理性なし!倫理もなし!凶暴感染者映画10選!

凶暴感染者映画の最新作にして凶悪作の『哭悲』が東京のミニシアターで大ヒットしているようだ。うーんみなさん好きですなぁ、凶暴感染者が。イイですよね凶暴感染者。何がイイってゾンビに比べると知性が残ってるところがイイ。理性は死んでるくせになまじ知性があるものだからゾンビよりも凶悪。感染しても見た目は普通の人間とそう変わらないのもいい。誰が感染者で誰がそうじゃないのかわからない不安は新コロ禍にはとりわけ響く。

というわけで集めてみたぞ面白い凶暴感染者映画10選! 俺自身つい最近集中力が出る薬(合法)を服用したら自分が自殺するイメージが当然したくもないのに意識にこびりついて大変だったので、みなさんもいつどんな理由で凶暴感染者っぽくなるかわからない! そんな時に備えて凶暴感染者を観るのだ! どこがどう備えになるかはわからないが!

『地球最後の男』(1964)

『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の元ネタとなった元祖・凶暴感染者映画。感染すると無性に血が吸いたくなってしまう吸血病の蔓延で世界崩壊、たった一人生き残った人類代表マンのヴィンセント・プライスは吸血病を根絶すべく研究を続けながら夜な夜な、いや吸血鬼が眠ってる昼な昼な吸血病感染者を殺して回っているのだったが、やがて隠れ家に美しい女性が現れ…。

凶暴感染者といってもこの映画の吸血感染者はモダンゾンビの原型だけあって動作は鈍く知性も乏しい。怖いのは感染者そのものというよりもたった一人で人類最後の砦を守り続ける状況の方だ。そこにネタバレ厳禁の一捻りが加わって観る者をなんとも荒んだ気持ちにさせる、原作リチャード・マシスン面目躍如の絶望映画の名作。

※ちなみにこの原作はその後二度映画化されているが、凶暴感染者映画はなぜかリメイクの対象になりやすいようで、今回取り上げた他の作品も『ザ・クレイジーズ』『ザ・チャイルド』『ラビッド』がリメイクされている。


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『ザ・クレイジーズ』(1973)

『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』で「頭を撃つと死ぬ、人肉を食う、噛まれると感染する」というモダンゾンビを確立したジョージ・A・ロメロが『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』とその続編『ゾンビ』の間に監督したモダン凶暴感染者映画の元祖的一本。モダンゾンビだけじゃなくて凶暴感染者もロメロが作ったんですねぇ、厳密にはちょっと違うけどすごいことです。

でお話はある町で突如人に暴力を振るったり家に火をつけたりする人々が出現。それまで普通の人たちだったのに一体なにが…と住民が訝っているところに軍の防疫部隊が到着。なんでも危険な何かを積んだ輸送機が町の付近に墜落しその水源が汚染された可能性があるのだという。危険なニオイを嗅ぎつけた主人公一行は軍に封鎖される前に町から逃げ出すのだったが…というもの。

筋立てはホラーだが全体的なムードはロメロの作家的特徴である社会風刺が花開いたある種のブラックコメディで、軍と住民がお互いを理解することなく対立しその相互不信が暴力の形で爆発する過程を通して、いったい真にクレイジーなのは誰なのかという問いかけがなされる。一方、誰が感染しているのかわからないまま逃亡を続ける主人公一行を覆うのはニューシネマ的な閉塞感だ。逃避行の中で疑心暗鬼に陥り、軍から逃れたところで束の間の紐帯は自ずと瓦解していく。逃げても逃げなくても希望なし、なぜなら敵は人間そのものだから。凶暴感染者映画にはそんなオチが多いが、その原点のキレ味はさすがに鋭い。


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『バイオ・インフェルノ』(1985)

農薬等々を研究しているはずの田舎研究所でなぜかバイオハザード発生、軍まで出動する大騒ぎに。そう、農薬研究というのは偽装で、本当は人間を狂暴にする生物兵器の開発がここでは行われていたのだ…。

普通にあらすじで書いてしまったがこの映画が狂暴感染者映画であることが判明するのは中盤に差し掛かってのことで、それまでは研究所の正体を巡るパニック・ミステリーとして展開する。未見の方にはすいませんだが、とはいえとてもよくできた狂暴感染者映画の佳作なので、狂暴感染者映画10選と銘打っておいてこれを紹介しないわけにはいかない。封鎖された研究所の内外で徐々に高まっていく人々の不満と怒りが緊張感を煽る序盤、研究所の謎がパズルのピースをはめるようにひとつひとつ明かされていく中盤と面白く、終盤だけはもうちょっとアクションにメリハリをつけて盛り上げてほしかったと思うが、全体的には文句なし。

