電話しまくり映画『THE GUILTY/ギルティ』感想(ネタバレ途中からあり)

投稿日: カテゴリー 居眠り映画館タグ , , , ,

《推定睡眠時間:0分》

この緊急通報指令室(110番すると繋がる)オペレーターの主人公が本当にヒデェやつでどのくらいヒデェかって風俗街で察するに娼婦か娼婦を装った女に金を奪われた中年男からの助けてくれ的な通報に対して「自業自得だろ」ってちょっとニヤけながら言ったりするんですけど普通に職務不適格だよね。

込み入った事件の対応中に別件の通報が入ったりすると今忙しいんだっつって電話切るし。
いや、いるんですよ同じオフィスにそんなに忙しくない同僚のオペレーターが何人も。一人じゃないの。そしたらさ、普通は他のオペレーターにその電話回すじゃん? こいつ切るから。同じ相手から二回掛かってきた警官要請の電話を二回とも切るから。

ダメだよこいつはー。こんなやつに命は預けられませんよー。戒告処分だ戒告処分。だが実際この男、ちょっとしたやらかしによって現場から外され緊急通報指令室に配置転換されているので既に戒告以上の処分を受けているのだった。
映画で描かれるのはそんなやらかし警官の一夜の出来事だったがその翌日にはやらかしを弁明すべく法廷に立つことになっているのでー、不承不承の配置転換でただでさえやる気がゼロなこのやらかし警官、勤労意欲がマイナスの域に突入しており上のような職務不適格行動に繋がったのであった。

そんなやらかし警官だったが誘拐されたと思しき女性からの隠密通報(子供に電話してるよう装ってる)を受けて死んだ目が現場復帰、なんとか解決しようとデスクに座したまま東奔西走。
別エリアの緊急通報指令室、被害者の自宅、加害者の携帯、現場にいたころの相棒と、とにかく掛けられるところには掛けられるだけ電話、電話、電話。

うーん、歯痒い! 銃とか持ってバーンと外へ飛び出して行きたいところだ! いやまぁ飛び出したところで犯人の正確な居場所はわからないから(電話の発信されたおおまかな位置はわかる)どうしようもないのだが、だいたいこいつ今は警官つってもオペレーターだから銃とか携行してないのだが、ともかくそんな気分にさせられる。

で、それはやらかし警官の方もだいたい同じなので、この人は歯痒さの余りどんどん行動(電話)を過激化させていくわけですが、カメラは一切緊急通報指令室の外に出ないでやらかし警官を追い続けるものだから感情移入度が半端ない。
こうなってくると不良が何か良いことをすると劇的に善人に見えてしまう的な効果によって冒頭の職務不適格っぷりもむしろプラスに転じてしまうので、観客の感情の転がし方が実に巧い映画だったなあ。

はいじゃあ以下ネタバレ入りまーすネタバレ嫌な人は帰ってくださーい。帰れ! 俺に関わるな! 一人にしてくれ!

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いやよくできた映画だと思いますよ本当。このシナリオだったら一人舞台とかラジオドラマでいいじゃんみたいな気も途中ちょっとしたんですが、そんなことはなかったすね、映画だからこその『ギルティ』だ。
映画であることの何が重要かって主人公以外の人間が画面に映る。つまり同僚のオペレーターですけれども、そうした画面に映るものの存在は画面に映らないものと画面に映るものの非対称性を作り出して、姿の見えない相手と電話をする行為が主人公の独白や告解めいてくる。またはその相手が、主人公の影のようになってくる。

そうした映像の効果は物語を意味の水準で変えてしまうもので、こういうワンシチュエーションの映画だから観ている側としてはついつい主人公の側に立って物事を捉えてしまうわけですが、実は主人公が受けた誘拐の通報は大した事件ではなくて、いや事件は事件なんだけれども主人公が自ら作り出した事件だった、ということが判明するあたりで大いにどんでん返されるのだった。
これはたぶんラジオドラマとかだとドラマティックな展開ではあっても、あんまり劇的なびっくり効果を持たないところですよね。

誘拐通報の真相は何かというと育児疲れと生活苦(と思しき)から精神を病んで乳幼児の息子を殺めてしまった母親を別れた夫が連れ出した。行き先は母親の主治医のいる精神科病院で、母親の方は混乱しながらその車内で通報、別れた夫の方は息子の死を知られたくないので別件を装って電話してきた警官を拒絶し…とこういう感じ。

