そのまんま清映画『スパイの妻』感想文

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話題作だし黒沢清の映画だしなんか感想もいろんな批評タームみたいの使って面白い感じに書かないといけないのかなってちょっと思ったんですけどやっぱそういうのいいやどうせできないしって思い直して単刀直入に『スパイの妻』、わりと普通に面白かったです。面白かったですけどわりと普通でした。

なんかね、前に押井守がトークショーで言ってたことを思い出したよね。たしか押井が『立喰師列伝』持って(今回『スパイの妻』が銀獅子賞を取った)ヴェネチア国際映画祭行った時の話で、『立喰師列伝』は押井作品のセルフパロディ的な戦後偽史なわけですけど、どういうアレかこれがドキュメンタリーとして映画祭で上映されてしまったらしい。で、押井は審査員かなんかの人にこんな感じのことを言われた。なんで日本人は戦後ものを撮らなくなったの、こういうの観たいのに。

なにもそれだけとは思わないが銀獅子賞の受賞に関しては日本映画に対するこういう欧米映画批評筋の戦前戦中戦後ものボーナスってあったんじゃないすか。いやもう素直に言っちゃいますけどこれぐらいの出来で偉い賞もらえるのかーって思いましたよ。ヴェネチアの銀獅子賞がどれぐらい偉い賞なのか知らないけどさ。でも、ねぇ。テレビドラマのダイジェスト版の都合はあるとしてもだいぶ物足りなかったよなー。

そりゃ色んな見方があるとは思いますよ。長いテレビドラマを短くしてるからやっぱ内容的に物足りないなーっていう見方があって、それとは逆にこのブツ切りダイジェスト感が想像を喚起してたまらないんだよっていう見方もあるし、ダイジェスト版だから話が超サクサク進んで面白いっていう見方だってまぁある。俺は6:2:2ぐらいの割合でダイジェストだから物足りないなー寄りのダイジェストだから逆にいいんだよ+サクサク進んでたのしいね派。あとまぁ黒沢清らしい画作りが面白い、とか。

でもそれぐらいなんだよいや本当に。それぐらいの映画で…なんか黒沢清の映画を手放しで褒める人って清が本当は普通な感じの面白い娯楽映画を撮れるのにあえて変なことやってるんでしょそれが作家性でしょって思ってるかもしれないですけど、俺この人は単に普通に娯楽映画を撮るのが下手な人だと思うんですよね。それはもうずっと思ってるから。ずっとですよ本当。世代が違うからリアルタイムで観たわけじゃないですけど黒沢清が確実に一般客を獲りにきた『スウィートホーム』だって怖いようで怖くなくてなんか笑っちゃったりする変な映画じゃないですか。

その変にしか撮れないところを(押井守と同じで)作家性としてしたたかにコツコツ育てて来たのが黒沢清という監督で、頭の良い天然っていうか、これもそういう文脈で理解した方がいい映画だと思うんだよなぁ、あれも計算これも計算すべて計算され尽くした映画ですごい! みたいな感じじゃなくてさぁ、別にいいんだけどさぁ…。

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お話の内容だってねぇ、これをミステリーっつってもねぇ。まぁドラマ版の方は知らんすよそれは。そっちはもっと込み入った話で面白いのかもしれないですけど、こっちのダイジェスト映画版は謎もなにもないっていうか、黒沢清の映画は深みを客に想像させるための徹底した深みのなさが金科玉条みたいなところがあると思うので、なんかものすごいストレートで屈託がない。

よくあるミステリー映画とかって観客をミスリードしてやろうみたいなのが大なり小なりあるじゃないですか。これそういうの皆無。スパイの夫の高橋一生が「問わないでくれ。君に嘘はつけないから問われたら答えを言わなければいけない」みたいなことを妻の蒼井優に言うんですけど本当それがすべてだよね。謎はないんですよ。嘘もないんです。その意味では巧い映画だなとは思いますそりゃ。映画の構造と内容が優等生的に一致してるわけですから。

問えばそこに答えはあったかもしれないが、自分の理想と違うかもしれない答えを知るのが怖いから蒼井優は高橋一生に問わないし、それはまたお国がどうも無理ゲーくさい開戦に踏み切ろうとしていることを知りながらも日常を演じ続けることしかできない当時の日本国民の、誰もがとは言わずとも大抵の人が薄々とでも抱えていたものでもあるだろう。難しいことを言いたがる人は難しく解釈したがるかもしれないが俺に言わせればこの映画は『裸の王様』のちょっと大人向け版でしかないですよ。それを海外のなんとか賞を取ったからと過剰に崇め奉る人もいるのですから、いやはやなんというか。皮肉よね、観客が褒めれば褒めるほど映画そのものが真面目に受け取られていないことになってしまうのだから。

黒沢清お得意の超わざとらしいオブジェクト(船の中の箱がすごいことになっている)とか、映画内映画の入れ子構造(しかしその使い方はまったく慎ましい)とか、禍々しいフィルム映像(とはいえNHKドラマだからか案外怖さ控えめ)とか、決定的瞬間を見せないことで痛みを想像させる何やってんだかよくわからん拷問(でもその後のシーンで何やってたかバラしちゃうんだよなぁ)とか、あと出征する兵隊さんの行進をオープンセットのトラック撮影で撮ったとこ(これは素直にたいへんよいシーンだ)とか、いや、たくさんあるんですよ面白いところは。蒼井優の今基準の美人定義から外れた美人感っていうか、昭和の女優っぽさも映えてましたしね。

でも、それぐらいだな。それぐらいな感じのあまり心に引っかからない優等生的に手堅い黒沢清ドラマのダイジェスト映画版。だからなんなの的な100パー蛇足のラスト(テロップ含め)だけは優等生しぐさを捨てて客の感情を宙吊りにしてやろうって感じで心に引っかかりましたけれども。

2020/10/20 追記:
テレビドラマというからシリーズものだと思ってたんですが単発ものだそうなのでダイジェストではなく映画版もドラマ版も尺は変わらないっぽい。完成品をダイジェスト版だと思わせる清の映画術にまんまとハマって悔しい。

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なんとなく雰囲気が似ているロバート・ゼメキスのスパイもの。人の死に方とか、影の使い方とか、なにより冒頭のどこまでもフラットな砂漠に落下傘降下するブラッド・ピットっていう絵面がすごい黒沢清の親戚っぽさ。

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