2018年ベスト快眠映画『長河 愛の詩』の感想

《推定睡眠時間:30分》

18日に新宿で見た『長河 愛の詩』は映写トラブルで一時上映が中断してしまった。原因は停電とアナウンスがあるがニュースの類いを探してもなかなかそれらしい情報がない。昨日19日のソフトバンク通信障害も何か関係があるだろうか。不明。
たしかに唐突に映像が途切れた。ひと月にも及ぶ長江遡行の末、主人公(チン・ハオ)がすべてを失ったところで画面暗転、悲劇的な劇伴が高まって耳をつんざく轟音となったところでプツッ。エンドロールもない。

でもなんか妙に納得してしまったな。こういう終わり方かぁ、と。すげぇそれっぽいタイミングで映像切れたんですよ本当。失意の主人公があてどなく船を出してさ、その船が長江の霧の中に埋もれていってぇのプツッ、ですからね。
その後にまだ30分ぐらい映画は続くわけですが、ちょっとなんかもうそれが蛇足に感じられたぐらいで。それっていうのは有耶無耶なままに終わってしまった旅に主人公が決着をつけて自身の魂を救済するパートなんですけど、こういう晦渋っていうか捉えどころのない映像詩にはブツ切れラストの方がしっくりきちゃったんで…なんていうか、あぁ物語になっちゃったなみたいな。

それで軽く白けたところがないとは言えないからあれもう非公式ラストでいいな。俺の中では映画あそこで終わったよ。
大都会上海から長江遡って、土地の記憶と喪失のイメージが霧の中で交錯して、悠久の大河をせき止める超巨大ダム(三峡ダムというらしい)を超えたらピカピカの新興都市(これは雲陽というところ)が現れた。
ろくに働きもしないで船で拾った詩集片手に過去に思いを馳せていた主人公がコンクリートに覆われた現実に逢着して、それまで縋っていた幻想を失うっていう…こういう故事みたいな社会批判はすげぇなと思ったし、あぁ現代中国知識人の心情こんな感じなのかもっていうところがあって、そこ非常に感銘受けたところだったんで。

三峡ダムは大電力源だそうですがー、映画の中でそこ超えたらリアル映画館で部分停電っていう、それも新宿なんて大電力消費地でですよ。よくわからない電力アクシデントがリアルと映画繋いだよ、長江の霧の中で。
いや、やっぱあの終わり方よかったなぁ。本当に、不可解にも腑に落ちる終わり方だったんだよ。劇伴ブツ切れもエンドロールなしも中国映画の素材ならなんとなくあり得そうな気もしたので。間違ってワークプリント焼いたの送っちゃった! みたいな(ない)

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しかしびっくりしたな。映写トラブルもそうだけどすげぇ映画来たなと思って…初めてテオ・アンゲロプロスとかヴェルナー・ヘルツォークの映画を見たときと同じような衝撃。
もうね、長江超広い。バカみたいな感想だけどマジで長江超広いんだよ。その超広い長江の霧の中に貨物船の群れがボーッと浮かんでるっていう画に思考死んだよ。死んだ。
土地とか河とかダムとかっていう実景を撮っていく風景映画ですけど、その風景が物語とか作者の意図を凌駕して迫ってくるようなところが本当に素晴らしいなこれは。
だから撮られた風景を物語の、一連の出来事の中で解釈させようとする後半30分が蛇足に感じられたっていうのもあるんですけど。

こんなに気持ちよく映画館で眠れたのも久しぶりで…タルコフスキー映画ぐらいの快眠度じゃないかこれは。音が心地いいんですよね音が。果てることなく繰り返す波しぶきとか、リズミカルな船体の軋りとか、風に揺れる木々のざわめき、お経、だいたい流れるような中国語の話し言葉が既に眠い。
三峡ダムの大音響開門ノイズも素晴らしいアクセント。びっくりして一旦目を覚ますが、その後に続く統制された静寂でまた眠くなる。とにかく最後までずっと眠い。

主人公が赴く先々でその土地の詩が画面に浮かび上がる。霧に霞んだ風景を眺めながら豊かに荒々しい音々に耳を傾けながら詩を感じながらたまに、超綺麗な女優さんを見てほわっとするとか夢のような映画だ。
これはもう寝ろってことだろうな。安心して眠っていいよと。このシン・ジーレイという超綺麗な女優さんは何故か、長江沿岸のあちこちに居る。父親を亡くして空虚を抱え込んだまま長江密輸遡行を続ける主人公がよすがとするのは幽霊なんだか幻覚なんだか土地の記憶なんだかあるいは…な謎の人ジーレイなんですが、見てるこっちもそうやって見てるからな。
いくら寝ても目を覚ましたらジーレイいるから大丈夫。その安心感が快眠の所以。遡行に合わせてつい幼児に退行してしまう危険な映画だ…。

退行と言いつつ現代を強く感じる映画なのでそのへんは大人の見る映画。強引な経済発展の犠牲になる農村とか失われていく原風景とか今日的な社会問題を扱うが、川辺に描いた漢文でけんけんぱ、とかそういう表現がむしろ現代性を感じるところ。凹凸のあるガラス越しの歪んだ像、とか。
映画の進行につれてその面が前に出てくる。作家の創意が風景の力を覆い隠してしまうわけである(いや、風景だって作為的に撮られたものには違いないのだけれどさ…)

あの中断ラストが本当のラストだったらなぁ。甚だ無責任な映画になる気がするが、無責任でありつつも謎と誘惑に満ちた夢幻のうつくしさを湛えた映画として終われたのに。
そのような退行的願望の成就を許さないからそれはそれで、やっぱりすごい映画だと思うところではあるけれど(そしてまたそんなような願望についての映画でもあったのだ)

【ママー!これ買ってー!】


霧の中の風景 Blu-ray

これなんか『長江 愛の詩』の雰囲気に近いのではないかとおもう。邦題は『ベルリン 天使の詩』みたいですが。

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