《推定睡眠時間:3分》
やけに面白かった。時代は少子高齢化、その波は日本や韓国、中国といった少子化先進国を飛び越え欧米にも押し寄せているらしく、そんな世相のためか近年欧米でも老人ホラーが漸増中である。『呪われた老人の館』、『エルダリー 覚醒』、『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』とかのタイトルが今パッと思いつく近年の海外年寄りホラーだが、そうした流れの中で製作されたと思われるこの『ユートピア 狂宴』は中盤ぐらいまでは比較的オーソドックスな老人ホラー、なんやかんやあった若者が介護ホームで働き始めたらベタなことにもそこには「4階には立ち入らないこと」なる謎ルールがあり、どうもそこから叫び声が夜な夜な聞こえてくるので気になって侵入してみると……とまぁだいたいそんな感じ。「この介護ホーム、なんだかおかしい」みたいな雑キャッチコピーがレンタルビデオ全盛期であれば付けられたに違いない映画である。
だがしかし、そこからなのだ。はたしてこの介護ホームにはどんな闇が潜んでいるのだろうかと例によって主人公が探る内にストーリーはどんどん混迷の度合いを深め、謎が明らかになるどころか益々わけがわからなくなっていってしまう。オカルト? 政府の陰謀? マッドサイエンティストの実験か? それとも、すべては最愛の兄を失ったことで自暴自棄になっている主人公の心の闇が見せる妄想なのだろうか? 度々挿入される内臓がグチャアとはみ出したり皮がベリベリと剥がされるグロテスクにして強迫的な悪夢はなんだか気持ち『ジェイコブス・ラダー』、不気味な仮面を着けて行われる後期高齢セックスやらプール体操中に巻き起こる原因不明の老人流血事件やら自分の歯を自分で抜くセルフ拷問やらシュールで薄気味悪いホラー描写の数々と相まって、映画全体が悪夢のようである。
とそんな具合に混沌とした物語を清算すべくクライマックスに待ち受けるのは近年の(あくまでも近年の)メジャーなアメリカン・ホラーでここまで残酷なものは観たことがないというほど凄惨な介護ホーム大虐殺。もうねすごいよ血もはらわたも手足も頭も飛んでいく。いや頭は飛んでなかったかもしれないな。でも印象としてはそれぐらいな感じだ。ちょうどいまホラーを謳う清水崇版の『八つ墓村』が映画館でやっているが、俺が(ミステリではなく)ホラー版『八つ墓村』で観たかったのはこういうシーンなんだよな。この血の酩酊、血の祝祭感がホラー版『八つ墓村』にはほしかった……まぁ、現代日本のメジャーホラーで大虐殺をやれというのも酷な要求であることはわかっているが。
こんなに人が死んでいるのにラストは妙に晴れやかなので逆にハッピーエンドに見えずこちらの気持ちは闇の奥に置かれたままだ。き、気持ち悪い! 内臓ぐちゃあとか血がぶしゃあとかそういうことが気持ち悪いのではなく、このハッピーエンドが本当に起こったことなのか確信が持てないから気持ち悪い。いや、そもそも大虐殺自体が主人公の見る悪夢だったのかもしれないじゃあないか。事件の真相を額面通りに受け取るとするならばなんというか「は?」て感じなので、これが現実だとはにわかに信じがたい。仮に作り手にそこまでの意図はなく事件の真相は本当にそういう真相でラストは本当にただのハッピーエンドだとしても、そうだとしたら尚のことどうかしていて気持ち悪いだろう。
この破綻したシナリオを暴力的な勢いと血まみれ描写で強引に見せきる作りはフレンチ・スプラッターの諸作や『マリグナント 狂暴な悪夢』あたりを思わせるところ。いやぁ最近ほらなんかアメリカのホラー映画って無駄にしみったれたやつが多いじゃないですか。だからこういうなんじゃそりゃバカなんじゃないのかと思わせるホラー映画、相対的にかなり面白く見えたんだろうな。バカなんじゃないのかと思わせつつなんとも言えない後味の悪さが残るわけだしね。バカ映画じゃなくてその意味ではしっかりとホラー映画。最近のアメリカのホラー映画にとんと見られなくなった得体の知れなさがこの映画にはあったと思うね俺は。
ちなみに監督はジェームズ・デモナコ、もっぱら『パージ』シリーズのみで知られる人なので(そして『パージ』シリーズは偏差値のかなり低いめの映画なので)まさかこんな破天荒で面白いホラー映画を作れる人だったとは! と驚く。『パージ』はブラムハウス製作なので妙にお行儀の良いファミリーでご覧になれるホラー映画を量産するブラムハウスイズムがデモナコの足かせになっていたのかもしれない。まるでデモナコがブラムハウス時代に溜め込んだ各種の鬱憤と妄念を爆発させたかのような『ユートピア 狂宴』である。ゴア描写のレベルも高いし(目玉に痛いことをするショットとか本当にやっているようにしか見えなくて怖い!)禁断の4階のビジュアルは異様だし、かの悪夢的名作『メサイア・オブ・デッド』や『ゾンゲリア』を部分的に彷彿とさせる……とまで言えば少し褒めすぎのような気は自分でもするのだが、とにかく、面白いホラー映画であることは間違いなし!