お笑い美食映画『ザ・メニュー』感想文

《推定睡眠時間:0分》

この映画に心揺さぶられないオタクが果たして存在するであろうか。一回10万ぐらい取る上にごく限られた人間しか予約することのできない孤島の超最高級レストランに向かう船上、美食オタクのニコラス・ホルトは店で提供されるシェフ心づくしの超絶コース料理とは別に出迎えの一品として出されたレモンソースかなんかかけた牡蠣料理を食して感無量、その着想の素晴らしさを熱っぽくまくし立てていると同伴したアニャ・テイラー=ジョイが無表情に一蹴する。「牡蠣ぐらい小細工しないで普通に食えばよくない?」

ホルトはじめ客の誰もが予想を超えた、コース料理というよりもパフォーマンス・アートの領域に達している品々をときに困惑しときに感動しながら全身で味わっている中、アニャ・テイラー=ジョイの無表情は何を食っても動かない。ホルトの熱烈美食うんちくはなおも続くがその一つとしてアニャ・テイラー=ジョイの鉄のハートには届かない、ひたすら空回りする(しかしそのことに一切動じないホルトもアニャ・テイラー=ジョイとは別の意味で鉄のハートの持ち主であった)ホルトは客席にオープンになった調理場にも大興奮、「ワオ! あの芸術品の創造の現場がこんなに間近で見れるなんて! これを見逃す手はないよ!」だがアニャ・テイラー=ジョイの無表情は言っている。「だから?」

こんなの笑いが止まらないし心の中で涙も止まりませんでしょうよあーた! 絶対に経験あるよこれなんらかのオタクは! 俺だってですねここでいつもですね観た映画の感想をくどくど書いて最近では『すずめの戸締まり』は6000字ですよ! 5時間かけて6000字に渡って『すずめの戸締まり』はどのような映画でどんな狙いがありどう面白いのかと体力が尽きるまで語り尽くすわけですけれども映画にそんなに興味がない人からしたら俺の精魂込めた6000字映画語りは「だから?」だし「ふーん」だし「たかが映画じゃん」だからね!

…っていうこれはブラックユーモア映画。予告編観たらホラーかと思いましたけど違ったねそれも大幅に。お笑い映画ゆえ詳しい内容は口外不可だがオタクはめちゃくちゃ笑えそして身につまされることは(大体の場合において)間違いない。もしも『美味しんぼ』の栗田さんがアニャ・テイラー=ジョイだったらの想定の下かどうかどうかは知らないがそのように見えてしまうシチュエーションで勃発するシェフVS客VSオタクVSアニャ・テイラー=ジョイのオールボタン掛け違いバトルは絶品でございます。アニャ・テイラー=ジョイのせいで食のプロとしてのプライドがズタズタにされたシェフがキレて八つ当たり的に客の一人ジョン・レグイザモに明かす驚愕の真実なんか最高、こんな笑える理不尽なかなかないよ。

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似たもので言えばイギリスが誇るコメディ・ユニットのモンティ・パイソン。レイフ・ファインズ演じる食の彼岸に到達し料理の載ってない皿をあえて料理としてお出しするシェフをパイソンズ随一の発狂キャラ、ジョン・クリーズが演じる光景はありありと想像できるし、どんな惨劇が目の前で起こっても料理に没頭し料理うんちくを垂れ続けるこちらもオタクの彼岸に達したニコラス・ホルトを一人違う世界に没頭する役を得意とするエリック・アイドルが演じている光景だって想像できる、めちゃくちゃ理不尽な目に遭うレグイザモの役にはわけのわからないシチュエーションに巻き込まれる人を演じさせたら右に出る者はいないグレアム・チャップマンがぴったりだし、料理を食うことよりも料理を評することに関心があるジャネット・マクティアの料理評論家はパイソンズのおばさん役者テリー・ジョーンズがいいだろう(舌オンチのおっさん客と二役)、美食になんか一切興味がないくせに自分が道楽に大金を使える人間であることを自分にも他人にもアピールするためだけに店に来てる鼻持ちならない成金若造客はパイソンズの良心にして便利役者マイケル・ペイリン、すごいパフォーマンス料理を披露するチョイ役だが強烈なインパクトを残す副シェフはテリー・ギリアムが演じたらきっと面白いに違いない。

そういう想像がこの映画を観るとできてしまう。とにかくコース料理は驚きが大事だってんで驚きを壊さないために孤島のレストランで提供される超絶コース料理の内容およびそれに対する客たちの反応は伏せておくが、モンティ・パイソンを知っている人ならこれでまぁだいたいどんな感じかイメージできるんじゃないだろうか。知らない人はすいませんでもモンティ・パイソン面白いしNetflixとかにも全話あったはずだから観てね。観ればたぶんなんで俺がパイソンパイソン言ってるかわかるから。

エンドクレジットに入って目に飛び込んでくるのは製作:ウィル・フェレルとアダム・マッケイ。あぁ、なるほど、そういうことですか。と俺のニコラス・ホルト的うざった映画うんちくが始まる前に感想を閉じてしまおうと思うが、とにかくこれだけは念を押して言っておきたいのは、怖い映画ではなく笑える映画です。そういうつもりでまだ観てない人はお楽しみくださいネ☆

【ママー!これ買ってー!】


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テレビシリーズ『空飛ぶモンティ・パイソン』から名作スケッチを厳選して再演したパイソンズ映画の第一弾。後のパイソンズ映画と違ってメンバーは製作にほとんどタッチしていないのでパイソンズ的には黒歴史扱いになっているようだが、パイソンズ入門編に最適なベスト盤として未だその価値は高い。

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