読むと寿命が3日になる映画『カウントダウン』(2019)感想文

投稿日: カテゴリー 居眠り映画館タグ , , ,

《推定睡眠時間:0分》

自分の余命がわかるアプリを入れたら余命残りたった僅かとかいうどこから見ても絶対に大して面白くなさそうなあらすじ及び検索に単独では絶対に引っかからないゼロ引力のタイトルから間違いなく「とりあえず」の感じの映画だと思っていたのにまさかのA級完成度! 驚きのあまり体感的寿命が残り三日になってしまった!

これは…これはすごいぞ! いや、あえて! あのあえて言っておきますけれども「すごいぞ!」と思って観るとたぶんめっちゃ普通です。すごいよね~このレベルのホラーでも今は普通ってことになっちゃうんだもんね~。みんな世の中は悪くなる一方だみたいなこと言いますけどホラー映画のクオリティに関して言えば良くしかなってないですよ。質感とか雰囲気とかアイディアの自由度なんかでは確かに昔のホラー映画の方が面白いというか味があるとしても全体的なクオリティはやっぱ明らかに上がってますからね…じゃあ『ゾンビ3』と『ウォーム・ボディーズ』のどっちが映画として完成度が高いかといったら『ウォーム・ボディーズ』に決まってるんですよ、愛せるのは『ゾンビ3』だとしても。…愛せるか?

いやそんなことはどうだっていいんだよ! つまり『カウントダウン』、技術レベルが非常に高かったということを言いたいのだ! たとえば構図を見てみよう! この映画はシネスコの画面サイズで撮られているが、その扱いたるや熟練の技、まるで映画学校の授業で使う教材のようである! 登場人物を中央に置くとしてシネスコの場合は横長だから左右が広く空く。ここに何をはめるか、あるいは画面の左右を使ってどうダイナミックな映像ドラマを展開できるか、立体的な構図を作れるか、といったものがシネスコの課題の主たるものであろうと思いますか、ホラーであれば当然ながら登場人物の背後に何かが立っている…という使い方が第一に考えられる。

この映画はそうしたベタにきわめて意識的だった。最初の恐怖シーンはこのようなもの。家の洗面所に被害者役の女が立っている。その背後には向こうに木の枝が見える窓があって今にも窓を割って何かが侵入してきそうである。観客の注意はとりあえず窓に向かうだろう。と、ここでちょっとした不穏な物音がする。なんだろう、と女が横を見るとカメラがパンしてバスタブとカーテンが映り込む。第一の構図では女を中央に配して背後の窓との関係を作りだす。次に、カメラがパンすると女は画面の左側に寄って、注目点がバスタブになる。ここから怖いものが出てくるのだろうか…しかし何も出てこない。問題はその次だ。カメラはパンして第一の構図に戻り、再び背後の窓が画面に不吉な影を落したところで…思いも寄らぬところから怪異が襲いかかってくる!

なおこれはもしかしたら記憶違いの可能性もあるので正確にこうだったということではなくまぁこういう感じのシーンがあった…という風に理解してもらいたい。

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撮影に関してもう二三の例を挙げておこう。これは比較的シンプルな仕掛けだが主人公は病院のインターンだかということで病院のシーンがよく出てくる。その病院の廊下の壁にはそれぞれ色調の異なる絵が等間隔で飾られており、会話の中で登場人物の単独バストショットなどになるとその人物の両脇をこの絵が埋めて三幅対のような構図を作る。そこになにかしら意味があるかと言われればとくにないと思うが、単純に綺麗だしつまらない会話でもこういう風に撮ればなんとなく面白く観れるというものだ。

こうしたシネスコの活用法はジョン・カーペンターの影響を感じさせるものだったが、ズームとかトラックアップとかカーペンターがあまり用いないカメラの奥移動はサム・ライミの影響があるように見える。こんなどうでもいいところをそんなテクニカルに撮るか! と驚嘆を禁じ得なかったのは主人公が病院のエレベーターに乗る場面である。乗るだけの場面である。主人公は廊下を進んでカメラはワンカットでそれを追う、主人公はエレベーターに乗って扉を閉める。すると不思議なことが起こるのだ。カメラは閉まったはずの扉の位置からエレベーター内の主人公を、あたかも何事もなかったかのように撮り続ける!

