と言いつつサンスのカメラな『クレアのカメラ』感想文

《推定睡眠時間:0分》

『それから』『夜の浜辺でひとり』と併せて観ると追い詰められた人間の変われなさとか往生際の悪さに良い意味で愕然とさせられますね人間一般に拡大できることかどうかはわかりませんが。
連続公開で一気に観ていることもあってすごいデジャヴュ。ハンブルクでロケをした『夜の浜辺でひとり』とは姉妹編の観。

異国行ってなにするってとりあえず古書店行くんですよ『夜の浜辺でひとり』も『クレアのカメラ』も。で『クレアのカメラ』の方はホン・サンスの分身たる不倫映画監督チョン・ジニョンがカッフェで出会ったイザベル・ユペールを古書店連れてってそこで見つけた詩集を使って口説くんですけど、『夜の浜辺でひとり』でもやっぱ不倫映画監督が詩集かなんか朗読してキム・ミニを口説くというか関係を繋ぎ止めようとするという。

三作通して観てホン・サンスが文学趣味の人だということはよくわかりましたが三作通して本で口説く、三作通して本を通さないと女に近づけない。
自虐なのかもしれないが三作続けて同じ自虐とかええかげんにせえよって感じになりますし文学中年の可愛げアピールならマジでええかげんにしてほしいと思うのですがいやまぁでもそこが呆れながらの面白ポイントになっているというのは否めないから…もうこれからもずっと本で口説く映画、作り続けてほしいと思いましたよ。観るかどうかはわかりませんが…。

とりあえず本を噛ませないと人付き合いができない本・サンスだったがカメラというのもこの人にとっては同じようなものなんだろうみたいなダイアローグがあり、カメラを通す前と後じゃあ人が違って見えるとイザベル・ユペールは語る。
その台詞を受けたチョン・ジニョンはユペールの瞳を覗き込みながらあなたの瞳に反射する像の印象が云々とぬかして彼女を口説こうとするが(ええかげんにせえよ!)、これは、わりとストレートにホン・サンスが映画を撮る動機を成すところなんじゃないかと思わせなくもない。

こういう映画を観た後ではホン・サンスの映画に特徴的なあの即興性の強いプリミティブなズーム・イン・アウトのカメラワークもカメラの視線を強調するものとしてなるほど感が出てくる。
監督の目をカメラのレンズに同化させようとするねらいが云々というと古典映画論的じみた響きがあるので嫌な汗が出るがひとまず汗を拭ってそのような映画と思い込めば、主演キム・ミニの不倫三部作(?)の中ではホン・サンスの心情(言い訳と読む)がもっとも率直に表れた映画といえるのかもしれない。

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本当はイザベル・ユペールなど興味はなかったが(映画の中で)キム・ミニを失った喪失感からとりあえず口説いてみるもやっぱ気が乗らない映画監督ホン・サンス(チョン・ジニョン)
不倫のとばっちりで仕事を失ったキミ・ミニがビジネスルックを脱ぎ捨ててホットパンツで映画祭のレセプションに出席しているのを目にしてなんだその格好は! 男を誘惑してるのか! 自分を安売りするな! お前の魂はもっと清らかなはずだ! …などと怒鳴り散らすホン・サンス(チョン・ジニョン)のあわれ迷惑な姿は最高にして最低だ。

あれは、イザベル・ユペールの瞳の中にもうひとりの自分の姿を見ようとしたように、キミ・ミニに怒鳴っているようで自分に対して怒鳴ってるんだろう。なんという面倒くさいホン・サンス。
その滑稽は観ていておもしろいが付き合わされる方はたいへんっぽいので、そういえばさいきん日本でも文壇ガン無視の文士セクハラ・スキャンダルがありましたがやはり文学中年男になどかかずらうとロクなことがないという意味で貴重な…かどうかはわからないが教訓的価値のある映画といえよう。

タイトル・ロールにも関わらず尋常ではないイザベル・ユペールの観光的ゲスト出演感。キム・ミニの聖化もまだ気持ち控えめなのでホットパンツ姿は激キュートも、それより映画に反射するホン・サンスの自画像をたのしめばいいのか。
文学中年の心情とか別にそんな知りたくないので俺の中では三部作でいちばん映画として痛ぇ感じだったわけですが、二度は食いたくないが一度ぐらいはまぁ食ってもおいしいと思える。

ちなみにそのほかのおもしろかったところは準即興映画なのでカッフェのオープン席でキム・ミニがすげぇ重要な会話をしているが風めっちゃ強くてそこは一旦室内に移動するだろみたいなところです。
本当すげぇ風強かったんですよ背景に見える別のカッフェ的な店はオープン席しまっちゃってたもん。あとその背景にたまたま映り込んだ家から出てきた近所の人がチラチラとカメラを見ながら去って行くとかそういうところも良いですよね?

余談ながら大した意味もなくでかい犬が出てきたのですが、犬と独言的ダイアローグばかり書く面倒くさい文学中年映画監督というところから押井守を連想し、熱海は気候も町の作りもカンヌに似ているとイベントで言っていた(※押井は熱海在住)ことを思い出したが、ホン・サンスのカメラが切り取るカンヌはなんか確かに熱海っぽかったです。

【ママー!これ買ってー!】


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コリアン実写リメイクの公開が待ち遠しい押井脚本アニメ『人狼』ですがその前作にあたる『ケルベロス 地獄の番犬』は台湾ロケものの美風景映画だったので押井守のカンヌまたは韓国風景映画というのも見てみたいなぁと思ったので思考の赴くままに書きましたが『クレアのカメラ』とは微塵も関係するところがない。

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