中村D爆誕映画『劇場版 ほんとにあった! 呪いのビデオ100』感想文

《推定睡眠時間:0分》

TSUTAYAの邦画ホラーコーナーに行けばどこでも必ず置いてあるものの観たことはなかった『ほんとにあった! 呪いのビデオ』シリーズもこの劇場版で100作目ということで知らんうちになんかすごいことになっていた。まずそんなに心霊映像のネタがあるのかということに驚くし100本も続けられるくらい金稼げてたのかということにも驚く。日本映画は金にならないというがこういう例もある。なんだか希望をもらえる話である。

でその記念すべき100本目は劇場版ということで初代『ほん呪』監督にして現在はシリーズのナレーターを務めている中村義洋が監督復帰、中村義洋といえば近年のJホラー最恐候補作『残穢』を作った人であるからこれは期待していんじゃなかろうか、ふだん新作映画にはなんの期待もかけずに観に行く俺としては珍しくワクワクを胸に秘めて映画館に入った。東京での上映館がこれを書いている今の時点で池袋シネマロサ1館のみでしかも1日1回上映という不吉なインフォメーションはこの際見なかったことにする。

通常の『ほん呪』はおそらく心霊映像集に若干のフェイクドキュメンタリーパートを加えた程度だと思うのだがこちら劇場版はストーリー仕立てであった。いつものように『ほん呪』のナレーションを吹き込んでいた中村義洋は画面に映し出された呪いのビデオが十数年前にも『ほん呪』制作陣宛に送られてきたものであることに気付く。以前の投稿主の行方はさすがに十数年前とあって不明、だが今回のビデオの投稿主である大学生はビデオを観て以来何者かの視線を常に感じるようになったといい、これはどうやら呪いと判断した制作陣は大学生を救助するというよりは『ほん呪』の新作のネタにするためにオリジナルのビデオの捜索に乗り出す。だが時は折しもコロナ禍の2022年、制作陣は一人また一人と新型コロナに倒れていき…。

結論から言うとかなりおもしろかった。いやもうかなりおもしろかったよこれはアレですフェイクドキュメンタリー版のあるいはコロナ禍の『残穢』。一見無関係な点と点が辛抱強い取材によって線となり呪いの連鎖と人間の業が浮かび上がってくるシナリオは心霊ミステリーとして上出来で、そこに民間伝承とコロナ禍を見事に絡めているのだから舌を巻く。ジャンプスケアのような分かりやすい怖さはこの映画にはない。オバケの登場は最後の最後にちょっとあるくらいでそれまではビデオの呪いで少しずつおかしくなっていく制作陣や投稿主が怖さを醸し出す主な装置。このじっとり感! いや~Jホラーって感じすね~。俺こういうものの方が頭であれこれ想像しちゃうから怖いと思いますよやっぱ、オバケがどーんと出てくるやつとかよりも。

あと怖いのだけれども笑える場面が結構あるっていうのもこの映画の良いところでしたな。それもねホラー演出と同じでこれ見よがしな笑いじゃないんですよ。空気感の笑いっていうか、台詞の間とかすっとぼけた状況で笑わせるタイプ。その源泉は監督兼ナレーション兼「中村義洋ディレクター」役で主演の中村義洋で、心霊フェイクドキュメンタリー界の名(迷?)ディレクターといえばやはり『コワすぎ!』の暴力ディレクター工藤ですけれども、喜ぶべきことに今回そこに中村義洋ディレクターが加わった。

工藤Dは取れ高のためなら暴力を厭わない映画の鬼だが中村Dは取れ高よりも何よりも保身を最優先、人手不足を理由に呪いのビデオの取材を要求されると「いやいや、それだとナレーターが自分をナレーションするみたいなおかしなことになるじゃない」と説得力の著しく低い言い訳を繰り返してスタッフに嫌な顔をされ、そこに呪いのビデオの謎が隠されているかもしれない廃墟を前にすれば表向きは冷静を装っているが完全にビビって「いやいや、それだと心霊YouTuberみたいになっちゃうから」を何度も繰り返し「行きましょうよ!」と前のめりな若手スタッフたちに軽くキレられ、ビデオの呪い効果を実証するためにビデオ全編を見ることを他のスタッフ全員に提案されるとシリーズ創始者の立場をフル活用し「私はともかく〇〇さんには見てもらわないと」と何食わぬ顔で別の古巣スタッフを犠牲にする。とにかく絶対に火の粉を浴びたくないその徹底した保身っぷりはあまりにも情けなく卑怯で最高だった。

劇場版といってもこれでシリーズを幕引きにするわけにはいかないので最後は一応めでたしめでたしのハッピーエンドなのだが、鈍感な人なら見逃してしまうかもしれない事件の真相がそのラストシーンには映り込んでいる。なにやら似つかわしくない朗らかな音楽が流れスタッフたちの笑い声が響く中、あれ、もしかして…と気付くとゾッとすると同時に、そのブラックユーモアにニヤリニヤリ。いやはやこれは良く出来てるなー。当然ながらシリーズの1~99作までの1本も観てなくても楽しめる映画なので、ホラー好きはみんな観たらいいと思います。上映館、拡大してくれ!

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これ映画館で観たときオバケが出そうで家に帰るの嫌だったなぁ。最近のJホラーはバラエティ色とか企画色が強いので、こういうガチめに怖いやつは貴重だと思います。

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