これを警官はDV夫が今にも妻を殺そうとしてる事件+DV夫の息子殺し事件という電話越しの超重大事件にしてしまうのですが、そうダイナミックに勘違いしてしまったのはこの人が同僚の誰とも情報を共有しないで独断専行してしまったからで、そしてまた自らも捜査中に強盗かなんか(その詳細は語られない)の少年をその必要はなかったのに射殺して、正当防衛の偽装工作を行った罪があるからだった。

この警官は電話越しの夫に人殺しの自分の姿を見ていたし、そしてたぶん通報者の母親と母親が家に残してきたもう一人の子供(こっちは生きてる)には、殺された少年の家族の姿かなんか見てたんである。で、その行為はまた自らの少年殺しを正当化しようする警官の無意識的な防衛反応でもあったんである。

自分が少年を撃ち殺したのは故あってのことで、それは正しいことだったと思い込みたいがために、少なくとも息子殺しと妻の誘拐に関しては無実の夫(DVなんかはしてそうではある)を警官は想像上の殺人犯に仕立て上げてしまうのだ。そいつを捕まえようとしている自分は警官としての職責を果たしているだけだ。あの時だってそうだった。

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こうしてすっかり妄想事件にハマった警官は電話越しに母親と家に残された娘にあれこれ指示を出して事件を悪化させていく。警官の指示がなければ娘は弟の惨殺死体を見ることはなかったし、通報者の母親の混乱を助長することも、母親を連れ出した夫に死ななくてよかったなレベルの怪我を負わせることもなかった。

それまで室長室にこもって一人で事件の対応に当たっていた警官は全てを知って指令室に戻っていく。
そこで初めて同僚のオペレーターに指示を出す瞬間、何気ない指示なのだけれどもたいそう感動的でありましたね。
それは問題を一人で抱え込むとろくなことにならないとようやく警官が悟った瞬間で、彼が自分の罪を受け入れた瞬間でもあったのだ。

息子殺しの事実を認めて希死念慮に憑かれた母親を救うべく警官は自らの罪を同僚たちの前で告白する。
それを聞いた母親は自殺をなんとか思いとどまって一件落着(してないが)、指令室を後にした警官は最後に携帯で誰かに電話を掛けようとするが、映画はそこでエンドロール。

ちょっとした謎を残すわけですが個人的には最初の方で電話を掛けてきた記者に掛けたんじゃないかなぁと思う。
母親がそうだったように警官にも誰か第三者の話し相手が必要だったわけだから。というかあの母親も本当は、犯した罪をただ聞いて欲しくて通報したんじゃないかと思うのだ。

ちなみにこれワンシチュエーションの電話映画なので効果音とか環境音とか音響がめちゃくちゃ凝ってるんですが、緩やかなズームインとズームアウトを駆使した映像の緩急、展開と歩調を合わせた変調っぷりも素晴らしく、とくに警官が室長室に入って指令室を見渡すガラス壁のカーテンをひとつひとつ下ろしていくところの絵面はすげえ良かったですね。

警官が事件の深みにハマって自己の内面に沈降していく過程を見事に象徴していて、以降警官は無音の暗闇の中で着信を告げる赤ランプと睨めっこするわけですが、そこが取調室とか告解室の代わりとなって、母親誘拐事件の裏に隠れた警官の少年殺し事件が警官の口から暴かれていく。
巧い作りの映画だよーこれはー。やー文句なしに面白かったっすねー。

【ママー!これ買ってー!】


SILENT HILL2 (Original Soundtrack)

牽強付会も甚だしいが和製ホラゲー永遠の名作『サイレントヒル2』も大体こんなようなストーリーです! 音響に凝りまくっているという面でも似ているな! ヘッドホンでプレイするとすげぇ怖いって話題になりましたから発売当時は!
山岡晃のノイジーで切ないインダストリアル/ニューウェイブ・サウンドも最高なのでついサントラのリンクを貼ってしまったがそうなるといよいよ『ギルティ』と関係がない。

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さるこ

こんにちは。
彼の行動は正義じゃなくて告解で、ああ、そんでギルティ か、って感心しました。
私も(たぶん)彼と同じ受信をしてた事になると思うんですが、「父親は娘に部屋に入るな、って言ってんだから惨劇かもよ!父親が殺ったともかぎらんだろう!」と、ココロで叫んでました。「電話切れたからって、落ちたとはかぎらんだろう!」…すっかり術中にハマって、楽しみました。秀作です。
ヘッドホン外す時顔に引っかけたり、結構おっちょこちょいで可愛いかった。(そこか?)
ラストの電話は、奥さん宛かなあ、と私は思ったのですが、貴殿のお考えもなるほど!クールです。

トム・ハーディが、車ん中でひとりしゃべくりまくる映画を思い出しました。https://coco.to/movie/38899/review/3