超正統派巻き込まれ型サスペンス最新作映画『ナイトコール』感想文

《推定睡眠時間:0分》

面白かった! 街がBLMデモに沸く夜、平凡な鍵屋が依頼を受けて鍵を開けに行ったのはどうやら裏社会系のヤバイ奴の家、ということでなんも悪いことはしてないのに濃いめの犯罪に巻き込まれた不運な鍵屋はこれがアメリカ映画だったらその特殊技能をフル活用して裏社会の人々をぶっ殺していくところだが、ま現実問題そんなスーパーにヒーローなアクションを取れるわけもなく、裏社会に殺されまいと夜の街をひたすら全力で逃げ惑う。

端的に言えばそれだけの映画なわけで、俗に言う巻き込まれ型サスペンス。ヒッチコックの『北北西に進路を取れ』とかハリソン・フォードの代表作の一本『逃亡者』とかああいうやつっすね。今公開中の『俺ではない炎上』もそれ。そのああいうやつが最近ホントに減ってしまったねー。俺なんかは(俺のように)何の特殊技能も持たない凡人が頑張って悪そうなヤツらから逃げまくる姿をがんばれがんばれと応援して見てしまうが、どうやら最近は凡人が主人公のサスペンスというのはあまり人気がないようで。それよりも普段は平凡に見えるが実は超人的な殺人能力を持った男が悪の組織を一人で壊滅させるみたいなやつ(あえてタイトルは挙げない)が人気らしい。ま異世界転生ものなんてのが流行る世の中だしね。

ともかくこの映画はそういう好戦的かつ非現実的なやつじゃない。一般人が裏社会の重大犯罪などに巻き込まれて立ち向かえるわけなどないじゃないの。だから主人公の鍵屋、この人は一応前科はあっても車の中でママチョイスのCDを聞いてるような戦闘能力ゼロ人間なわけだが、もうとにかく逃げる、逃げる、逃げまくる! 売春宿の中を走って逃げ、街路をチャリ漕いで逃げ、チャリのまま駅に侵入して電車に飛び乗って逃げる! デモがあればもちろん飛び込んでその人混みに逃げるのだ! そうそう、これが娯楽映画におけるもっとも正しいデモの使い方だよな! 久々に映画館で観た命がけの追いかけっこはたぶん何割か増しで面白く見えた。かつてのハリウッドなんかはこの手の中規模予算の巻き込まれサスペンスをいくらでも作っていたが、最近はそういうの作れなくなっちゃったからね。ということでこれはベルギー/フランス映画。

逃げて逃げて逃げて、泣きべそをかき命乞いをし卑怯とも見える手を使ってでも生き延びようとするそのカッコ悪いことこの上ない必死の逃避行は、まぁこのジャンルの常として最後の最後で反抗に転じて、凡人が発揮できる最大限の勇気に同じ凡人としてグッとくる。説明は必要最小限で無駄なところなどまるでない上映時間90分間。たっぷりハラハラさせられて意外な展開に驚かされて最後はお土産代わりに少しだけ勇気までもらえてと映画料金2000円分確実に楽しませてくれる職人芸な一本だが、監督は新人でこれが商業長編デビュー作というから驚く。最近この手のサスペンスをしっかり撮れる監督といったらジャウム・コレット=セラぐらいしかいないんじゃないかというほどだったので、新世代のサスペンス職人監督の誕生は素直にうれしい。

こんな映画にこれ以上の感想は不要だ。誰しもとはさすがに言わないが大抵の人にとって楽しめること間違いナシ。こういうのが娯楽映画っつーもんで、暇があったらぜひとも深く考えずサクッと観に行くべし! 少なくとも「損をした!」とは絶対にならないとおもいます!

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