平手が触手に襲われる映画『さんかく窓の外側は夜』感想文

《推定睡眠時間:0分》

平手友梨奈が出ているので見境のないアイドルオタクなんかが超傑作超傑作と発情期の猫みたいに鳴き叫ぶんだろなぁと思うとなんだか気が重くなりますよねの急な八つ当たり的悪口から感想に入ったのは俺なりの陰湿なやさしさであってこんな映画が超傑作のわけないだろうと思ったあなたの直感は100%正しく超傑作のわけないのである。当たり前でしょう。そりゃ人生で一本だけ観たホラー映画がこれならその人にとっては超傑作かもしれないけれどもある程度ホラー映画経験を積んでいるはずのいい大人がこの程度の映画で大騒ぎしてたら単なるバカか信者でしょ。

そんな風にわけわからん期待値上げないで欲しいよなー。それで変に期待して観に行った人が全然怖くねぇじゃねぇかクソ映画! みたいな感じでガッカリしてしまったら作品の価値が結果的に下がるだろ。そういうのがわからない人は本当にダメ。これはもう全ての異論を認めた上で断言してしまいますけれどもオタクはそういうところがあるからダメなんだよ。あなたにとって超傑作ならそれはそれでいいですし自分だけの超傑作を持つのは素晴らしいことだと思いますけれどもその素晴らしさは自分の胸の中にでも秘めておいて布教とかはしようとしないで欲しいな。うん、ブーメランだね。刺さってる。いま俺の背中にざっくりブーメラン刺さって出血多量。これが言葉の呪いです。

なんでそんなことをブーメラン突き刺してぶっしゃぶしゃ血を吹きながら書いたかというとですね、なんか心霊ホラーっぽいじゃないですか、予告編とか。そしたらやっぱ怖いお化けとか期待するじゃん。でもそこめちゃくちゃ肩透かしなんだよ。お化けが全然怖くないしお化けがっていうか全体的にホラーよりミステリーに寄っているから別に怖い映画じゃないんですよね。冒頭の回想シーンでお化けの見える少年の視線を追うとそこには不気味な川の水面が…っていう良い感じのショットがあってお化けを直接見せないスタイルかッと期待したらその後さっさと『事故物件』と同じような風体のガッカリお化けが出てきちゃうし。

だけど面白かったんだよな。いやこれはお化けはともかく画が素晴らしいですよ画が。お化け系の邦画ホラー映画で久々にガチな水準の画作りきたなーって思った。だってここ最近『犬鳴村』とか『事故物件』とかああいうのばっかだったからね、メジャー邦画のお化け映画。別に『犬鳴村』も『事故物件』も面白かったからいいですけどそれぞれ清水崇と中田秀夫っていうJホラーの立役者が監督しているくせに不気味さなんかほとんどなかったわけじゃないですか。なんか、不気味すぎたら逆に客来ないよねみたいな。ネタとしてカジュアルに楽しめるやつの方が売れるよねみたいな感じでかなり意図的に。

『さんかく窓の外側は夜』はそうじゃなかったわけですよ。ここは一応強調しておきますけれども怖くはないんですよ、怖くはないんですけど本気でホラー映画っぽい画作りをしてるっていうか…いや、怖くないならダメじゃんとか思う人もいるかもしれないですけどそういうことじゃないんだよな。そこはねなかなかアレがアレなんですけれどもとにかく、ちゃんとホラーとして撮っていて非常によかったというお話。

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でストーリーはですねこれがミステリーなものだから結構入り組んでるっていうかどちらかと言えば脚本がというよりも監督の方であえてわかりにくくして不明瞭な点を残したんじゃないかなぁって思うんですがテーマとしてはつまり要するに呪いを解くお話でした。呪い。一言呪いと言っても色々あるが最近よく毒親とかの周辺概念として「言葉の呪い」みたいなのって言うじゃないですか。なんか、「男なら男らしくならなきゃね!」って子供の頃から言われ続けるのは呪いですよね~って感じで。

これそういう呪いをお化けホラー的に解釈したようなストーリーなのでお化けがどうとかっていうより生きた人間が中心になっていて、お化けが見える人とお化けを祓える人と呪いで人をおかしくさせるシャーマン的な人がメイン登場人物ですけど、この人たちが偶然知り合って、今の自分を形作って「自分はこういう人間にしかなれないんだ」みたいな感じに縛り付けているそれぞれの過去にお互いの手を借りて向き合う、向き合ってその呪縛を解く(ちゃんと向き合えなかったので解けない人もいる)…っていう、なんか穢れビルが出てきたりヤクザが出てきたり宗教が出てきたり色々ゴチャゴチャしてるんですけど、プロットとしてはそういう感じになる。他人に触れると霊が見える設定は少なくともこの映画版ではそのようなセラピー的な意味を持つわけです。

