映画『ジャバーウォッキー』感想文というかギリアムよもやま話

《推定睡眠時間:50分》

テリー・ギリアム幻の(と言っていいだろう)単独監督デビュー作がついにリバイバル上映ということでこれはもうテリー・ギリアムを人生の反面教師と仰ぐ俺としては堪えられないものがあったのですがバッチリ50分ぐらい寝ているのはメリハリとかなくてかったるいシーンが結構続く眠い映画だったからです。でもそれがギリアム映画だからね。ギリアム映画って基本眠いもん。シナリオとか書けないんですよギリアム。わーっとアイディアはどんどん湧いてくるんですけどそれをまとめることができない。だからトニー・グリゾーニとかチャールズ・マッケオンっていう脚本執筆の相方をほぼ毎回つけてて、ギリアムが出したアイディアを相方がまとめてそれにギリアムがうるさく口を出すみたいな脚本作りをしてる。この『ジャバーウォッキー』はテリー・ベッドフォードとチャールズ・アルバーソンが脚本にクレジットされててギリアムのクレジットはないですけど、この時期のギリアムが人の書く話なんかやりたがるわけないので、たぶんまぁ役割としてはギリアムの支離滅裂なアイディアをまとめる感じだったんでしょうな。大変なんだよギリアムと一緒に仕事するって!

まそういうわけで(?)これはもうギリアムの原液ドバァな一本、面白いか面白くないかで言えばハッキリ言ってそんなに面白くないが、それはギリアムの主眼が面白い映画を作ることじゃなくて中世ヨーロッパの世界を完璧に作り上げることにあったから。ギリアム本人もこの映画がモンティ・パイソンのスピンオフ的な映画として売られて(※パイソンズの面々やスタッフも何人か入ってる)当然のように客には不評だったことにかなりご不満のようでそんな売り方しなけりゃもっと客入ったよ! とかインタビュー本読むと言ってるんですが、これねだからコミック調ではありますけど基本的には本格的な史劇なんですよ。

ギリアムってあんまり作品に影響が見えないかもしれないですけど映画のオールタイムベストにキューブリックの『突撃』を入れてて、子供の時にこれを観て映画に目覚めたって言ってるぐらいのキューブリック主義者なんですよね。それ以前に影響を受けまくったものとして挙げてるのがディズニー版『ピノキオ』だから、ざっくり言うならギリアム映画というのはキューブリックの完璧主義でもって『ピノキオ』の世界を作る映画って感じなんですけど、この『ジャバーウォッキー』なんかはまさにそういう映画、ギリアムの中では現実の中世とディズニー的な中世の境がないので、子供の頃に夢見た(騎士ごっことかも飽きるほどやったという)中世ヨーロッパの世界を超リアルに再現しようとしたってわけです。

じゃ超リアルに再現するとどうなるかっていうと汚い・暗い・臭いの3Kです。汚いから言うとこれはまぁそのまんまですけど登場人物の衣装とか風貌が全部汚い。垢とか糞とかゴミに塗れてる。実際初公開時にはスカトロジカルで野心的な史劇として心ある評論家からは褒められたとか。暗い、というのは照明が暗い。中世ヨーロッパを忠実に再現すべく室内でも自然光を光源とする撮影をやってて、それはたぶんキューブリックの『バリー・リンドン』が1975年公開だから影響を受けた(『ジャバーウォッキー』は1977年)。臭いというのは…まぁニオイは映画のフィルムに焼き付けられないのでわかりませんが、観てるとなかなか臭そうな感じはしてきますよね。汚泥とか死体とか腐敗物とかよく出てくるし。

この感想はギリアム先生の崩壊脚本執筆術に習って思い浮かぶままに筋など考えず書いているので今思い浮かんだことをここで唐突に書きますがこの映画と同年の公開作がなんとあの映画なんです。そう、巨匠リドリー・スコットの長編映画デビュー作、19世紀フランスを『ジャバーウォッキー』とよく似た映像アプローチで作り上げた『決闘者/デュエリスト』! ギリアム先生を人生の反面教師としてきた俺としてはこれはおおっと全身に震えが走る事実なんですが、ギリアムが一方的にライバル視してる映画監督っていうのがリドリー・スコットなんですよね。どれほどライバル視してるかっていうのはまぁインタビュー本とか読めば何度も言及されてるのでわかるかと思いますが、なんでギリアムがリドスコをあんなにライバル視するかってさ、『デュエリスト/決闘者』でカンヌの新人監督賞取ってパルムドール候補にまでなって、そこからリドスコは一気にスターダムにのし上がっていくわけ。で『エイリアン』とか撮るわけね。

ギリアムはそんな風に成功できなかったわけですよ。もちろんパイソンズとして既に世界的人気を博していたとはいえ映画監督としてはこの頃ほとんど認知されてなくて、それは単独監督2作目の『バンデットQ』を撮ってもパイソンズ映画の『人生狂騒曲』の冒頭パートを撮っても変わらなかった。だから『未来世紀ブラジル』のラストはリドスコの『ブレードランナー』の劇場公開版ラストに対するあてこすりだって言うのは広く知られた話ですけど(本人も言ってる)、あれって『ジャバーウォッキー』で『デュエリスト/決闘者』と同じような映像世界を作り上げたのに批評筋にも一般客にもリドスコみたいには評価されなかったギリアムが一矢報いてやろうとしたラストだったんですよ!

ま、そんなことは『ジャバーウォッキー』とあまりに関係なさすぎるからどうでもいいとして…いやでも『ジャバーウォッキー』を今観る面白さってそこからギリアムの映画人生を読み解くところにあるからな。もちろんあくまで作品だけを観るとしてもバリバリに決まった画の連続で非常に見応えはありますけど、それだけじゃなんかもったいないっていうかつまんないじゃないですか。ギリアム映画ってギリアムの人生とかトラブルメーカーっぷりを画面外の背景として観るから面白いってところがあって、『ジャバーウォッキー』だって作られた経緯がまたギリアムらしさがあってイイんですよ、パイソンズのテリー・ジョーンズと『モンティ・パイソン・アンド・ホーリーグレイル』を共同監督した時にテリー・ジョーンズと揉めて他のパイソンズの面々とも揉めて撮影ボイコットしたりみたいなのがあって…え? ストーリー? あぁそうでした『ジャバーウォッキー』、えー、これは貧乏タル職人が怪物ジャバーウォッキーを退治するお話ですがまぁでもそこはそんなに面白くないから書かなくていいか! 寝てるし!

まとにかく、『ジャバーウォッキー』とそこから見えるギリアムの映画人生、おもしろいですからみんな観よう!

【ママー!これ買ってー!】


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というわけで『デュエリスト』なのですが、まぁなんとも因縁めいた話で、『デュエリスト』って優等生兵士に一方的に決闘を挑み続ける平凡兵士の物語なんだよな。リドスコに挑み続けて(そして負け続ける)ギリアムのその後の映画人生そのもの!

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