宇宙SF大チャンポン映画『アド・アストラ』感想文

《推定見逃し時間:35分》

一つが狂うと万事が狂う重大なセキュリティホールの確認されている性格なので今日は家を出るときに腕時計を忘れてしまったのだがそのせいで予約していた『アド・アストラ』の上映開始時間を間違えてしまい、劇場に着いた時には既に上映開始から20分以上が経過、あまりのショックにガックリと劇場のロビーに座り込んでちょっと泣いてしまった。

悔しい。間に合ったはずのものに間に合わないで予定が崩れるとかもう本当に嫌である。これが電車の遅れとか突発的な事故とかなにかしら外部要因によるものならそのせいにすればいいが時間を間違えたのは俺なので怒りのやり場がない。
そのうえ上映開始までの時間つぶしにやっていたことがブックオフでの五島勉のノストラダムス予言本さがしとかいうクソオブクソ行為だ。自分の愚かしさにただただ泣いてしまう。本当に無駄な時間を過ごしたと思う。五島勉のノストラダムス予言本も結局見つからなかったのでブックオフも五島勉も嫌いになったし勢いでバイトを辞めたくなった。最後のはいつも思ってることなので関係ないかもしれない。

という最悪メンタルではあったがせっかくチケットも買っちゃったので最初は帰ろうとしたものの結局観ていくことに。その感想を一言で言えば、泣かないでもよかった。冒頭30分を五島勉のせいで観られなくても泣かないでもいいぐらいの映画だった。よかった。これがめちゃくちゃ面白い映画だったらいくら五島勉を呪っても呪いきれなかっただろう。いつのまにか怒りの矛先が自分から無関係の五島勉に向いている。

むしろ五島勉のノストラダムス本を探していてよかった、といえば自分を納得させるための完全なる嘘になるが、五島勉のノストラダムス本を探していたことと映画の内容が遠い宇宙の彼方でリンクしたので映画体験的にプラマイゼロぐらいになったのは事実である。

俺が五島勉のノストラダムス本を探していたのはやがてオウム真理教の思想的背景の一部を構成することとなる70~80年代日本のオカルト終末論の実物をちゃんと見ておくためだったが(今そういうのがマイブーム)、SF版『闇の奥』といえば聞こえのいい『アド・アストラ』もざっくり家族や職場の誰かがコアなオカルトビリーバーになったりカルト宗教にハマったら周囲の人間は大変だ、みたいな内容だったのだ。

家庭なんか顧みず知的生命体を探しに深宇宙まで行って消息を絶ったスペース・カウボーイのトミー・リー・ジョーンズ。それから30年、自身も宇宙飛行士となったブラッド・ピットは実は親父は冥王星らへんで生きているらしいと知らされる。
そのころ人間社会は大宇宙航海時代。地球では資源を巡る争いが絶えないので資源欲しさに月にも火星にもどんどん基地を作って宇宙開発に邁進しているのであったが(※ここらへん観てないので想像)そこで問題が浮上、謎の電磁パルスのようなものが不定期的に宇宙人類を襲い開発に待ったをかけ、ひいては人類存続の危機となっていたのだ(終末だ!)

どうもその件に親父は噛んでいるらしい…ということで親父の暴走を止めるために冥王星に旅立つブラッド・ピット。まあ、ようするに、あんまり宇宙人とか信じすぎると家庭とか職場の人間関係壊すよってことですね。トミー・リーの場合は人間関係を壊すぐらいでは済んでいなかったが。

< それにしても、ベートーベンの『月光』をバックにブラピが空虚な表情で宇宙をさまよう予告編からは静謐な思弁的SFを想像したが、本編を見ると案外そっち方向と見せかけてBな寄り道ばかりするパルプ寄りSF。 なんだったんすかね宇宙船内で暴れる人食いヒヒとかあれ、急なホラー展開びっくりしたよ。あれもなに電磁パルスみたいなやつでおかしくなったの? そのへん最初の30分を観てないのでよくわからないが、ともあれ本筋には完璧に関係ないというのはわかるし、ブラピと人食い宇宙ヒヒが戦ったら面白いというのも言を俟たない。 なんでそんなところにあるのかよくわからない僻地のロケット発射台に向かうべくブラピは発射台に通じるなんでそんなところにあるのかよくわからない水浸しの整備通路に入って宇宙服を着たまま泳いで発射台に向かう。理由はたぶんその方がおもしろいからだろう。 発射されたロケットになんとか乗り込みたいブラピは絶賛上昇中の機体にしがみついて外からエアロックのハッチを開けてしまう。理由はたぶんその方がおもしろいからだろう。 だいぶ入植が進んでいるらしい月面ではちょっと基地の外に出るとマッドマックスな燃料強盗団が改造車両で襲ってくる。月ちっちゃいんだからすぐ身元バレるだろうそんなことして奪っても、とは思うがおもしろいから問題ない。 侵入者を排除すべく物騒にも宇宙船内で銃を撃つやつがいたり(船内使用目的のゴム弾みたいなものかもしれないがそれにしたって機体があぶない)なぜか船内のそこらへんに凶器が刺さっていたり工具箱感覚で核兵器が宇宙船内に保管してあったりするが(置くなよ!)、おもしろいから問題ないのだ。 プランB作品の名に恥じないなんとアッパレなB級サービスっぷり。そのくせ『闇の奥』(というより『闇の奥』が元ネタの『地獄の黙示録』)を下敷きにした物語はシリアスなトーンを崩さないしブラピの演技も一本調子の仏頂面なので映画をどこに向かわせたいんだかよくわからない。マックス・リヒターの劇伴も目をつむって単品として聴くと実に浸れるが映像に乗ると基本的にBなのでなんか浮いてしまう。おもしろいがなんだかよくわからない映画だ。 壁面にうつくしい地球の自然風景を映し出す宇宙ネタのSF映画でめちゃくちゃよくあるやつが堂々と何の工夫もなく出てくるところからすると、そのアシッドな自然風景は『地獄の黙示録』オマージュでもあるだろうが、『エイリアン』から『惑星ソラリス』から『サンシャイン2057』から『ゼイリブ』から『ダークスター』から『アルマゲドン』から『2001年宇宙の旅』からと過去の様々なSF映画の引用・オマージュで映画を埋め尽くそうとする意図があったのかもしれない。 その取るに足らない無節操SFチャンポンを楽しめということか。宇宙人カルト二世のブラピが物語の最後で見つけたトミー・リーの真実はまったく取るに足らないものだったが、五島勉のノストラダムスがそうであるように取るに足らないものほど面白いのだ。 車移動感覚の星間移動、宇宙への畏怖を微塵も感じさせないスケール感のなさ、バカみたいにバタバタ死んでいく宇宙エリートたち…のB級感と反比例する四次元的な宇宙船造型や古代遺跡っぽい火星基地の美術のすばらしさ、無音多用の音遣いのおもしろさ。 なんだこりゃとは思うが五島勉にやられた30分見逃しの傷を癒やしてくれるぐらいにはたのしい『アド・アストラ』なのでした。 【ママー!これ買ってー!】


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宇宙の果てまで行くとみんな狂ってしまうらしい。

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