マンハッタン警察戦争映画『21ブリッジ』感想文

《推定睡眠時間:5分》

マンハッタン島にかかる21本もの橋をたった1本の橋すら封鎖することができなかった某無能警察と違って5分ぐらいの協議で封鎖してしまうさすがのニューヨーク市警であったが橋の封鎖が最終的にあんま展開に影響しないというのがこの映画のすごいところである。いや一応犯人たちが逃げ出せないようにっていう理由はあるけどね。それは表向きの理由で内向きの理由としてはまだ別に…というのも匂わせるのだが、ただそこ具体的には描かれないしね。

直接描写する必要はないと思うんですよ。たとえば橋が封鎖されて住民大パニックっていうお馴染みのパニック映画的描写とかもっとあったらよかったよな(っていうか、あった? ちょっとだけ寝たので微妙なんですが…)。それでテレビ局とかがこいつぁ大スクープだって言ってパニック・イン・マンハッタンを取材しまくるの。警察は犯人こんな危険なやつ! 住民のみなさん注意してくださーい! って大々的に発表してメディアも前代未聞の犯罪ロックダウン状況で細かい情報精査してらんないからそれ鵜呑みにして各局競うように犯人危険ですよ報道を垂れ流すわけですよ。そしたら…ねぇ? 多角的な風刺も入って物語に厚みが出るし、なによりマンハッタン島閉鎖っていう大仕掛けにもっと明確な意味付けがされたよね。

と文句というか要望から入ったわけですけれどもそれはそこぐらいしか悪く言えるところがないからで…いやまぁ正義感つよつよの黒人刑事チャドウィック・ボーズマンと疲労たまたまシングルマザー女性警官シエナ・ミラーの一応バディものの側面もあるのにそこの絡みが薄すぎるんでドラマが盛り上がらないとかの欠点もまぁあるにはあるが…超よかったよね、ノワール風味濃厚なポリスアクション映画として。

なにせもう最初の室内銃撃戦からしてすばらしい。なんかワルになりきれないワルって感じのあくまで仕事でワルやってるだけだから的な若者二人組がおるんです。そいつらが閉店後のレストラン的なところを襲撃するとそこは実はギャングの偽装倉庫、ワル二人組はそのことを知っていて麻薬30キロぐらい強奪するだけの軽い仕事(軽いか?)のつもりで押し入ったのであったが、倉庫の中を見てびっくり仰天、なんじゃあこりゃあ30キロどころか300キロはあるじゃないか~!

ここでワル二人組がヨッシャ300キロもらっちゃおってならないで「これやべーだろ…」ってなるあたりがリアルかつ渋くてええのですが躊躇していたら警官隊が到着してしまいます。どうしよう! とりあえず殺るしかないだろ! で店を包囲した警官隊との銃撃戦になるのですが…。

どうやらこのワル二人組、タダモノではないらしいことがその銃撃戦で判明。自動小銃の手慣れた扱いや射撃の正確さもそうだが隙のないCQB戦術がまったく見事、一人がバーカウンターから対角線上の壁に隠れた警官を牽制的に射撃している間にもう一人は気付かれないようカウンター前の通路に進出、警官が反撃のためにバーカウンターのワル1に銃口を向けて通路に身を乗り出したところで通路のワル2は側方から警官を撃ったりとかするのであった。

えぇ…なにそれ単なるチンピラかと思ったらプロの業じゃないですかそれは…業務用CQBじゃないですか…そんなことをされたら警官を8人も銃撃戦で殺した極悪人なのに思わず応援してしまうというか、たった2人で本職を8人も!? とはやはり思ってしまう。車で逃走するために店の外に出てからも逃走車がパトカーにガッチャンコしたにも関わらず表情に焦りの色はなく遮蔽物を巧みに利用しながらの銃撃戦を展開し無傷で逃げおおせたからなこいつら。すごいなぁ。そんなすごい人がこんなチンケな強盗依頼で人間を8人+αもぶっ殺すスーパー大罪を犯してしまうのだからアメリカ社会は厳しいなぁ。その才能をもっと健全に活かせる場を作ってやれなかったんですねぇ…とそのへんはストーリーに関わるところだからまぁ黙っておくが…。

とにかく、そんなプロいアクションが夜のマンハッタンのあちこちで突発的に展開されて最高。尺が短いのでその間を繋ぐドラマが最小限に抑えられているあたりも渋くてよかったし、ノワールの美学も感じたね。『夜の大捜査線』のシドニー・ポワチエの再来かっていうチャドウィック・ボーズマンの信念と現実のギャップに揺れながら犯人を追って走りまくる姿も魅力的。ワル2人組…まぁ8人も警官殺してるからもうワルってレベルじゃないんですけど、なんかずっと喧嘩してるように見えて根っこでは繋がってる感じとかもグッときたねぇ。

夜の街を突っ切る一糸乱れぬパトカーの隊列はさながら軍隊のようで、頼れるというよりも冷たく異質で恐ろしい感じである。マンハッタンが戦場になってしまった…だが街の空気は案外変わらず、深夜ということもあるが(0時ぐらいからから5時ぐらいまでの設定)なんだか警察が身内だけで勝手に騒いでいる風でもあった。随所に影響の刻まれた過去の刑事映画、『フレンチ・コネクション』とか『破壊!』とか『ダーティハリー』とかあとまぁタイトル的に『16ブロック』とか…と異なるのは市民の不在かもしれない。いやまぁそんなことを言ったら『フレンチ・コネクション』のポパイとかだって市民ガン無視ですが、でも生きた街の中にちゃんと刑事も(そして犯人も)生きてるっていう感じはめちゃくちゃあったよな。

これはそういうところがあんまり無い点でマイケル・マンのノワール映画に近かったし、スタローン出演作の隠れた(誰だ隠したのは!)社会派傑作『コップランド』を思わせたりもした。で、その市民の陰の薄さ、警察と市民の映像的な乖離っぷりが物語のテーマを体現しているようにも感じられたな。この映画には警察の暴力であるとか人種差別であるとか現代アメリカの抱える様々な問題が埋め込まれているが、それが具体的に描写されるシーンは少ない。しかしそのことでかえって、夜のマンハッタンを駆けずり回る警官や裏社会の人間たちの言動に垣間見えるそれらの問題の根深さが浮き彫りになるのだ。傑作すねぇ。

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同系統のポリスアクション。筋立てはわりあいざっくりしているがナオミ・ハリスの好演とスピード感、あと下町感覚が効いていておもしろいです。来てるのかな、白人警官の黒人殺しを受けてのブラックポリスアクション映画ブーム(来てたらうれしい)

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