ブルース死すともドラゴン死なず映画『夢物語 The Living Dragon』感想文

《推定睡眠時間:0分》

元々『夢物語』シリーズはカンフー映画全盛期の香港で活躍していたアクション・レジェンド倉田保昭のプロモーション短編で今年80歳になる倉田保昭がまだ動けるぞいということで様々なアクションを見せる作品、田舎暮らしの平凡な爺が昼寝をすると夢の中で色んなアクションシチュエーションに……というお話なので『夢物語』。その長編版となる『夢物語 The Living Dragon』は全3話のアクション・オムニバスだが、それぞれのエピソードにタイトルとスタッフロールが付いていたので、おそらくこれも元々は『夢物語』シリーズの短編として制作されたものが、後から1本にまとめられてこの形となったんだろう。

倉田保昭プロモーション映画なので映画が始まると愛犬(全エピソードに出演しているおそらく倉田家の愛犬)を散歩させていた倉田保昭が川辺で1人石を投げる少年を捕捉、何か嫌なことでもあったのだろうと倉田老人はおもむろに少年に近寄ると、蕩々とレジェンドの含蓄にじむお説教を始めて少年を勇気づけるというまことにありがたい展開である。ふつうの人の説教ならですねぇそうですねぇふーんと受け流してしまいたくなるが相手がレジェンド倉田となれば話は別である。「あの雲をごらん。君には何が見える? 私には龍……ドラゴンに見えるよ」などと戯言を言われても「ドラゴンだ……ドラゴンに見えますよ先生! 俺もドラゴンになれる!」とか叫んでしまいそうだ。

レジェンド倉田は少年を通して観客に語りかける。これから始まるお話はそれぞれの監督が見た夢なんだ……この台詞は映画を見ている間はそうなのかとしか思わなかったが後で検索したら(パンフレットで確認したかったが売り切れてた)3エピソードの監督を務める坂本浩一、谷垣健治、下村勇二の3人はいずれも倉田アクションクラブ出身だそうで、ということはこの台詞は師父たるレジェンド倉田がかつての弟子たちにかける言葉でもあったんだろう。まだ1ミリもアクションしてないしプロモーション映画だから相当な低予算で自主映画に近い撮影水準にもかかわらず、なんとも粋で泣ける導入部である。説明不要かもしれないが谷垣健治と下村勇二は今や日本を代表するアクション監督であり、主に特撮・ニチアサ系で活躍する坂本浩一はそれに続こうとしている人なのだ。連綿と続くアクションの夢、情熱。映像は本当に安っぽいがその内容はあまりにもアツい。

ということで始まった第1話は坂本浩一編だが、『妖獣奇譚 ニンジャ VS シャーク』など自身の監督作も多いとはいえ、映画監督としての腕前で言えばさすがに谷垣健治や下村勇二に劣るところがあり、アクション映画のオーディションに出たレジェンド倉田がチンピラと戦ったり主演を張って倉庫で悪党どもをバッタバッタとなぎ倒す夢を見るというお話はいいとして、演出やカッティングにキレやリズム感がなく、ニチアサ感の漂う集団ファイトは面白いものの、全体として見ればレジェンド倉田のアクション頼みの映画という感じである。まぁでも元々プロモーション映画だからそれでいいのか。

続く第2話は下村勇二編、こちらの主演はなんと平成の志穂美悦子こと武田梨奈である。いきなり武田梨奈によるブルース・リーのパロディを見せられるオタクノリにやや苦笑させられるが、カンフー映画スーパーガチ勢で家に帰るとカンフー映画Blu-rayの山の中から倉田保昭×ブルース・リャンの『帰って来たドラゴン』を抜き出して再生するも映画を観ながら寝てしまい、夢の中で憧れの倉田先生と対決する冴えない会社員……というこの役柄とストーリーはたしかに冒頭でレジェンド倉田が言っていた「監督の夢」だろう。