狂暴感染者映画でかつ研究所のバイオハザードものということで『ザ・クレイジーズ』と実写映画版『バイオハザード』の間を埋める、ゾンビ/狂暴感染者映画史上の意外な重要作だ。


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『処刑軍団ザップ』(1970)

かなり安っぽくマンソン・ファミリーを模倣したらしい悪魔崇拝ヒッピー集団にお姉ちゃんは強姦されおじいちゃんは暴行され地元少年の怒りが爆発! そこらへんをうろついてた狂犬病を射殺するとその血をミートパイに混ぜてヒッピー集団に食わせてしまうのであった! ヒッピーねえちゃんと乱交してた土木作業員なども交えて狂暴人間大パニックが今、始まる!

これ大好き。ヒッピーに狂犬パイ食わせて狂犬病にするとか錯乱して自分の腹を胎児ごと棒で貫くとか意味もなく突然焼身自殺とか文字にすればヒドイ場面のオンパレードだがへっぽこなシンセサウンドと投げやりな展開・演出により殺伐としつつもどこかのどかで笑ってしまう。前年公開の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』とその年に発生したマンソン・ファミリーの一連の凶行にインスパイアされた(便乗とも言う)俗悪安物映画とは思えない偶然のオリジナリティが今なお観る者に衝撃と笑撃を与える、実はロメロ『ザ・クレイジーズ』よりも早く凶暴感染者を映画に登場させた、狂暴感染者映画史上に屹立する孤高のカルト作!


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『悪魔の凶暴パニック』(1978)

突如として頭髪がごっそり抜け落ち同時に理性を失って暴れ始める奇病が発生。その陰にはどうも怪しいドラッグの存在があるようで、ドラッグを服用した人間たちは一人また一人とつるっぱげの狂暴人間へと変貌していく…。

バカっぽい設定に思えるが実はかなり怖い映画。ガムランを取り入れた不気味な劇伴は神経をかき乱し、人間が徐々に壊れていく過程をセミ・ドキュメンタリー的に見せていく演出はこの手のホラー映画にあまり見られない悲惨さを感じさせ、目を血走らせたつるっぱげ狂暴人間の風貌は並みのゾンビよりも迫力がある。何も解決しないまま終わってしまうラストも荒んだ余韻を残す、狂暴感染者映画版の『フレンチ・コネクション』みたいな一本。ちなみに監督は殺人ゴカイが大地を覆うカルト動物パニック映画『スクワーム』のジェフ・リーバーマンです。


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『ザ・チャイルド』(1976)

旅行中の夫婦が小さな島に行ってみたらそこは大人だけを殺す無邪気な子供たちのパラダイスだったという映画。子供たちは笑いながら残虐な方法で大人たちを殺していくが、その直接の場面は画面に映し出されず、観客が目にするのは子供たちによる浄化の終わった後の風景。南欧の日差しの下に無造作に大人たちの死体が転がるその風景の異常さ。女性の死体を虫でもいじくるように弄ぶ子供たちの姿は強烈だが、そこに性欲のようなわかりやすい動機は見えず、無邪気に遊んでいるようにしか映らないのがかえって怖いという映画なのだ。

狂暴感染者映画に分類してしまったがこの映画で子供たちが狂暴になるのはウイルスなどではなく超自然的な力によって。感染というより伝播といった感じで、「大人を殺しちゃおうよ」の思想が瞬く間に子供たちの間に広がっていく。なぜそうなったのかがよくわからない不気味さや不条理感が、この映画がカルト傑作として語り継がれる所以だろう。


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『地球最後の男たち THE SIGNAL』(2007)

突如としてテレビに流れ始めた謎の映像を見た人々が狂暴人間化、周囲の人間を殺し始めて一夜にしてアメリカは崩壊してしまう…という映画。スティーヴン・キングの携帯ゾンビ小説『セル』と設定が似ているが、映画としての面白さはその映画化作品よりもこちらの方が上。なんといっても三人の監督がパートを分担して演出した一種のオムニバス構成となっているところが面白い。ストーリーは繋がっているのだがパートによって明確に作品カラーが異なり、とくに狂暴感染者と生存者のちぐはぐな会話が笑いを誘いつつ徐々に醸成されていく暴力の空気が恐怖を感じさせるブラックユーモア調のパートは逸品。