だからストーリーだけで言えばミステリーの体裁を取りつつも本質的には少しだけ恋愛要素の入ったヒューマンドラマなんですよね。怖くないっていうのもたぶんそういうところに理由があって、お化けをやたら怖がる主人公の見える人(志尊淳)が本当に怖がっているのはお化け関連で厭なことがあった自分の過去で、お化けを祓える人(岡田将生)がニヒリスティックかつ嗜虐的に振る舞っているのは厭すぎることがあった過去から目を逸らすためで、そこに焦点が当たるとなるとお化けがどうこうの話ではなくなってくるし、もう一人の人(平手友梨奈)がやる呪詛送りっていうのもシンボリックな意味合い(何を意味するかといえば「死ね」の言葉は「助けて」の反語表現ということ)が強くなってくるんで、これも恐怖の対象にならない。

最近はこういうヒューマニスティックなお化けホラーも多くなってきて『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』のマイク・フラナガンなんかはそんなのばっか撮ってますけど、邦画でも中島哲也の『来る』はその路線だったし、病は気からならぬ呪いは気からというか、これもその最新の一本というわけで、あれだなそこは純ホラーが好きな人にはなんだよーってなるところかもしれないし、ぶっちゃけ俺もちょっと思った(お化けは単純に怖い存在でいいのにねぇ)

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怖くはないし根底はヒューマンドラマ。どこがホラーとしてちゃんとしているんだという感じになってくるがそこはですから画作りなんだよな。これは美術がすごく良い仕事をしたと思いますよ。なんか松永桂子さんっていう検索しても他に一本しか担当映画が出てこない人がプロダクションデザインとかでクレジットされてますけどとにかく汚す、きちんと汚す。イヤ~な汚れ方をしてるんですよ実に背景を成す建物の壁とかが。ここは悪い場だ! っていう感がすごいの。

最初の方に出てくる袋詰めのバラバラ死体も死臭漂う立派なものでこれはまた別の人(特殊効果とか)の手柄なのかもしれないですけどあの血の感じ、もうね、粘度と黒さがちょうどよく気持ち悪い血。バラバラ殺人犯が風呂場で死体を捌いてくシーンとかちょっと感動しちゃったね。本当にちょうどいいんですよ。血の飛散量とか飛び散る方向とかこびり付きとか。少なくもないし過剰でもない本気の死体捌き。過剰になるとブラックユーモアになっちゃうからね。これはそうじゃないですから。あくまで本気の捌き。R指定以下PG-12の事実上全年齢対象映画でこのレベルの死体捌きが観られるんだからこれは結構すごいことですよ。

何が言いたいかっていうとですねこの映画ストーリーはあんまホラーっぽさないですけどそういうホラーの映像面のディティールをめちゃくちゃ丁寧に作り込んでるんですよ。汚れとか血の表現力が素晴らしい映画ですけれどもホラー空間の作り方、緑と赤の原色照明で日常空間を異界にするあたりもイタリアン・ホラー的でよかったし、穢れビルとかバラバラ殺人アパートとかロケ地もイイ感じに気持ち悪いとこ見つけてきていて。

俳優もどうせジャンル映画だから的な定型演技はしてなくてこの人はこんな人生を歩んできたんだろうなぁっていうのを各々のパブリック・イメージをうまく取り入れたキャラクター造形の中で行間に滲ませて、中でもお化けの見えない刑事を演じた滝藤賢一はこれあまり直接的にはストーリーに絡まない助演ですけどここ最近のベストアクトじゃないかというぐらいで…それでまたカメラの方もカット割ったりして会話の間を詰めないで、逆にあえて余白を多めに作ったその芝居を長回し気味の引き画でしっかり収めるんですよね。

そうやってちゃんと撮るんでバラバラ殺人鬼が捌きの後で一服するシーンで見せる表情とかもこのキャラクター自身は台詞もろくにないモブものようなものだが、迫力の空虚でかなり怖い。怖くない怖くないと書いてますが人間の怖さとか得体のしれなさはしっかり出てるんですよね。

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クラブサウンド風の劇伴も題材やトーンからすればなかなか面白い違和感があってこれも拘りを感じるところ。カット尻をざっくり切る暴力的な編集も殺伐とした空気を醸し出していて良かったな。PV的なイメージショットの連鎖が霊視の映像表現として何度も使われる映画で、その断片化された映像が終盤になって一枚の絵を成す…というトリックは使い古されたものではあるが情報を小出しにするしあまり明瞭な形で謎やヒントを提示しない硬派な作りになっているので、これがなかなか鮮烈。

