呑んだら死ぬ映画『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』感想文

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《推定睡眠時間:0分》

もちろんそんなものは上手くならないに越したことはないしそもそもやらないに越したことはないがこの連続殺人鬼フリッツ・ホンカは1970年の最初の娼婦殺しを皮切りに何人も女を殺してるのに一向に殺しが上達しない。行為がなんであれ人間慣れというものがあるはずだ。なんでここまで上手くならないのだろうか。

もちろんそんなものは悪巧みしないに越したことはないしそもそもやらないに越したことはないが死体の処理も何人も殺してるくせに恐ろしく杜撰。ホンカの住むアパートの屋根裏部屋には壁中収納スペースがあるが、最初に殺した娼婦を外に運び出そうとしたら重くて無理だったのでとりあえず部屋にシート敷いて居間で(汚い!)解体して首と他の一部だけトランクに入れて外まで捨てに行くがそれでも重いし面倒だったので、残った部位は壁中収納に放ってガムテープで収納の扉を密閉(できてない)する。

当然部屋はずっと臭い。臭すぎて新しい死体を捨てる時に壁中収納の扉開けたら自分でやっといて自分で吐いてしまう。部屋を訪れる誰もがその臭いを指摘するので消臭スプレーで都度ごまかしながら「下の階のギリシャ人が変な料理作ってんだよ!」とか雑に過ぎる嘘をつく。あまりにも場当たり的だ。その場さえしのげれば後のことは考えないホンカだが、それにしたって数年間に渡って殺しを続けてるんだからどこかでもう少しマシな死体処理を思いつかなかったのだろうか。

と思わずにはいられないがホンカの殺しは趣味ではなく酔った末の蛮行、実際には趣味も入っていたかもしれないが映画の中のホンカは基本的に酒のせいで殺していたし殺される方も酒のせいで死んでいたので、緻密な計画とか手法の洗練とかそういうのはないのである。
怖いなぁ、酒。映画はフリッツ・ホンカの殺人遍歴を追いつつ同時進行でホンカが一目惚れしたパツキンコケティッシュ美人大学生がホンカのねぐらである風俗街の底辺酒場(ここの屋号GOLDENE HANDSCHUH
=ゴールデン・グローブが原題になっている)に引き寄せられていく過程を描くが、そんなところ行っても別に良いことないですよという話なので実に教育的である。

たしかに女はバンバン殺すしパンパンに肥えた老女の裸体はテンコ盛りだしチンコはブラブラ揺れっぱなしではあるがR指定を取っ払って学校の道徳の時間に流してあげたい映画だ。ドラッグがどうだ脱法ドラッグがなんだと世間は騒ぐがアルコールだって立派なドラッグ、合法だから安全というわけではないことがたのしくゆかいにりかいできるので啓発効果抜群ではないだろうか。酒ばっか飲んでるとホンカになるぞ!

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しかしそのへん、シリアルキラーものの映画としてかなり変わったところだった。あくまで映画の中のホンカはと再度前置きしておくが、ホンカ殺しが目的じゃないんすよね。めちゃくちゃヤりたい。イイ女と超ヤりたい。だけどヤレないから酒に逃げる。だから例の地獄底辺酒場で酒をエサに女を引っかけようとするのだが、見るからに卑劣かつ下劣な風貌なので全然相手にされず、酒さえくれりゃ誰でもいいし何でもする酒飲みの最終局面にある人しか寄ってこない。

でもまぁいいかヤレりゃあ! ホンカの方も泥酔してるし選り好みしていられないので引っかけた酒飲みの最終局面の人をとりあえずウチに酒があるからと雑甘言で例の屋根裏部屋に誘い込む。酒さえ飲めれば後はもうなんでもいいから最終局面の人は酒飲みながら好きにヤラせてくれるがそこで酔ったホンカはブチ切れる。勃たねぇじゃねぇか! 醜女じゃねぇか! 何嗤ってやがる! キレのタイミングは様々だが自分で呼んでおいてそれはないだろというものしかないので酒飲みはこわい。

キレたホンカはヤリながら女を殴ったりして時に死に至らしめる。酷いなぁと思うが殴りヤラれたその翌日にホンカの目を盗んで家中の酒とか小銭貯金を拝借する逞しい被害者とかもいたのでホンカの酷さよりも加害の側も被害の側も人をそこまで堕とさせる酒の怖さが勝ってしまう。
実際、一時期のホンカは酒を断って真人間になりかけていたのだった。もうその時点で何人も殺してるから今更真人間無理だろと思うが夜勤の警備員として真面目に働けば例の底辺酒場に入り浸ることはない。鬼畜殺人鬼なりに懸命な判断である。だが、そこにも酒の魔手は容赦なく迫ってくるのだ。

ジャンルを造語すればアルコール・ホラーですが何せ殺す方も殺される方も酔っぱらってフラフラヘロヘロなので醜悪な残酷描写も仮借のない暴力描写も底の抜けた笑いになってしまう。監督はファティ・アキンという三大映画祭常連の若き名匠的な人だそうですが案外ハーシェル・ゴードン・ルイスのZ級鬼畜映画の世界に近いんじゃないだろうか。酒飲み中年女三人組の一人がおぼつかない足取りでホンカ家へ向かう途中に路上で寝込んでしまい、そのおかげで難を逃れる場面なんか落語みたいである。

シェルターに誘いに来た救世軍の人にホンカ被害者のひとりが吐き捨てるように言い放つ「口から出るのは笑いとゲロだけだ」は酒飲みの名迷言。相手もう死んでるのにホンカの怒りはおさまらず空の酒瓶で死体をぶん殴っていく場面は「酒は人を壊す」ことがあまりにもそのまんま表現されたおそろしくもバカバカしい珍場面。久々にお近づきになった若めの女を「好きなんだ! ヤリたい!」と連呼しながらガンガンぶん殴って犯そうとするホンカにはドン引きかつ爆笑。

それにしてもこの場面は長回しでリアルに色んなところに身体ぶつけてるから迫真の場面だったが役者の人たいへんだっただろうなと思う。この役者の人には被害者役だけじゃなくて反撃を食らってテーブルにガッツリ身体を沈めたりするホンカ役ヨナス・ダスラーも含むが、ヨナス・ダスラーはオナニーもフェラも真正面からカメラに撮られていたので別の意味でも身体を張っていた。老女の入れ歯フェラを受けて獣のようにあえぐ姿は役者魂というほかない。

ホンカの家とか地獄底辺酒場のすばらしい汚美術、そこに集う面々の最高にきたならしいご尊顔、あまりにも欲望が直球かつチープなバカ妄想場面、F.M.アインハルトの不穏サウンドと酒飲みを狂気へ誘う酒瓶の音色。すべてがどうしようもなくて最高な酒飲み啓発映画だった。

【ママー!これ買ってー!】


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過剰な暴力が笑いを生む殺人鬼コメディとして名画座二本立てを期待したい。

500
さるこ

こんにちは。
ファティ・アキン監督の作品はいくつか見ましたが、『ソウル・キッチン』が良かったです。
私の子供の頃(本作と同じ時期です)、お祭りで大きな神社に行くと、傷痍軍人さんみたいな人が鳥居の脇に座ってて、母が小銭をあげたりしてました。〝ゴールデングローブ〟で救世軍が来たのを見て突然それを思い出しました。今思えば、まだ戦後、だったのかな。
それにしても、本作はコメディなのか?私の感受性は途中から別のフェーズに入ったよ…