ナメてた遠征先が悪魔教映画『ダーク・マッチ』感想文

《推定睡眠時間:15分》

時は1988年、そう栄えているわけではないが食い詰めるほどでもないそこそこ人気な地方プロレス団体にかつてないギャラの遠征オファーが舞い込んだ。さっそく乗り込むプロレス一座、辿り着いたのは中で大規模なパーティをやってるプチ豪邸だ。これは僥倖と酒とパーティガールにうつつを抜かす一行だったが主人公の女子ヒールレスラーだけは野生の勘でなにやら危険なものを感じ取る。そう、このオファー、実はプロレスのデスマッチで悪魔に生け贄を捧げようとするプロレス・カルトが仕組んだ死の遠征試合だったのだ……!

すごくバカなあらすじの映画なのだがなぜかトーンは終始一貫してシリアスというのが逆に可笑しいこれは愛すべきバカ映画。バカではあってもへっぽこに非ず。チープ感はあまりなく徐々に不穏なムードを高めていく映像面はしっかりしているし、ちょっと抑揚に欠くところはあるがシナリオに捻りもあるので、こんなにちゃんと撮れる技術があるのになんで設定だけバカなんだというズレが愛おしい。本気で茶番をやるという意味ではこれはプロレス精神なのかもしれない。

見所はやはりプロレス対決でしょうな。プロレスで生け贄に捧げるというがこれは悪魔教チームと主人公チームが戦うのではなく、主人公の所属する団体に殺し合いをさせる。小さな団体とはいえ単独でプロレス興行をやってる団体なのでそこには様々なヒーロー役とヒール役がいてドラマ(茶番)を演じるわけだな。でいつもは敵対しているように客に見せつつ実際はお互いに協力して試合を作っていくわけだが、おそるべしプロレス・カルト、団体のメンバーたちはヒーローとヒールで楽屋を別にされた上で相手を試合で殺さなかったらお前を殺すと脅され、結果それまで和気あいあいだったプロレス団体は身内で殺し合うハメになるのである。

意外と陰惨だがこれはあくまでも生け贄の儀式なので各デスマッチは風、水、火、土の四大元素によって色づけされており、たとえば風の試合であればリングに巨大扇風機が設置されレスラーたちは強風にあおられながら殺試合(ころしあい)を繰り広げるのだ……ってバカだなおい! それ生け贄の儀式っていうか『風雲!たけし城』だよ! 風の試合やスプリンクラーでリングに雨を降らせるだけの水の試合のギミックがかなりショボい一方でリング上にガラス片を混ぜた土を敷く土の試合のギミックはえぐいがいやそれはガラスが痛いという話であって土はあんまっていうか全然関係なくない!? ということで陰惨なはずなのに陰惨よりもバカっぽさが勝つため案外暗い気分にならない。

「仮面で悪事を隠そうとしても無駄だ! なぜならな……神の目には仮面の下の素顔がすべてお見通しだからだ!」とかいうマイクパフォーマンスが最高なキリスト教原理主義(のキャラ)タッグ、リングではもちろんリングの外でも常にルチャマスクを身につけ無言を貫くマスクマン、チェーンが必殺技だが実は団体所属レスラーの中でいちばんの頭脳派な女子ヒールレスラーの主人公、キャラ付けのための悪魔教信者を演じていたら本当にそうなってしまった漫☆画太郎『地獄甲子園』に出てくる相手校の極悪監督みたいな見た目の元プロレスラーのプロレス・カルト教祖など、プロレス映画だけあってキャラ立ち充分、殺し合いだからどんどん退場していってしまうのがもったいないが、そういう味キャラたちがいろんなバトルシチュエーションで戦ってくれるので、プロレス映画としての満足度は高かった。

遠征先がヤバかった系だと売れないパンクバンドが呼ばれた先は麻薬工場という『グリーン・ルーム』が有名作だろうが、これもそのジャンルの新たなオモシロ作として加わったな。ナメてた相手が殺人マシーンのジャンルにはぶっちゃけ飽きたので、今後はナメてた遠征先がヤバかったジャンルの映画に期待したい。

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