ナビゲーターに加藤雅也も交えての武田梨奈×倉田保昭の文字通りドリーム・バトルは本格的でありつつ不思議でコミカル、思えばこういうタイプのアクションは日本のアクション映画にあまりなかったので眼福であるし、やがて映画はその撮影現場を捉えるメタフィクションとなって加藤雅也と武田梨奈の倉田保昭ネタの漫才トーク(なんだそれは!)となり、更には倉田保昭と弟子たちおよび武田梨奈のなんていうのあれは、空手で師範が指導付けていくようなやつ、あれになります。そこは一転して張りつめた空気漲るドキュメンタリーのようで、強いアクション愛を軸として変化自在にスタイルを変えていくその実験性は坂口拓が90分ワンカットで100人ぐらいの刺客を倒していく『狂武蔵』を撮り上げた下村勇二らしいところ、なるほどこれは「夢物語」だ。いやぁ倉田保昭と武田梨奈の最後の一閃、アクションのプロ同士の本人たちにしかわからないわからない境地という感じで凄かったね。

最終話は谷垣健治編。時代は違えど谷垣健治も師父・倉田同様にブルース・リーを彼方に仰ぎ見て単身香港に乗り込んで数々のアクション馬鹿たちと仕事をしてきた独立独歩の人であり、その谷垣健治編のタイトルは『不思議の国のドラゴン』。行きつけの喫茶店で居眠りしてしまったレジェンド倉田は気付けばブルース・リーが世を去ったその日の香港にタイムスリップ、手には救心的な薬ビン、そして今日は憧れのリーが死ぬ日……そうだ! この薬をリーに飲ませればドラゴンは死なずに済む!

かくしてレジェンド倉田は香港の街を駆け巡りついにリーがいるらしいスタジオに辿り着くが……というこのエピソードはおそらく谷垣健治が右も左もわからず香港をサバイブしていた自身の若かりし頃の記憶を師父たるレジェンド倉田に重ねたものであり、全エピソード中もっとも激しく迫力あるファイトシーンもさることながら、香港人の適当だし怒りっぽいがなんだかんだ親切にしてくれる下町風情をコミカルに描き、更には本当に友情出演という感じのワンシーン出演のみではあるがサモ・ハンも病に蝕まれた老体にムチ打って駆けつけ、1分にも満たないとはいえ倉田保昭VSサモ・ハンというクラフトワークとYMOのジョイントライブみたいなドリームマッチを見せる……銭はなくとも客人にはたらふくうめーもん食わせてやんよ的な香港娯楽映画魂が炸裂!

トドメはエンドロールに流れる倉田保昭秘蔵の香港時代の写真の数々。す、すげー! ブルース・リーの横に並んで一緒に笑ってるツーショット! 別に疑っていたわけではないが倉田保昭は本当に香港カンフー映画全盛期を作り上げた1人であることを証言するこの写真の数々には有無を言わせぬ迫力があるし、倉田保昭がリーを救うために香港を駆け巡る……なんてお話を見せられた後だと、映画の全体的なトーンは香港らしくコミカルながら、その歴史的な文脈の巨大さに圧倒されてしまうのであった。

『不思議の国のドラゴン』のラストはカンフー映画の世代交代と「カンフーの炎は消えず」を印象付けるものだったが、『夢物語 The Living Dragon』自体もレジェンド倉田が門下生たちにバトンを渡すかのような映画であった。谷垣健治、下村勇二、坂本浩一、そして武田梨奈。彼ら彼女らの作るアクション映画からはまた次のアクションスタアがきっと生まれることだろう。ドラゴンは死なず、その炎は時代も国も超えて受け継がれる。ほとんど自主映画のようなものではあるが、ここには何億何百億とお金をかけて制作された映画でも到達できないホンモノが、たしかに宿っているのだ。いやーアクション役者って、本当に素晴らしいものですね!

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