インターネット探偵映画『search/サーチ』感想文

《推定睡眠時間:5分》

オープニングとエンドロールで原題の『SEARCHING』が画面に現れると最後のGの後ろにあれなんて言う名称なのかちょっとわからないのですがいま俺がこの文章をパソコンで書いている時に文末でピコピコ点滅してる縦線、あれが入る。
(※以下、しばらく映画の内容の感想に入らないので、内容の感想だけ拾いたい人は広告の下ぐらいまで飛ばすこと)

考えたものだよなぁって思いましたよ。『SEARCHING』の語でタイトルは完結していなくて、その後に何が続くのかは分からないんですけどでも何かの語が続くんだろうなって感じで。
失踪した娘を父親が探す映画だから一義的には『SEARCHING』for娘なんですけどfor失踪に関与した人間かもしれないしfor自分自身とかかもしれないし…という多義的な、多義的なっていうかインタラクティブなって言った方がいいなこれは。

観る人が能動的に映画を読んでいける映画。PC画面オンリーで展開する映画といったら俺は引きこもっていた頃に見た『トマ@トマ』がまず頭に浮かぶが(『トマ@トマ』の主人公も一日中ネットやってる童貞引きこもりだったので…)、最近は全然怖くなかったスカイプのグループチャット怪談『アンフレンデッド』(俺はグループチャットやる相手がいないので怖さの感覚が掴めず…)というのもあったし、『search/サーチ』では製作を務めたティムール・ベクマンベトフも同様の手法で『Profile』なる映画を監督したとかいう。

『Profile』は見てないからともかくとして『トマトマ』とか『アンフレ』はストーリーを語るための道具としてのPC画面オンリースタイルっていうところがあったのですが、でも『search/サーチ』は企画自体がGoogleグラスを用いた映像制作プロジェクトから発展したもの(とパンフレットに書いてある)というぐらいだから道具というかアイテムというかマテリアルというか、呼び方はともかくそういうものの方がストーリーより先にある。

機器、アプリ、メディア、ウェブサービス。『search/サーチ』にはなんでもある。windowsXPだったりMacだったり、Webカメラだったりスマホカメラだったり、SkypeだったりFaceTimeだったり、Google検索だったりYahoo!メール(※検索ではない)だったり、FacebookだったりTwitterだったりYouTubeだったりキャスだったり。それがストーリーをパズルみたいに形作っていく。

アイテムがストーリーを語るというのはアドベンチャーゲームとかRPGの考え方だよなと思う。ティムール・ベクマンベトフがFPS映画『ハードコア』の製作を務めているのも無関係ではないんだろうな。どうも、この人は本気でゲームのように、ゲームのような映画を作ろうとしているようだ。

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マテリアルとマテリアルの持つ膨大な情報が物語そのものになるゲームのような映画。与えられた物語に縛られないで観る側が画面内情報からあれこれ勝手に汲んで自分の物語を作り上げていける映画。ディスプレイのフレームがあるから『search/サーチ』をMADの土台素材にすることなんてことも簡単だ(著作権とか考慮しなければ)。

内容もおもしろかったがやっぱりそのスタイルがとてもユニークでかつ充分に発展性を感じるものだったので、見る風景が視聴者に委ねられたVR映画や展開を視聴者が選択できるインタラクティブ映画の可能性が模索されている中で、また一歩映画が新しい領域に踏み出した気がして感慨深いものがあったなぁ。

で内容の感想ですがミステリーとしてはスタイルと小道具以外はわりあいオーソドックスで、大事な一人娘が失踪してパニックな父親が各種デバイスとアプリをフル活用してオンライン時々オフラインで捜索を行うというものですが、なんせ1画面あたりの情報量がものすごいからうわぁなんかすげーってなってしまう。

全編PCやスマホのディスプレイ上オンリーで展開するということはその物理的制約によって普通の映画なら物語に付随する動的な要素、移動とか、背景とか、カメラアングルやポジションの変化による印象の連続的な変化とか、そういうのは容赦なく切り捨てられることになる。

代わりに画面に溢れるのはただもう静的な情報、情報、情報の塵の山。そりゃ動画より静止画の方が容量は小さいんだから動きが少ない代わりに情報量は多くなるわけである。連続ドラマなら1シーズン余裕な情報がたった102分に詰まってるのだからすごい。
でこの父親はハードボイルドの探偵がギャングのアジトとか依頼人の家とか行くみたいにしてアプリからアプリ、SNSからSNS、チャットからチャットへと渡り歩いて電脳の迷宮に入り込んでいく。

踏み込めば踏み込むほど手に入る情報は増えていって、出口が見えるどころか娘の存在自体が次第にわからなくなってくるのだからおそろしいもの。
それは見ている方も同じで、そこからどんなストーリーも導きだせてしまうが故にどのストーリーが正解かわからなくなってしまう情報の洪水と豊かなインタラクティブ性が、ミステリーのミスディレクションとして機能しているのだからいやまったく巧みな映画。

映像解像度の違いで単調な画面に変化を出すとか。実に気持ちよーい感じにデザインされたポインタの挙動であるとか。見事なウィンドウ活用、タイピングの速度と間で見せる感情表現。
基本シリアスではあったが時折顔を出す悲劇的ユーモアとネットあるあるには共感しつつ笑ってしまったのでよくできた映画だ。

もうお腹いっぱいの面白さなのですが面白いっていうのとは別に、俺これすげぇ良いなと思ったのは現代の情報流通の過剰とその情報量を背景にしたネットの決定不能性みたいなものを(映画が陥りがちな)批判一辺倒ではなくて、その正答の決定不能な混乱した情報鉱山を掘って掘って掘った先には新しいコミュニケーションやそうでしかなしえない救済の可能性がちゃんとあるんだっていうのをちゃんと見せてるところで、そこはちょっと感動的ですらありましたね。

ジョン・チョー名演のお父さんが子どもの住む世界を苦しみながら理解しようとするヒューマニスティックで普遍的な話でもあるし、俺もネットに毒されてる部分もありますけどやっぱ救われてる部分もあるしね。

【ママー!これ買ってー!】


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これもティムール・ベクマンベトフが製作しているそうで、『search/サーチ』の後には習作にしか見えない俺にはつまらない映画だったのですが、監督が『不思議惑星キン・ザ・ザ』で手癖の悪い音大生だったあの人っていう衝撃がつまらなさを吹き飛ばした。映画監督になってたんだ手癖の悪い人…。

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