すごいのはこのシーン、このショット、別に怖いことは何も起こらないのだ。本当にただ主人公がエレベーターに乗って扉を閉めるだけの絵を作るためにわざわざ無意味なテクニックを使って一体なにになるというのか…まぁ「なにかがおかしい」という感じであるとか微妙に厭な雰囲気はまぁ伝わるかもしれない。しかしちょっと考えてみて下さいよみなさん。そんな微妙な効果を出すためだけに普通こんな手間かけますか?

この映画、全編そんなですからね。そりゃすごいとしか言いようがないよ。どんなに小さなショットでも手を抜かない。どこを切り取っても計算されている。そのひとつひとつは大した効果は生まないかもしれないが、神は細部に宿るというし、この映画の場合は悪魔が出てくるから悪魔が宿ると言うべきかもしれないが…そうした工夫の積み重ねがこんな糞みたいなアイディアの映画をA級水準まで引き上げているのだ!

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要はコンテが精緻に作り込まれているということなのですがすごいのはコンテと撮影だけではなく編集だって見事なもの、これはどこがどうすごいとか言葉では説明しにくいのですが全体的にカット尻が短い、見せたいものだけを見せてパッパと絵が切り替わっていく非常にハイテンポな編集になっていて、そういう場合には基本的に軽い印象を観ているこっちとしては受けるわけですが、存外ホラーなムードを保っているのは奥行きのあるシネスコ構図であるとかなんでもないところで差し挟まれる技巧ショットのおかげで、逆に言えば性急な編集がそうした絵を際立たせていると言える。

なにせ残り寿命はあと一日ですみたいな映画なわけだから登場人物も焦ってるし急いでる。様々な点でこの編集は効果的だったように思う。切迫感を伝えるという点でも、不意の恐怖を際立たせる(こんなテンポなら突然カット尺が長くなるだけでもサスペンスが生じる。その緩急の使い分けは教科書的だがよく練られている)という点でも、あるいは矢継ぎ早に出来事を連鎖させることで観客を無理矢理映画に巻き込む効果もあっただろう。

以上は映像技法のお話ですが徐々に本筋から逸れていってエキセントリックな味キャラを次々と巻き込みながらバカとホラーとアクションの混在するカオスワールドに突き進み、かつ、一応主人公の家族のドラマとして成立して…いるのかいないのか微妙なところだが、でもなんか破綻寸前で成立してしまっているように見える、イイ話と思わせるシナリオも技ありで、ずいぶん強引な技だなとは思うが先読み不能でかつバラエティに富んでいて面白いのは間違いない。むしろその強引さに感心する。よく呪いのアプリとかいう糞アイディアからそこまで話広げて畳んだなと思う。

ホラー描写は音と顔で驚かすコケおどしタイプも多いがJホラー的なじっとりしたものも多い。幽霊的な何かの足の関節がぐにゃりと反転するところとか実に厭な感じである。といって怖すぎるわけでもなく、怖くなりそうになってきたら変キャラが登場して和んだりする。その匙加減! いやいやもう、粗いところは確かに無くはないですが、このテクニックとエネルギーは些細な粗さを補って余りある。主人公まわりの人間ドラマも丁寧に掬って、いわゆる死にキャラというか、とりあえず怖いシーンを作るためだけに出てくるモブキャラが存在しない。こいつはモブだろうなと思ったキャラもしっかり物語に絡んでくるので、たかだか90分前後の映画でその丹念な作りは…驚きの一言。

監督・脚本はジャスティン・デックというこれが長編初監督の人(短編映画ではいくつも賞もらってるらしい)。伝統的にホラー映画は若手監督の登竜門ですからこれもジャスティン・デックのポートフォリオ的な側面があるんでしょうねぇ。こんな100点のポートフォリオ提出されたらもう採用しかないでしょ。この人が次いきなり『猿の惑星』の続編とかそういう大作後始末仕事を任されたとしても驚くには当たらない。というかやってほしい。IMDbを見る限りまだそういうオファーは来てないっぽいですが、いやぁ、これはまた一人アメリカン・ホラー界に素晴らしい才能が現われたなと、今もう興奮しっぱなしです。

※最近観た『ジェクシー! スマホを変えただけなのに』という映画にすげぇ客に当たりの強いスマホ屋店員が出てきましたが『カウントダウン』のスマホ屋店員もやたら当たりが強かったのでアメリカのスマホ屋店員は当たりが強い。

【ママー!これ買ってー!】


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このままでは遺作になってしまいそうなジョン・カーペンター現時点での最新作となんとなく共通するところがあったかもしれない。

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