バートンのいないバートン映画『クルエラ』感想文

投稿日: カテゴリー 居眠り映画館タグ , , , ,

《推定睡眠時間:15分》

いやもうホントにようやくですよ。公開何週目だか知りませんけどようやくの鑑賞。とにかく全然チケットが取れなかった。郊外のシネコンとかをメインシアターにしてる人なんかにとっては「?}だと思うんですけどこの映画っていうか今のディズニー映画は去年のディズニー不義理のせいでTOHOとかが手を引いちゃって都心の上映館は数館しかなく、しかもその多くはミニシアターなので、都心では需要と供給のバランスが完全崩壊してたんです。

都心のメイン上映館の新宿シネマカリテなんか休日全回予約満席は当たり前で平日でも水曜レディースデーは札止めになってたみたいなんで尋常じゃない入りっぷり。それが公開後何週間も続いて昨日ようやく予約画面に入れた時も残り6席という…それも上映数時間前のことですからたぶんその回も札止めになったんでしょう。今どきこんなロングラン大ヒットは新コロ禍で血反吐を吐いていたミニシアターにとっては僥倖だろうが、それにしても目先の利益を優先して去年劇場公開予定だった作品を勝手に配信スルーに切り替えたことで以降の作品で大手シネコンの上映枠を失ったディズニーの経営判断よ。信頼ちゅーのは一朝一夕で回復できるものじゃないですから良い教訓にしてほしいっすね。これだって普通にシネコンでかかってたら普通にもっともっとお客さん入ってましたよ、さほど宣伝もしないでもこの盛況っぷりなんだから。あ~あ、やっちまったなぁ! なんで急にクールポコ入ってきたの?

とまぁそういうわけでようやくようやく観た『クルエラ』ですがなんかあれだよね、アメリカにはクリスチャン向けエンタメ産業があるじゃないですか。曲調はロックとかメタルとかですけど歌詞はスラングとかエログロバイオレンスとか一切なしで普通にゴスペル、みたいなやつとか。要はクリスチャン規範で消毒されたやつですけど。で『クルエラ』は別にクリスチャン映画の要素はないんですけどそれと同じような意味で「消毒済み」って書いてあるようなダーク寄りのヒーロー映画で、そうだねぇ確かに展開はスピーディだし映像も音楽もスタイリッシュでカッコイイですけれどもヴィランの誕生譚としてはやっぱ弱いよねぇ。

クルエラ、ディズニー映画屈指のヴィランとか言いますけど(※『101匹わんちゃん』は観たことないのでどんなヴィランか知らない)大して残忍でもないし。その境遇も悲劇的ではあるが大して残酷なものでもないし。全世界の全年齢の人が観れるよう諸々配慮した結果だと思いますし、俺はそれをディズニーの美徳だと思ってるんでむしろ歓迎するところですけど、まぁでも美徳と映画としての面白さは必ずしも一致しないからね。意地悪く言えばディズニーが『ヴェノム』みたいなダーク寄りのヒーロー映画のフォーマットを使ってヒーロー映画の客を貪欲に獲りに来たとも言えるし、なんか、完成度は高いと思いましたけどそんなに感心できる映画ではなかったですよ。

でも面白かったのはこれはファッション業界の話なのでクルエラはゲリラ的でパンク的な触法ファッションショーでライバルのファッション女王を蹴落とそうとするんです。その奇抜な衣装も見所ではあったが…これやってることはティム・バートン版『バットマン』のジョーカーとか『バットマン リターンズ』のペンギンとだいたい同じですよね。ジョーカーもペンギンも悪事を成そうとしてるんじゃなくて(ジョーカーは悪事成分も強いが…)、影の世界に生きることを余儀なくされてきたアウトサイダーが自分の存在を昼の世界の人たちに認めさせて、そこに居場所を作りたいからわざと人前に出てきて奇抜なパフォーマンスとかする。悪事というのはその(失敗の)結果に過ぎなくて。

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昼は真面目なファッションデザイナーが夜は下剋上のためにクルエラになるっていう展開も『バットマン リターンズ』のキャットウーマンみたいですし、バートン版の『バットマン』二作の影響はかなりあったんじゃないだろうか。と思えばさ、なんかフィクションとリアルの関係が捻れてきて面白いじゃないですか。これは本来は闇の世界に生きるホームレスの子供泥棒なんかになるはずではなかったクルエラが自分がそうなる原因を作ったファッション女王に近づいていって、ファッション女王お気に入りのデザイナーとして出世しつつも、一方ではこいつをぶっ倒すために正体を隠してゲリラファッションショーを仕掛けることでメディアの寵児になっていく映画なわけですよ。

それって元々はディズニースタジオでアニメーターやってて、後にはディズニー映画として『ヴィンセント』とか『フランケンウィニー』とかの短編の監督を任されるぐらい才能を認められてはいたものの、いざ映画が完成したら歪すぎて社のカラーに合わないからっていう偉い人の判断でマトモに公開されなくて、それでディズニーを飛び出してフリーの映画監督になったら一気にアメリカ映画新時代の旗手に駆け上がったっていうバートンの経歴と重なりますよね。

でもこの映画べつにバートンが関わってるわけじゃないんです。クルエラの下剋上っぷりはこんな派手ではないとしてもキャリア初期のバートンみたいだし、キャラクター造形とか美術もバートンの『バットマン』二作みたいだし、でもバートンはこの映画に関わってなくて、それで劇中、ファッション女王がエステラ(クルエラの昼の名前)のデザインした服を自分の手柄として横取りしようとする場面があるんですけど、なんかそれが、ディズニーがバートンの褌をぶんどった(かもしれない)この映画そのものを皮肉ってるみたいに見えてきて…とか考えたらね、わりあい薄味の映画ですけどその薄味スープを煮込んでる鍋を覗き込んだら人骨入ってたみたいな感じでおもしろ~いんです。

そのたとえははたして適切かな! でもなんか、そんな感じ。

【ママー!これ買ってー!】


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いつまでもリターンズリターンズと言っていたくはないんだがでもイイ映画だからな~『バットマン リターンズ』。ペンギン(動物)だけが友達兼家族でアヒルちゃんマシーンで全然颯爽とせずに現れ昼の世界をかき乱してやろうとするも結局はずる賢い政治屋にいいように利用されるペンギンの哀しみにてめぇバットマンさっさとペンギン特攻食らって死ねと何歳になっても思える映画です。

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