笑って超越豊田利晃まつり映画『次元を超える TRANSCENDING DIMENSIONS』感想文

《推定睡眠時間:0分》

『次元を超える』! この映画2024年1月1日の時点で2024年公開予定とアナウンスされていたので2年弱待ってようやく公開と感慨もひとしおだが、それにしてもすごいタイトル、豊田利晃の最新作がこれと知って「(また)超えてしまうのか!?」と思った人は一人二人ではないだろう(しかも窪塚洋介が主役級で出演)。豊田利晃といえばニューエイジャーである。ニューエイジというのはざっくり本屋さんの精神世界コーナーに置いてあるあれ。1960年代のヒッピーカルチャーから派生した西洋社会のさまざまな問題を乗り越えようとする霊性運動とでも一応は言えるがその範疇は広くディープエコロジーなども含まれる。近年スピリチュアルと呼ばれるものもニューエイジの下位文化だ。ということで『次元を超える』はそういう人が撮った映画ということを念頭に置いて観るが吉。

内容的には豊田利晃2012年の作『I’M FLASH!』の精神的続編みたいな感じだろうか。『I’M FLASH!』は松田龍平演じる殺し屋と沖縄のカルト宗教3代目教主の藤原竜也が戦う映画だったが同じような衣装と同じようなキャラで登場の松田龍平が今度は千原ジュニア演じるサイキックパワーを持つ小指集めが趣味の宗教家の殺害を依頼され、千原ジュニアに念力玉攻撃を受け、更に千原ジュニアによって人間のインナーユニバースの科学的探求により宇宙の終端を発見しようとする科学者のもとに送り込まれた修行者・窪塚洋介との遭遇によって自身もサイキックパワーを得たことで、千原ジュニアを快く思わない地元のへっぽこ山伏・渋川清彦も交えたり交えなかったりしながら、ジュニアと窪塚のサイキックバトルに巻き込まれつつ宇宙の終端を目撃するというお話である。うん、よくわかんなくてとてもニューエイジ!

にしてもドキュメンタリーの『プラネティスト』と『戦慄せしめよ』はあるといってもフィクションでは豊田利晃の長編商業映画は結構ひさしぶり、2018年の『泣き虫しょったんの奇跡』以来7年ぶりの長編で、2019年に拳銃所持のかどで警察にしょっぴかれ(この拳銃は祖父の形見で錆びて使用できるものではなかったため、のち不起訴)、そこにコロナ禍の到来してしまったため、長らく長編フィクション商業映画は撮れなかったらしかった。といってもコロナ禍中の豊田利晃は実験的な短編自主映画を多く発表して俺判断ではコロナ禍の邦画界でもっとも活動的だった映画人。それだけにひさびさのフィクション長編商業映画、さぞや力の入ったものになっているだろう……と思いきや!

なんかゆるかった。それもかなりゆるゆるで……ていうか意図的に笑わせに来ているな! キャスト的には『ポルノスター』主演の千原ジュニア、『蘇りの血』『火花』(板尾監督作で共同脚本が豊田利晃)で共に仕事をした板尾創路、『青い春』からは松田龍平とマメ山田、コロナ禍短編の『全員切腹』からは窪塚洋介と芋生悠、『プラネティスト』の中村達也も音楽で参加し、『ポルノスター』からの豊田映画の常連である渋川清彦も当然出演と豊田映画オールスターズ(ついでに東出昌大も豊田組おそらく初参加)、しかしオールスターズだからと気負いはあまりなく、逆にというかよく知った顔ぶれを集めてリラックスしながらわいわいやったお祭り感強し、千原ジュニアの指一本で昏倒するへっぽこ山伏の渋川清彦といい酵素風呂からぬっと現れる東出昌大といいギャグマンガに出てくる博士みたいな台詞をのたまう板尾創路といい、なかなか笑わせられるのだ。渋川清彦が千原ジュニア寺のトイレに入ったら全裸の女が便座に座っていてめっちゃ驚くが全裸の女は「暖めておきました」、とか意表を突く冴えたギャグである。

豊田利晃の映画というのは『泣き虫しょったんの奇跡』までは張りつめたムードや思いつめた登場人物が大きな特徴であった。その人がいろいろあって馴染みのスタッフ、馴染みの演者たちとこんな気の抜けたユーモラスな映画を撮るというのはなんだかイイ話。まぁストーリーは急に地球から宇宙の終端までカメラが引いていくシーンになったりとおそらく意図的によくわからないのだが、あんまり深く考えないで芸達者たちの競演と奇抜な映像をカッコイイ音楽と共に楽しんでくださいとそういう感じの映画ではなかろーか。松田龍平を一番カッコよく撮れる豊田利晃なので松田龍平のサイキック殺し屋っぷりはもちろんカッコよく、千原ジュニアの秘めたる怖さを一番よくわかっている豊田利晃なので漫談家みたいな口調で「じゃあ、小指切って?」とか突然言い出す千原ジュニアは怖い、そして渋川清彦は新境地のへっぽこ芝居開眼。マンションから跳んだ窪塚洋介の本気感も見物。

そんなようなお祭り映画、ニューエイジャーの豊田利晃だから明らかに『AKIRA』オマージュ(※『AKIRA』は『幻魔大戦』と並ぶ日本におけるニューエイジ映画の代表作)の超能力描写なんかこれ楽しんで作ってるんだろうなーってなもんだしな、大麻でもや……あいや大麻は違法ですから大麻ではなく酒でも飲みながらぬる~っと観たらかなりイイ感じにトリップできると思われます。でも、このゆるいムードの底には、大事な人の喪失を抱えた人たちの悲しみが見えるのだけれどもね。そういうところ、なんだかんだ真面目な豊田利晃であります。

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