どっちの塩からなんだ映画『おとななじみ』感想文

《推定睡眠時間:20分》

すごい気になってることがあってラストシーンで主人公の久間田琳加が恋人に「塩から取って~」って言って冷蔵庫から塩から取ってきてもらってそれでそれ食ってる途中に恋人の方がぐいっと来てキスしてですねそいつが「しょっぺ!」で井上瑞稀が「だって塩から食べたもん」と応じるんですけどこの塩からってさ、みなさんこれどっちだと思います? 俺は最初「いかの塩辛」だと思ってたから恋人に対していやお前塩辛食ってものっそい口が生臭くなってる相手とキスすんのかよ愛がすげぇなもしくは性欲が! って思ってたんですけど、後から考えたらこの映画の中で久間田琳加は弁当屋に勤務しててそこの売りが唐揚げ弁当でラストシーンでも家で唐揚げ作ってたんですよね。

だからもしかして塩からってこれ、「いかの塩辛」じゃなくて「塩唐揚げ」のことなんじゃないかっていう…でもそれはそれでおかしいよね、冷蔵庫から塩唐揚げを取ってきてって言った場合は冷たいから普通塩唐揚げをレンジでチンするじゃん。でもそういう描写はなかったし、「しょっぺ!」っていう恋人の台詞もよくわかんないよな。塩唐揚げを食った口は多少油っこいかもしれないけれどもしょっぱくはないだろうそんなには。っていうかそれを言うなら「いかの塩辛」だった場合でもおかしいんだよ、そら塩辛しょっぱいけれども塩辛を食った口にキスをした場合にまず感じるのはしょっぱさじゃなくて生臭さじゃないですか。じゃあ、なんなの? なんだったの塩からって…それ土曜に映画観てから今までずっと気になってるよ。

しこりを残したのはそこぐらいで他は至ってウェルメイドなキラキラ映画。今やキラキラ映画というよりはジャニタレの宣伝映画といった方が実態がわかりやすいキラキラ映画だが、まぁあれだね、だからすごかったよ上映終了後。これ結構コミカルなタイプのキラキラだから笑いどころが多いんですけどジャニタレのフアンと思われる主に女子高生中心の渋谷HUMAXシネマの座席は上映中シーーーーン。キラキラ映画の総本山渋谷でこの反応は厳しい、キラキラ映画も世に誕生して既に十余年(諸説あり)ということで主要観客と想定されるところの女子高生もさすがにもう飽きてしまったのか…と思いながら迎えたエンドロール後に巻き起こる爆発的な歓喜の声!

いやもうなんかこれはなんなんだか、泣いてる風の客さえいたもんな。じゃああれか、君らこんなどうでもいいような映画を大好きな何君だか知らないがジャニタレくんが出ているということで笑う余裕すらなく固唾を呑んで眺めていたというわけか。なんてピュアな観客なんだ君たちは! このご時世アイドルとフアンの間の距離など無いも同然でアイドルの私生活なんかツイッターだのインスタだのtiktokだのでいくらでも覗けるばかりかネット上で直接会話を交わすことだってやろうと思えばできないことじゃない、ジャニタレなんかは会社の方針でSNSはやってなかったりするのかもしれないが、それでもYouTubeで検索すればいくらでも映像なんか出てくるんだからたかだか安い映画に一本出たからとそんな真面目に観ることはないし観終わってから泣いて叫んでのお祭り騒ぎをすることもないじゃないか…と思う俺はアイドルカルチャーちうもんが全然わかっとらんのでしょうな。

まぁでもなんかいいよな。知らんけどさ、この映画に出てるジャニタレなんかは若いからたぶんほらなんていうか婉曲的に言うとジャニさんにしゃぶられてないかもしれないじゃんごめん直球になりました。俺はしゃぶったりしゃぶられたりすることは当事者間の合意があればいいと思うんですよ。とはいえね、相手ほら未成年だから。しかもジャニさんやっぱ権力あるからさ。そしたらそれはどうなんですかって話になるのはまぁわかりますよ。わかるけれどもジャニさん死んでるし被害に遭った人たちも今まで刑事告発などしてこなかったようなのでこの問題って今からみんなが納得する形ですっきり解決するの無理なんじゃないかなって思うよね。だからしゃぶられ世代のジャニタレは本人も大変だしフアンも大変。

