コンドームで遊んじゃお映画『羊飼いと風船』感想文

《推定睡眠時間:20分》

この20分の睡眠時間というのはラスト20分なので痛恨の快眠、エンドロール2分前ぐらいで目を覚ましているが肝心の! 映画の山場に当たる肝心の母親の決断の部分がちょうど抜けてしまっているので結局どうなったんだかわからないまま映画を終えてしまった…まぁ最後の風船の行方と親父の表情を思えばたぶんあっちに決断したんだろうなぁとは思うのだが、とはいえ、しかし、やはりそこは観たかったですよね。

まぁでも子供になったつもりで…このタイトルの風船というのはそのままの意味の風船ともう一つ、羊飼いの子供たちが風船代わりにして遊んでいるコンドームの意味もあるのだが、子供たちはもちろんコンドームが何のために使われるかなんて知らない、知らないから風船にして親父に怒られるのだが、この子供たちは父親と母親が布団の上で夜な夜な何をヤっているかなんかわからないし、どうして母親が3人目を産むか産まないかで悩んでいるかも当然わからないだろう、ということは母親がどんな決断を下したにせよ、いったいどんな決断だったのか子供たちは知らないはずである…ラスト20分ぐらいにあったと思われる母親の決断を見逃した俺はこの映画を劇中の子供たちの視線で観ていたようなものだろう。そう思えば、なかなか良い睡眠だったのではないかなと思えてくる。寝るなという話なのだが。

で、なんか、お話は生殖と社会の変化についてのあれやこれやっていう感じで、色んな見方ができる映画だなぁとか思いました。舞台はチベットの大草原、時代背景は90年代頭ぐらい。中国の一人っ子政策がまだあって、3人目を産んじゃうと主人公の羊飼いの貧乏だけどそれなり幸せ一家は罰金取られるわけです。でも一家の父親が性欲バリ強ですぐ支給されたコンドーム使っちゃう、で困ったなぁどうしようかなぁと思っていたら一家の母親妊娠しちゃう。

なかなかねぇこれ複雑な構図ですよねぇ。一方で人間の自然な営みというか、伝統的なチベット文化というものを中国政府が踏みにじっていく光景が描かれるわけですけれども、その一方でそういう伝統的な文化が女の人の犠牲の上に成り立っていることも描かれて、中国共産党の強権がチベットの人々(とくに女の人)をソフトに弾圧しながらも反面で解放していくアンビバレンスな状況がここにはあるわけです。それが様々な形で何度も繰り返される。

で、そういうお話を中国資本の映画としてやってるわけでしょ。そしたらそのなんというか、やっぱ中国共産党の方針間違ってなかったですね的な翼賛とまでは言わないけれどもマイルドな体制肯定にならざるを得ないわけじゃないですか、検閲あるし。でも肯定だけではやっぱりないんですよね。そこには騙し絵みたいに抵抗とか体制批判も編み込まれていて、まぁアート系の中国映画どれもそんな感じですけどその批判のために曖昧さを残す。

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この映画で言ったら一人っ子政策がチベットの人たちにとって良かったのか良くなかったのかよくわからないんですよ。良い面もあるし悪い面もあるし、住民たちも色々と新しい生活様式に心が揺れてはいるけれどもそこまで困窮しているわけでもなくむしろ生活は楽になったし、とは言っても近代化を進めてくれてありがとう中国政府バンザイと言えるほどストレートに受け入れられているわけでもないし、みたいな。

そういう曖昧さを中国映画の作家たちは詩的表現として昇華しようとするんで、それが中国政府の思惑なんか知らん子供たちがコンドームを風船にして茶化しちゃうオープニングとかに表われてるんでしょうけど、まぁ、だから、そういう映画だったんじゃないですか。物語の中でヤってることはシンプルでもその見方は結構難しいよね。これは他の中国映画もまぁ同じか。

ドキュメンタリー的なというか実際そのまま俳優にやらせている羊追いのシーンとか迫力ありましたなぁ。なんせ羊は演技じゃなくてガチで逃げてるわけですからね。ガチで羊飼い役の俳優に足引っ張られたり薬池に突き落とされたりして可哀想。でも広い広い草原で放牧生活を送ってんのであんまりのびのびできそうにない近代化された施設に囲われるよりは羊的に幸せなのかもしれん。

どっちの生活様式にも良いところはあって、悪いところもあって、その様式は個人の意志とか事情なんか一顧だにせずぐんぐん変わっていってしまう。時代の変化に翻弄されて戸惑いながら躊躇いながら生きる人々の物語と思えば普遍的な映画よね。中国映画だから中国の特殊事情も加わるが、こんな風に自分の力ではどうにもならない時代に流された抵抗したり時には乗ってみたりしながら、心の底に諦念を滲ませてみんな生きてるんでしょうよ。

何度両親に怒られても性懲りなくコンドームを風船にしたり勝手に近所のガキの持ってる笛と交換したり全裸で草原を駆けずり回ったりとザ・自由な子供たちはそんな大人の諦観を突き破って自分たちの決めたルールで時代と世界を遊んでしまう。やっぱそこにこの監督の思いは託されていたんじゃないすか。俺たちはもう無理だけどお前たちは自由に生きていいんだよ、みたいな。

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チベット近代化の波もの(そんなジャンルがあるのか?)映画といえばこれも面白かった。

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