あとやっぱインタスレーションとか舞台美術的な表現ですよね。これがカッコイイ。シーンの趣旨とはだいぶ反するような気もするが終盤の大虐殺シーンなんかかなりアガる。正確には虐殺後。死体が足の踏み場もないくらいに転がり床は血に濡れ壁は汚れ物は散乱し廊下の蛍光灯はバチバチと不吉な点滅を繰り返す…夜のブルーライトが照らし出す死体の山のビューティフル! イタホラはオブジェや空間演出としての死体描写を極めたジャンルであるが照明がイタホラ趣味だしこの監督は(死体アートの傑作『サンゲリア』と霊視ホラーの傑作『ザ・サイキック』を監督した)ルチオ・フルチとかイタホラの影響をバリ受けた鮮血の映像詩人・池田敏春の世界を再現したかったんじゃないすか。フルチとか池田みたいに死体よそなたはうつくしいっていう死体愛の映画ですよこれは。

たぶん血とか死体とか物質的なものにひたすら拘りたかったんだろうな。だから実体のないお化けとか呪いが具現化した超物質とかはわりとおざなりだし、ダサい。でもその紐状の超物質で平手友梨奈を触手責めにして動けない平手の口に触手が入ると平手は呼吸を荒げ苦痛と恍惚の入り混じるエロティックなうめき声をみたいなフェチをビンビンに感じる悪趣味シーンなどは大変によかったしこれを書いている今でも思い出してビンビンになる。ひ…平手! 平手よ!  

もうね俺ね平手友梨奈とか今までどうでもいい人でしたけどこの映画で平手さんが大好きになってしまいましたよ。悪趣味ではあるがこれもひとつのアイドル映画、触手は誰を相手に撮ってもエロくなるので反則だとしても平手さんの三白眼や見下し視線の横顔ばかりをこの映画は撮るんだからわかってるとしか言いようがないではありませんか。それに岡田将生くんのエロさだってかなりのものです。

元はBL漫画というからその名残りなのだろうが志尊淳の身体に触れると霊が見えるという設定であるからして岡田くん志尊くんの後ろに回り込んで軽く抱きしめるように片手を前に回すと志尊くんの乳首を愛撫とまではいかないが甘触れしながら…触ってない! 背後から手を回して胸のあたりを触っているが乳首までは触ってない! でも構図の都合で乳首触ってるように見えるんだよ。このへんの微妙な触りの距離感も興奮させられるところであったね。見える見せないの瀬戸際にこそエロはあります。

真摯な心のドラマでありながらも死体インスタレーションは美しく平手友梨奈は触手責めを食らうというこのグラン・ギニョル的混沌。いやぁ…非常に、良い映画だったね。ま、あえて難を上げるとすればお化けのダメさに加えて手法に酔いすぎ、アートっぽいものとかドラマ性っていうのを意識し過ぎじゃねぇのっていうのは思いましたよ。ゆーてもお化け映画なんだからやっぱお化けがちゃんと怖いシーンとか…あるいは平手は呪詛送りのできる人の設定で岡田は呪いを返せる人の設定なんだから呪いサイキックバトル的なものをやるとか…どうせ大友克洋の『童夢』とかもこの監督は好きでしょうし…プロットとかトーンの統一性にあまり拘泥しないでもっと俗なホラー見せ場は欲しかったですよ。

怖くないっちゃこっちだって怖くはないですけど『来る』はそのへんちゃんとあったからな。まぁ、でも、平手友梨奈の触手責めは俗な見せ場ではないのかと言われたら100%俗な見せ場なわけですが…いやそういうことじゃなくて!

※あとカルト教団の扱いも雑だと思うんすよね。カルトといえばオウムだろうって感じで麻原の紫クルタを着た信者たちがなんか輪になってるだけとかどうなんですか。ヤクザとの関係をもっとえげつなく明確に見せといた方が良かったんじゃないかねあれは。とはいえその部分部分のイメージの鮮烈さやディティールの拘りでダメなところを気にさせない作りもなんだかイタホラ的で、イタホラが好きな俺にとっては不満でもないのだが。

【ママー!これ買ってー!】


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池田敏春の監督作としては相当に地味で面白くない部類ではあるが、まぁ生き霊送りのお話ということでこのへん(あと『死霊の罠』な)観ると『さんかく窓』に池田敏春の鮮血遺伝子を見出すことができるんじゃないすかね。

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