これがホントのコウモリ男映画『モービウス』感想文

《推定睡眠時間:30分》

ドクターストレンジの前科があるためマーベル映画の医者はろくなことをやらないの偏見がありこの主人公モービウスさんは医者ではなく科学者なのだが自身も患う血がダメになってしまう難病の治療薬を開発していたところコウモリのDNAを使ったもんだから難病が治る代わりに吸血鬼になってしまう薬が出来上がってしまいさぁ大変ということで偏見が強化されてしまった。といってもこれはマーベルの本流から枝分かれしたソニーのスパイダーマン・ユニバースの一本。そのトーンはマーベル本流とはだいぶ異なりポップコーン片手に楽しめるストレートな娯楽作というわけでそろそろスパイダーマン・ユニバースの映画をマーベル映画の括りから外して観た方がいいのかもしれない。

モービウスさんは天才だったが性格に難があり友達と呼べる人間は少年時代に療養所で知り合った同病のマイロくんオンリー。すっかり大人になって役者が『ラストナイト・イン・ソーホー』で女衒をやっていたノワール顔俳優マット・スミスに変わったために親友っていうか画面に現れた瞬間「絶対こいつ極悪な敵じゃん!」としか思えない大人マイロ君はモービウスさんの計らいで(と思うがこのへん寝ているため不明)例の吸血鬼薬を打ってしまう。わははは! 俺はもう自由だ! 病気の時は決してできなかったナイトライフを楽しみながらチンピラなんかの血をすすって殺していくベタな堕ち方をするマイロ君にモービウスさんショック。

彼の方は吸血鬼薬を打ちながらも血清を定期的に投与することで吸血鬼化を抑えていたのであったが、そんなモービウスさんがマイロ君は気に入らない。せっかく自由が手に入るのにどうして自分を檻に閉じ込める! 療養所時代には頭が上がらなかったモービウスさんに超人的な力を得て噛みつくその姿は『AKIRA』の鉄雄みたい。だがこっちの金田はあくまでも薬で抑えてるだけで能力的には鉄雄いや違ったマイロ君と同等。お前を殺せるのは俺しかいねぇか…というわけでモービウスさんとマイロ君の戦いの火蓋が切って落とされたのであった。

ちなみにその裏では街を騒がせる連続失血死殺人事件を『ヴェノム』に出てきた刑事さんが追っておりプロファイルよりも足で考える地道な捜査により一歩一歩モービウスさんに近づいていくのだったが『ヴェノム』の時と同じように最終的に大したことはしない。リアルといえばリアルだがなんか不憫になってくる。超人相手に人間の刑事ができることなどないだろうが…。

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ストーリー的にはぶっちゃけ普通っていうか午後ローなのでとくに言うこともないのだがなかなか面白い映画で俺は結構これ好き。ちょっとティムール・ベクマンベトフとかイリヤ・ナイシュラーがやるようなロシアンSFっぽい感じなんですよね。演出にはあまりエモーショナルなところはないんだけれども全体を覆うムードには暗い叙情があって、病気のままでも病気が治っても結局健常者社会には混ざれない異形の人たちの諦観が押しつけがましくないだけにかえって沁みる。平然とチンピラを吸い殺したマイロ君がどっかのビルの屋上に一人立って夜の街を見下ろす姿にはどこにも帰ることができなくなってしまったアウトサイダーの色気があってあれグッと来たよね。それで彼がモービウスさんにも自分と同じように堕ちるよう求めるっていうのもさ。

ある意味バトルBLというような物語であるから戦闘の規模は他のアメコミ映画と比べてかなり小さくその点ではちょっと物足りなさもあるかもしれないが、その分お前その程度の動きでバットマン名乗ってんのと某DC映画に言わんばかりのコウモリック・アクションは画面の暗さと超動きまくりカメラワークで大半なにをやっているのかわからんとはいえ迫力満点、これもロシアンSFっぽいな~ってところなのですが超音波を視覚化してオーラの波のように見せるアイディアは面白かったし、羽が生えたわけでもないのになんでそんなことができるのかは不明だが風に乗って夜の街を滑空するのもクール。

モービウスさんが滑空パワーに目覚める瞬間もよかったな。空気と超音波の流れを肌で感じてたら突然「あ、おれ飛べる」ってなるっていう。この説明しないところが「力」がホンモノであることを感じさせてくれる。他方マイロ君が人を吸い殺す場面は直接的な描写はほとんどないがホラー的に撮られていて怖いムードがあってよし。細かい場面や仕草の光る映画だった。

『ナイト・ウォッチ』みたいなロシアンSFの他に思い出したのは『ブレイド』とか『アンダーワールド』とか『コンスタンティン』みたいなゴシック・アクションで、『アンダーワールド』は原作あったか知りませんけど『ブレイド』と『コンスタンティン』はアメコミだからこういうテイストのアメコミ映画ってゼロ年代にちょっと流行って、それが『ウォッチメン』とかマーベル映画で流れが変わって作られなくなっちゃって、だからこれは久々にゴシック・アクション路線のアメコミ映画を観たなあって気がした。俺はねこういうのが好きなんです。世界がどうなるかなんて知ったこっちゃねぇ、これは俺とお前の問題なんだ…みたいなやつね。た、耽美~! …耽美か?

耽美かどうかはともかくそういうわけでスタイリッシュなようでもちょい懐かしいようでもあっておもしろい『モービウス』なのでした。ただしダークヒーローの誕生譚として割り切った構成には「もうちょい先まで見せてくれよ!」のツッコミはあります。

【ママー!これ買ってー!】


『ナイト・ウォッチ/ディレクターズ・カット』 [DVD]

この頃の勢いのあったロシアンSFはいったいどこへ…。

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