そのタイトル表記は勘弁してくれ映画『か「」く「」し「」ご「」と「 』感想文

《推定睡眠時間:10分》

タイトルの字面がなんか似ている上に向こうは向こうで「描く仕事」のお話だった『かくかくしかじか』を観た記憶がまだ新しいので正式名称を書くのがだいぶ煩わしく視認性も極悪なこの略称『かくしごと』を観ながら脳内に寄生したままの昭和セロデリカシースパルタ絵画講師大泉洋が「お前らさっさとセックスしろバカ!」とそんなセリフは『かくかくしかじか』において一言も発していないにもかかわらず大声で叫んでいた。

現代の食人族の生態を描いた衝撃作『君の膵臓をたべたい』の住野よる原作をまたもや映画化したこの映画も『君たべ』と通ずる優しげで内省的でちょっと寂しい現代の高校生たちの青春群像劇。主人公は他人の感情が記号の形で見えてしまうという特殊能力なのかメタファー的なものなのか微妙な感じの特質を持つ内向的な現代男子高校生なのだが、クラスの元気っ子女子に惚れているこの人、告白どころか友達の距離に近づくことすら怖気づいてできない始末。

だが怖気づいているのは実は主人公だけではなかった。この主人公のクラスにいるのはあきらかに無駄にメンタルが脆くなにげない一言で傷ついてしまう豆腐でできた人間ジェンガのようなめちゃくちゃめんどくさいやつばかり。そいつらがそれぞれ片思いしているもんだからさぁ大変だ、何気ない言動であっさり精神が崩壊し泣く、学校に来なくなる、失神する! もちろん誰一人として告白などできるはずもなく、好きな人がいることを友達に打ち明けることさえもできず、表向きは仲良くしているのだがその実みんなホントは一人で悩み、苦しみ、独り言をつぶやき…やかましいわお前らさっさとセックスしろバカ!(※これはあくまでも俺の脳内の大泉洋が放っている暴言であり高貴で柔和な俺の発言ではありません)

まぁ会話にしても考え方にしても現代の高校生こんな感じだよなって気はしたから特殊な設定を除けばリアリティのあるドラマになっていたとは思うし、その特殊な設定というのも超能力というよりかは過度に他人に配慮して勝手に萎縮してしまう自意識過剰さの表現というふうで、今の日本の高校生の一面のリアルを描いた映画としてはなかなか良く出来ているんじゃないかとは思う。でもリアルなだけじゃないかとも思う。リアルなだけで面白くない!

恋愛絡みの主にヤングウーマン向け高校映画ということでキラキラ映画とは共通するところが多々あるが、どこが違うかといえばキラキラ映画は基本的にプログラムピクチャーなのでプロットがしっかりしてるんである。つまり物語の起承転結であるとか主人公の目標が明確。対してこちら『かくしごと』はもうなんかずっとふわふわしてる。ただ現代高校生たちの無駄に傷つきやすい日常をダラダラと起伏なく目的もなく垂れ流しているだけというふうで、劇的なことも起こらないから展開に面白みがまるでない。例の超能力も設定倒れで物語的にも映像的にもさほど生かされることなく、ただ見た目がなんとなくポップな感じになるというそれだけの意味しかない。てか感情が記号として見えるというが怒ってる記号の浮かんでる人は顔が怒ってるし嬉しい記号の浮かんでる人は嬉しい顔をしているのでだったら記号いらんだろ。

無駄に傷つきやすい現代高校生のらしさを表現するためか主要登場人物全員が順番にモノローグで心情を語っていくのもちょっと呆れてしまう感じだ。そのへんもしかすると原作のテキストを色々入れたかったということかもしれないが、これはあくまでも映画である。映画であるからには映像としてちゃんと面白いものにしてくれないと映画にする意味がないわけで、モノローグで心情を全部説明してしまうものだから画面はノベルゲーの背景のようになってしまい、ことあるごとにモノローグが入るからテンポも悪くドライヴ感なし。テンポやドライヴ感を重視しがちなキラキラ映画とはそんなわけで似て非なる映画といえる。あくまでもリアルな現代高校生活の空気を楽しめという感じか。

というわけで面白くない。その上に現代高校生どもの過剰なナイーブさにムカつく。この全員を『フルメタル・ジャケット』の訓練所に送り込みたくなってくるが、しかし、映画というのはおそろしいものである。出てくる全員が男も女もみんなかわいい。見た目も考えもみんなかわいい。かわいいからまぁいいかとなってしまう…! これがおめぇ高校生のすることかいなと呆れながらも異常にか弱く未熟な現代高校生たちを見ていると疑似親心が芽生えてしまい気分は保護者、こんな甘ったれたガキどもはハートマン軍曹のスパルタ指導で発狂させるべきと理性では思いつつ、まったく君たちときたらしょうがないですねぇ…ほら、泣くのをやめて生あたたかい酢だこさん太郎でも食べなさい、おいしいよ、ほっほっほっ…と感情の面ではニコニコである。

そうした意味でメンタルジェンガなかわいい若造どもを演じた役者陣、奥平大兼、出口夏希、佐野晶哉、菊池日菜子、早瀬憩のアンサンブルがこの映画の魅力の9割といってよい。それぞれのキャラクター名や日付をテロップで出す章立て構成は『桐島、部活やめるってよ』を意識したものかもしれないが、桐島が多数の演技派若手スタア役者を輩出したように、ここからも何人かは未来のスタアが飛び出すかもしれない。

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パン毒
パン毒
2025年5月31日 2:21 PM

予習として原作読んだんですけど、
原作の方は「一種のデフォルト化したキャラ造成」と「感傷的になり過ぎずテンポよく進むストーリー運び」によって、普段小説を読まないような高校生にも読みやすいポップな作品になっていて流石「君の膵臓を食べたい」の作者だなーって感じでした。
逆に映画だと主要登場人物が五人もいるせいで若干ごちゃついて見えたり、細かい描写をカットしてるからなのか分かりませんが変なテンポの箇所があったりと少し歪に見える所があって気になってしまいましたね。
ただ、最近よくある「青田買い的に若手俳優集めて青春映画撮るか」みたいな映画の中では悪くない方だと自分は思いましたよ。
追記 ちゃんみなの主題歌、なんかちょっと本編とイメージ違いませんかね?