グルが導く『ホドロフスキーのサイコマジック』感想文

《推定ながら見時間:30分(vimeo鑑賞)》

サイコマジックっていうのはホドロフスキーが提唱する精神分析療法だそうで基本的にはホドロフスキーがグルになって患者に濃厚接触サイコドラマを演じてもらう療法ぽいのですが後半「癌は治せるのか?」と題されたパートでホドロフスキー、キャパ1000オーバーぐらいの二階席あり円形ステージでサイコマジックの講演会みたいのやっててえっ! って思ったよね。そんな集まるの人! 映画上映会とかじゃなくてサイコマジック講演会に!?

まぁ、イベントの詳細よくわからなかったので映画上映とかもあったのかもしれないが…しかしホドロフスキーといえばあくまで『ホーリーマウンテン』とか『エル・トポ』のカルト映画監督にしてメビウスと組んでカルトコミック『アンカル』を放ったバンドデシネ原作者、の古いイメージから認識がアップデートされていない原始人なので、こういうのは素直に驚く。なんかタロット研究とかもやってるみたいですし映画とかコミックとかは特に本業っていうんじゃなくて広範な活動の一部だったんですな。治療を求めて人が集まるぐらいだからむしろ神秘主義的な精神分析家として顔の方が国によっては知られているのかもしれない。

ところでこの講演会の場面、客席にいた咽頭癌だという女性聴衆をホドロフスキーはステージに上げると他の聴衆たちに呼びかける。「彼女のために祈ってください!」すると聴衆たちは彼女に向かって波動を送るように開いた両手を前に突き出すとなにやら呪術的な合唱を始め…祈る。シーン変わって10年後、同じ女性がカメラの前でインタビューに答えている。どうやら彼女は10年前のステージで受けた集団サイコマジックにより癌を克服したのであった…。

なんか、ギリギリである。この咽頭癌の人はなにも西洋医学を否定しているわけではなくイベント後も治療は続けていたのであるが集団サイコマジックで内からエネルギーが湧いてきたとか語ったりもするのであった。辛い治療でヘタったメンタルが集団サイコマジックで癒やされて前向きになれたのなら大変よいことだがなんか、ギリギリである。

タロット研究とかやってるぐらいだからホドロフスキーというのはニューエイジの人なんだろう。サイコマジックというのも言われてみればいかにもニューエイジなターム、『エル・トポ』は西部劇に禅をくっつけた映画だったが禅といえばニューエイジャーの基礎科目であった。内なるエネルギーの解放や内発性を重視する心理主義もまたニューエイジ人の特徴である。

そうか、そういう風に観ればよかったのか、『エル・トポ』とか『ホーリーマウンテン』は。カルト映画の代名詞を覆う幻惑の霧がササーッと引いて観ているこちらもサイコマジックを受けた患者と呼応するかのようにスッキリする映画体験だったが、多少、マジックの種を見てしまったようで幻滅しないところがないでもない。

本人的にもそのような意図があったのか映画の内容としてはサイコマジック療法を受けにグル=ホドロフスキーの下を訪れた(?)人々の各々の治療過程を記録したドキュメンタリーだが、その合間合間でホドロフスキーの過去作が参照・引用され、撮った映画のイメージをサイコマジック療法に応用しているのかサイコマジック療法で試みた手段を映画に取り入れているのかはわからないが、なるほどこれを観るとホドロフスキーの映画に出てくる様々な暗喩や象徴的行為の含意がするする読み解ける。本人出ずっぱりだしホドロフスキー汁は濃いめだが、むしろホドロフスキー映画の入門編としても観れそうな感じである。

さて肝心のサイコマジック療法とは具体的にどんなもんか。これは精神分析を基礎にしているので抑圧されたものを解放することが目的になる。患者の様々な心理的不調は主に幼少期なんかに受けた傷つき体験が原因、ならばその場面をグルの演出でシュルレアリスティックに再演して乗り越えてしまおうではないか。っていうことである患者は足に鎖を付けて囚人のように街をまわる、ある患者はハンマーでぐちゃぐちゃに潰したカボチャを生で箱に入れて宅配便(国際)で両親に送りつける、ある患者は衣服を切り刻まれ全裸になってこちらも全裸の母親役の老婆と父親役の中年男に乳幼児のように身体を預ける。

ある患者はグルが撒いた肉をハゲタカがぐしゃぐしゃと食らう中で地中に埋められ、またある患者はエルトン・ジョンのような格好でピアノに激情をぶつけたかと思えばそのまま街に飛び出し、そしてある患者は子供用の水兵さんファッションをグルに着せられ満面の笑顔で遊園地を走り回りアトラクションに片っ端から一人で乗り警戒した子供連れの母親から逃げられるなどの『働くおっさん劇場』における野見さんの野外ロケを彷彿とさせる羞恥プレイを行った後、グルに金粉を塗られる。

どの治療も観ているこっちとしては反応に困るものばかりだが、まぁ患者のみなさんはどなたも満足していたようではあるのでいいんじゃないでしょうか。潰れたカボチャを送られた両親と患者の関係がその後どうなったのかだけは気がかりだが精神分析療法に客観的な成功とか失敗とかないですしね。どの治療にも共通するのは死と再生のイメージ。患者は象徴的な死と再生のドラマを通じて精神的に生まれ変わり、牧師とかが着る服みたいなやつに身を包んだグルはそれを司る司祭というわけです。こうなると一介のニューエイジャーを超えて立派なニューエイジ宗教指導者だね、ホドロフスキー。

ドキュメンタリー映画ですが患者のやってる(やらされてる)象徴ドラマはフィクションの方のホドロフスキー映画の場面そのもの。グル的にはそこに区別とかないんでしょうな。現実は虚構だし虚構は現実。珍妙奇怪、笑えるやら呆れるやら謎の感動を覚えるやらなホドロフスキー節炸裂なマジック映画でありました。

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漆黒の†大川隆法†
漆黒の†大川隆法†
2021年12月1日 4:57 PM

ホーリー・マウンテン観る前に観てみようと思います
byエル・カンターレ