設定負けしてないか映画『マイ・エレメント』感想文

《推定睡眠時間:0分》

舞台となる街エレメント・シティは火・水・土(植物)・風(空気)の擬人化された四大元素が暮らす街なのだが最初にその地に降り立ったのは水族だったので街は水族中心に開発されており街の主要公共交通機関である高架鉄道は水上バスのような形になっているのだがこの水上電車が通過するとザバァァァァと高架下にスプラッシュマウンテンぐらいの勢いで水が降り注ぎ水族とか土族とか風族はいいのだが火族は水を浴びると浴びた部分が消失する大けがを負う(でも石炭を食べると回復)のでたぶん鉄道の水しぶきをフルで食らうと即死なのだが火族たち傘一本さすだけで普通にこの危険極まりない高架下を通過しておりなんかウケてしまった。いやそんな危険な環境を生活の一部として受け入れるなよ!

そのへんからわかるようにこの映画ピクサーの最新作なのだがディテールというか「もし四大元素が一緒に暮らす街があったら?」というアイディアの膨らませ方が結構ショボく楽しいは楽しいのだがこれがあのピクサーのディズニーに食われた末路かぁとか思ってしまった。一概には言えないかもしれないがピクサーってそんなところに拘るのかよ的な作品世界のオタク的作り込みとかワンアイディアからのシチュエーションの膨らませ方がすごかったりあとキャラクターの内面の一見シンプルだけれども複雑な描写とか優れた風刺性・批評性で鳴らしたアニメスタジオじゃないですか。クルマが喋ったりオモチャが冒険したりするからキッズにも楽しめるけど、それ以上に子供の付き添いで観に来た親を虜にしてしまうような作品を作ってた。

でも『マイ・エレメント』にはそういうピクサーらしさって俺はほとんど感じられなかったな。今回はちょっと対象年齢が低いのかもしれない。だからあえて単純なキャラクター、単純な世界観、単純なストーリー…とこうなっているのかもしれませんが、お子様向けの映画なら大抵ニコニコ顔の俺がこれにはあんまりニコニコできなかったのはなんかお勉強感がある、教育的に安全ですよという親およびディズニーの偉い人たちを説得するためのオトナの事情を感じてしまって、どうもお子様をただ楽しませるために作っているようには見えないところがある。まぁそんな映画がこの世に存在するかと言えば無いとは思いますが。

一例を挙げれば主人公の火族の娘がですね、石を高熱で溶岩にしてですね、それでそれを冷やしてガラス細工を作るんです。教育的でしょ。ガラスはこうやってできるんですよと勉強になる。それから主人公に恋する涙もろい水族の公務員が水でできた自分の体をレンズにして主人公の姿をそこに通すことで火をおこすシーンもあった。これもお勉強だよね。レンズで光を屈曲させて云々という。

そうした教育シーン自体が悪いとは別に思わないが本当に教育のためだけに入れてますみたいな感じで遊び心に乏しいというのは悪い。俺だったら火族の人は石を食って体内で消化の代わりに溶岩化してウンコの代わりにキレイなガラスをケツから捻り出すって風にするな。キッズは常にウンコネタが大好きだから面白いだろうし、ガラスの生成だけでなく人体の消化の仕組みも学べて一石三鳥。水族のレンズはたとえばどこかかなり遠くに光線を集めて照らすとか火をつけないと街が崩壊しちゃうみたいなシチュエーションを作って、そこで泣き虫の水族くんレンズ化で大活躍、しかも火族のみんなと協力して事を為すのでこれまで仲が悪かった水族と火族がそれを機に仲良しに! みたいな物語のクライマックスに使うと思う。そしたら単にレンズ効果とはこういうものですとぶっちゃけどうでもいいシーンで見せるより絶対キッズ盛り上がった。

やってたんだよな、昔のピクサーだったらそういうこと。手の込んだ作品とかじゃなくても普通にやってた。エレメントたちの住む街ですと設定しつつ実質的には火と水の古典的なロミジュリ的恋愛物語でしかなく風と土は本筋にほとんど絡まない(とくに土はモブに近い扱いであったよ…!)なんていうのも昔のピクサーだったらシナリオ段階で問題が指摘されて修正されてたんじゃないだろうか。そこは四大元素の全種族をちゃんとキャラクターとして立てて物語に組み込んで最後には思いがけない驚きを与えてくれたんじゃないだろうか。

再びのたとえばだが、火族と水族が触れると水蒸気が発生してこれがまぁ化学的な正確さはひとまず置いておいて風族の赤ん坊になる、風族の赤ん坊は水族に火族の光が当たることで発生する水蒸気をエサに成長して雲になり乾いた土族と海の水族に雨を降らせることで土族と海族を成長させる、雨が降らず乾燥した(老化した)土族はそこに自然火災で火族を生み出す、その火族が水族と出会うことで…みたいな設定を採用すれば自然科学のお勉強になるだけでなく生命は循環してみんな支え合って生きているんだね的な道徳のお勉強にもなる。なにより、こんな図式を街の秘密的な感じで物語のクライマックスに持ってくればいがみ合う火族と水族(というか貧乏な火族が一方的に裕福な水族を敵視している)の初期設定がとても効果的に生かされて映画的なカタルシスを生むだろう。

『マイ・エレメント』そういうところがないんである。ついでに言えばカメラワークや構図もケレンがなく単調で面白くない。面白くないといってもそこは多額のお金をかけたハリウッドメジャーのアニメ映画だから楽しめないということは結局ないのだが、しかしなー。これがフランスの新興アニメスタジオの映画ですよと言われたらまぁこんなもんだろうなわりあいよくできてるんじゃないのぐらいな感じにはなるけれども、ピクサーが作ってるんだもんなー。ピクサーだったらもうちょっと頑張ってくれたっていいじゃないかぐらい言いたくなるよなー。移民の物語としても(主人公は移民火族の二世なのだ)ちょっとありきたりだしなー。

とはいえその作りの粗さが面白ポイントになっていないとは言い切れず、高架水路鉄道の水バシャアアもそうだが、主人公の両親が経営する雑貨屋にはどう見ても紙パッケージとしか見えないお菓子であるとかどう見ても単なる紙としか見えない帳簿が置いてあるのでいやそれ燃えるって! の心の中でツッコミ不可避、主人公の父親は濃くキャラクターが描写される一方で妻(もちろん火族)の存在感はげっそり薄く、途中から恋しているエレメントをニオイで嗅ぎつけるとかいう火と全然関係ない特殊能力を付与されてそれが「とくに役に立たない」のでいやなんだったんだよそれ! とこちらも心の中でツッコミ不可避、そういうところを楽しむことを想定している映画ではまったくないと思うのだが、本当にもろもろかなり雑なのでちょっと面白くなってきてしまうのである。火と水と風は通り抜けられるから実質的に土族ブロックとしてしか機能してない金網工事フェンスとかな。それひどくない!?

【ママー!これ買ってー!】


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フランスの無生物擬人化世界アニメ。結構大雑把なところはあるが面白かった。

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