開している点に独自性がある。

グランドクロスの代わりに導入されたのが惑星直列とハレー彗星であり、ノストラダムスの代わりに恐怖の予言者役を務めるのは〈LSD教祖〉ティモシー・リアリーであり…しかし『罪罰』との関連で重要なのは、ここでは破局の恐怖ばかりではなく明確なサイバーパンク的救済の可能性と、霊性進化論を突き抜けて加速主義に達した進化のビジョンが、クトゥルー神話のイメージを背景としつつ語られていることだろう。

宇宙空間の底知れぬ暗闇のなかには、「人類は形成途上の神である」という、あのアドルフ・ヒトラーの声が永遠にこだましている。
ヒトとしてあらかじめ決定づけられた遺伝子を、ヒトみずからが直接的に操作し、間接的にコントロールする。今までそのようなことができるのは“神”のみ、とわれわれは信じてきた。しかし、今われわれ自身が、“神”として、生命をコントロールし、人間を進化させるのだ。
(…)
ハレー彗星の到来とともに、あなたの飼い犬が空に向かって吠えはじめる。そして、そのとき、破滅への恐怖と再生の希望にいろどられた宇宙的狂気の時代が確実に始まるのだ。
『ハレー彗星の大陰謀』p.220

ちなみに『罪』でも獅子座流星群が破局の前触れとして描かれている(同時に襲来するラストバタリオンのせいで印象薄いですが)

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グレートファーザー

シバルバー最深部で主人公一行を待ち受ける『罪』のラスボス、グレートファーザーはありそうでないグレートマザーの架空の対概念だ。ユングは人間が個人的無意識と普遍的無意識を持つとして、普遍的無意識の中に存在するイメージや行動の様式を元型と呼んだ。アニマもアニムスもペルソナも元型であり、これは特定の形を取って夢や意識に浮かび上がることもあるが、あくまで仮象であり元型そのものは普遍的無意識なので直接触れられないし解消することもできない、とされる。

グレートマザーはすべてを包摂し誕生と死を司る地母神的なものとしてイメージされる元型であり、これと対を成すのが理性や叡智で人を導くオールド・ワイズマンである。『女神転生』シリーズでいえば『真Ⅰ』のニュートラル・ルートで主人公に道を開く太上老君、やはりニュートラル・ルートで方舟に乗り遅れた主人公に助け船を出す『真Ⅱ』のスティーブンが典型的なオールド・ワイズマンのイメージだが、女神なんて言っておいてグレートマザーのイメージはそれほど明確な形では現れないのは興味深いところかもしれない。『異聞録』がマキの妄想世界に取り込まれるお話だったように、また主人公たちを導くフィレモンがスマートな成人男性として、『罪』では達哉と同じ顔を持つもう一人の自分としてオールド・ワイズマンの典型的イメージから距離を取っていたように、ユング心理学を下敷きにした『ペルソナ』シリーズでは女性原理やグレートマザー表象の方が強く出ているからだ(『異聞録』においてマキの母親が鬼子母神=ハリティーとして主人公一行の前に立ちはだかるのが好例)

ある意味、金子一馬の趣味が炸裂したビザ~ルなグレートファーザーは奇抜に見えて王道も王道のRPGのラスボスである。「映画は父を殺すためにある」と書くのは宗教学者の島田裕巳だが、数値化されたキャラクターのつよさを冒険の中で鍛え、多く悪王的に描かれる巨大な敵の打倒でもってその物語を終えるゲーム化された通過儀礼としてRPGは、『スターウォーズ』等々の神話ベースのアメリカン娯楽大作映画が象徴的な父の乗り越えを繰り返し繰り返し描き続けるように、ドラゴンや悪の大魔道士に父殺しを託す(『ドラゴンクエスト』はその典型的な例であるし、だからこそポピュラリティを持ち得たのではないかと思う)。わけても最終的にすべての「父」であるYHVHをぶっ殺すことになる『女神転生』シリーズは父殺しRPGの極北だろう。

とすれば、コンタクトを取ると「父を乗り越えてみせろ!」と敵のくせにいかにもRPGらしい発破をかけてくれるグレートファーザーは敵であって敵ではない、それとの対峙自体が罠であるような存在なのかもしれない。父を殺した男の子はやがて殺される父になる。父の罪を断罪すれば己もその罪を免れ得ない。にも関わらずそれとの対峙をグレートファーザー=ニャルラトホテプは促す。それが何かの解決策であるかのように振る舞う。実際には倒したところで既に地球は壊滅しているので何にもならない、不毛な闘いでしかないのである。それに偽物であっても元型なのだ。元型はあくまで仮象として意識に表出するのだから倒しても根絶することはできないのだ。

『女神転生』シリーズであればそこが古い世界のゴールであり新たな世界のスタートであるはずの神話的父殺しは、オトコノコ主人公をそこへ導き絡め取るフロイトのエディプス三角形として、ユング推しグレートマザー推しの『罪』では否定されるのだ。