パートが変われば視点も変わって、その中には狂暴感染者の目から見た世界も含まれる。自分が狂っているのか狂っていないのかもはや誰にもわからない。自分では正常だと思っていても既に狂ってしまっているのかもしれない。狂暴感染者が跋扈する世界を様々な視点から描くことで、そんな現代の不安を炙り出した、社会派の狂暴感染者映画だ。


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『ラビッド』(1977)

バイク事故の治療のため実験的な皮膚移植手術を受けたローズは長い眠りから目覚めると強烈な飢餓感のようなものを覚えた。性欲とも食欲ともつかないそれを満たすために彼女が担当医に抱きつくと、なんと脇の下から先端が鋭く尖ったペニス状の器官が隆起し、担当医を突き刺してしまう。どうやら移植手術の予期せぬ副作用のようだ。だが悪夢は始まったばかり。突き刺された担当医は伝染性の狂犬病に似た症状を呈し、その病はやがてカナダ全土へと広がっていく…。

医療行為の暴力性を主題とすることの多いデヴィッド・クローネンバーグによる狂暴感染者映画。芸術家肌と思われがちだが意外と職人気質なクローネンバーグらしく、ドキュメンタリー風の映像やニュース音声、地下鉄車内のロケ撮影などを効果的に用いて低予算ながらスケールの大きな感染症パニックを見事に演出、そこにクローネンバーグ流の人体の変容も加わって完成度の高い一本となっている。

ウーマン・リブの影響か、この時期のクローネンバーグ映画によく見られる自立していく妻や恋人に対する恐れと殺意が両性具有のイメージを通して表出しているのも注目したいところで、虚無的なラストはそれを踏まえれば見た目以上に恐ろしさを感じることができるのではないだろうか。


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『ネズミゾンビ』(2006)

21世紀のゾンビ映画の方向性を決定づけた狂暴感染者映画のマスターピース『28日後…』フォロワーのインディペンデント映画。予算がないので基本的にはマンハッタンの汚いアパートから出ないが、DVカムの機動性を活かしたカメラワークや細かいカッティング、マンハッタンの街路で実際に起こった様々な「事件」を切り取ったゲリラ撮影が効いて、狂暴感染者ホラーとしても感染症パニックとしてもハイレベルな出来。

邦題の『ネズミゾンビ』とは狂暴感染者のことだが、どういうことかといえばこの映画ではネズミ狂犬病みたいなものに罹ってみんな狂暴感染者になっていく、と同時にどんどん身体がネズミっぽく変容していく。前歯がギューんと伸びたり毛がモコモコ生えてきたりしてなかなかバカバカしいが、逆光を多用した暗い画作りのおかげで意外とこれが怖い。


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『28週後…』(2007)

前作『28日後…』の惨劇から半年が経過した。人の理性を失わせ暴力に駆り立てるレイジ・ウイルス感染者の封じ込めは成功し、現在も立ち入り禁止区域は残るもののロンドンでは移住希望者を迎えて都市復興が始まる。主人公もその一人だが、彼には気がかりなことがあった。レイジ・ウイルス禍の最中、感染者の襲撃を受けた彼は愛する妻を置き去りにして逃げてしまったのだ。はたして妻は生きているだろうか。生きているとしたらどう声をかけるべきだろうか。そんな折、立ち入り禁止区域で一人の感染者が発見される。それは主人公の妻だった…。

凶暴感染者映画といえば『28日後…』は外すことができないが、その続編『28週後…』も前作に負けず劣らずの傑作なので、ここではあえてこちらをプッシュ。全体的な完成度はさすがに前作に叶わないとしても一気に畳みかける怒濤の展開や豪快なゴア描写など、場面場面の熱量は前作を遙かに凌ぐ。ほんの一握りの善意や正義がガラスの安全地帯を燎原の火のように地獄に変えていく光景は圧巻で、その無常観は前作の爽やかなラストに対するあてつけのようにも見える。

妻を見殺しにした罪悪感を抱えつつも自分のしたことを正当化し続ける夫をロバート・カーライルが好演。ジョン・マーフィの透明なサウンドは人間の消えた終末風景をそれが地球のあるべき姿のように見せて、美しくも恐ろしい。


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