でもしゃぶられてない世代はそういう問題に煩わされることはない。だから阿鼻叫喚の客席を横目に観ながら俺ある意味そこに戦後を感じたね。君たちは戦争を知らない子供たちなんだなと。フラワーチルドレンやないかと。いや、これはふざけて書いたつもりだったが存外射程が深い比喩かもしれないぞ。ジャニーズって戦後文化だもんな。ジャニさんもキッズの頃から駐留米兵とその文化に慣れ親しんできたというからいやその話広げる必要ある!? ない。ごめんなさい。

東映配給のキラキラ映画は他社配給のキラキラ映画に比べてちょっとアダルティなムードがあるのがひとつの特徴で、この映画もあくまでも最後にちょっとあるだけだがセックスを匂わせているし、だいたい主人公はよくあるキラキラ映画と違って成人済みの社会人。というわけで社会人一年生のちょっとアホな主人公ウーマン(久間田琳加)が直面する様々な社会の実相というのが物語を構成する一要素になっていて、コミカルながらほんのちょっぴりとではあるが苦味を残す成長物語になっているあたり、なかなか侮れない面白さがある。

あとこれはカラフルな住宅街を俯瞰するファーストショットからしておっこれはと思わされるのですがシンメトリックで画面に余分なものを入れない構図がイイ、それから会話シーンなんかでも顔面アップのフィックスで工夫なく撮るんじゃなくて役者の動きとか視線に合わせてパンするんですねカメラが。これちょっと映画好きな人が観たら感心するよきっと。キラキラ映画だからと決して雑には撮ってない。ちゃんと丁寧な絵作りをしてるし、俺は折に触れてはキラキラ映画の良し悪しは主演の後ろに映り込んでるエキストラがどれだけ本気の芝居をしているかで分かると言い張っているが、この映画はですね終盤の飛行機内で主演・久間田琳加を斜め後ろから眺めるビジネスマンの芝居がとてもよかった。そういうところも手を抜いてないなーと唸りましたよ。

それからやっぱりお芝居ね。ジャニタレの人も立場に甘えたアイドル芝居にはなってない。もちろん本人のキャラに合わせた役柄になってるところはあるんでしょうけど、井上瑞稀くんのアホ男子だけどその無邪気さが可愛くて憎めないっていう芝居うまかったですよ。久間田琳加もシーンごとにしっかり緩急つけて、大人の選択を迫られる苦悩を頑張って出してた。他の役者さんもみんな味付け濃いめの芝居でキャラが立って、主演ふたりの恋愛が成就するかしないかってだけじゃなくて二人をある程度離れたところから見守る周囲の人々の物語にもなってるところが大人のキラキラ映画という感じで好感度高し。ちなみに俺の推しキャラは不祥事を起こして左遷された店長に代わって主人公の勤務する弁当屋にやってきたクセ強めの新オーナーだ。何この人おもしろい芝居しとるなと思ったら宍戸美和公という大人計画所属の人だそうでぽんと膝を打つ。良いキャスティングしてますなぁ。

客席一人も笑ってなかったので滑ってる感がすごかったがギャグのテンポも悪くなかったし、埴輪のたくさん置いてある変なホテルとか美術の作り込みも良かったし、ケチをつけるところが見当たらない映画で面白かったですよ『おとななじみ』。ただやっぱり気になるのはあの塩からはどっちなんだっていう…みなさんからの情報、待ってます!

【ママー!これ買ってー!】


桃屋 いか塩辛 110g

でも冷蔵庫から取るっていうのはやっぱいかの塩辛なんじゃないかなぁ。大人の食べ物っていう演出にもなるし。大人の人って塩辛食った口でセックスするんですか?

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