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シバルバー

マヤ部族・キチュ族が残した伝承の書『ポポル・ヴフ』中の神話に出てくる地底の冥界。『罪』ではシバルバーに向かう際にイベントダンジョン天の川を通るが、これは天の川がシバルバーの入り口とされているから。シバルバー内部の「キミの間」とか「カンの間」とか「テッチャンの間」とかいう聞き慣れない部屋名はマヤ歴における一ヶ月のそれぞれの日にあてがわれたマヤの日文字である。様々な試練の待ち構えるシバルバーに松明を持った少年と煙草を持った少年の双子神が入っていく英雄譚が『ポポル・ヴフ』では語られるが、このへん達哉がライターを持っていることや達哉と淳の関係性の由来だろう。双子神がシバルバーに下りるのは父親がシバルバーに棲まう神々に殺されたためらしいので、ここで『罪』パーティの父親コンプレックスとも繋がってくるわけである。

『罪』のシバルバーは『罰』では『女神転生』シリーズでもお馴染みのアメノトリフネと呼ばれる。しかしアメノトリフネは天孫降臨の際に中つ国に降り立った神の一柱で、プレアデス星人の宇宙船としてのシバルバーの別名にしては今ひとつしっくりこない。
むしろこっちなんじゃないかと思われる記述は古史古伝の中でもメジャーな偽書・竹内文書にあった。竹内文書では天文学的スケールで語られるはるか昔にアメヒ国(記紀神話の高天原に相当する)より神々=天皇が地上に降り立った際の「乗り物」がアメノウキフネであるとされ、あの松岡正剛に筆を迷わせた古史古伝研究家・佐治芳彦による1979年の『謎の竹内文書 日本は世界の支配者だった!』では、超古代人類(イイロ人、五色人と呼ばれる)がアホほど繰り返される天変地異でいちいち全員死んでしまい、その度に超古代天皇たちがアメノウキフネに乗って各国の巡幸に出たという記述が竹内文書にあることから、これがUFOとされている。

これを字義どおりに解すれば、ある種の航空機らしく感じられる。この航空機状の乗り物は、上古第一代天皇が地球移住のさいにも使用されたことから当然一種の宇宙船、しかも宇宙船は宇宙船でもアポロ型やボストーク型のようなちゃちなものではなくて、恒星間航行可能の宇宙船であったということになろう。しかも、宇宙船であって、地球大気圏飛翔可能の乗り物ということになれば、そればズバリ「空飛ぶ円盤」ということになる。
『謎の竹内文書 日本は世界の支配者だった!』p.88

それにしても『日本は世界の支配者だった!』とはまたすごいサブタイトルだが、これは竹内文書(正確には竹内文献群というらしい)を管理している皇祖皇太神宮天津教が現在の天皇と記紀神話を批判しつつもそれよりも更に天皇の歴史は古かったし更に更に天皇と日本は偉大だった! という捻れた愛国心と八紘一宇的な天皇観を抱いていたからで(それが竹内文書にも表われている)、天津教はそのために戦前の特高警察の宗教弾圧の対象になったりもしている。

歴史修正主義的な愛国心の暴走。こうしたオカルト・ナショナリズムは聖徳太子を時空調節者(?)としてのマヤ人の一員だとする『古代マヤ文明が日本を進化させた!』や「日本人はもっとも進化に適した人種」と平然と言ってのける『ハレー彗星の大陰謀』にも見られるもので、第二次オカルトブームに重なる高度経済成長~バブル期のオカルト本はだいたいサブ的に備えている。物質的な豊かさに裏打ちされた無根拠な楽観と優越心が、反面で『ノストラダムスの大予言』に代表されるような物質文明への根源的な疑いや恐れも生み出して、その奇妙な合流点がこれらのオカルト本なのかもしれない。

戦後日本の「穢れ」を祓い、そのリセットと世界支配を目論む『罰』の須藤竜蔵にとってのシバルバーは、だからアメノトリフネ=アメノウキフネだったのではないだろうか(それがアメノウキフネとは呼ばれないのはさすがに政治色が強すぎると判断されたからではないかと思う)

ところで、シバルバーの内部では思考が現実になるが、『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』にはこれと同様の設定が出てくるので特撮マニアの金子一馬が仕込んだオマージュの可能性もなくはない。かつてデカラビアのデザインで『宇宙人東京に現わる』のパイラ星人を引用した悪魔絵師であるし、『宇宙人東京に現わる』の主要登場人物は天野銀子という名前なのである…。

次→【そこそこ徹底ゲーム考察】『ペルソナ2 罪/罰』(その5)

2020/1/17:「グランドクロス」と「グレートファーザー」の項ちょっとだけ加筆しました

2020/1/11:シバルバーの項追記

【ママー!これ買ってー!】


ペルソナ2 罰 通常版
『罪』の翌年発売でこれだけシステムが改良されたの、今考えるとすごい。たぶん開発現場めっちゃ大変だったと思う。

↓参考にしたもの

ハレー彗星の大陰謀―地球最後の日をつきとめた衝撃のオカルト・ルポ (1981年) (ゴマポケット)
古代マヤ文明が日本を進化させた!―時空を超えた宇宙人のシナリオ (超知ライブラリー)
謎の竹内文書―日本は世界の支配者だった!
ノストラダムスの大予言 迫りくる1999年7の月人類滅亡の日 (ノン・ブック)
ノストラダムスの大予言 2 (ノン・ブック 161)
宇宙人東京に現わる[Amazonビデオ]
ガメラ対宇宙怪獣バイラス[Amazonビデオ]

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