死して屍引きずる者あり映画『ティル・デス』感想文

《推定睡眠時間:15分》

雪に閉ざされた湖畔の別荘で死んだ夫の死体を引きずるミーガン・フォックスに明らかに犯罪的な来訪者が迫る! 予告編がかなりB級的に面白そうだったのでこれはと思って劇場に赴くとマンハッタンの空撮から始まりオーセンティックな感じのホテルの高層階で不倫相手と「あなたはもっと幸せな恋愛をして…」「君と一緒にいることだけが僕の幸せなんだ…君の綺麗さを、君は理解しているかい?」みたいな甘ああああああい不倫トークを交わすいつもながらに化粧濃いめのミーガン・フォックスというすわ『フィフティ・シェイズ』か! な導入部にちょっと面食らってしまった。

不倫相手との逢い引きを回想しながら物憂げな表情で車を運転するミーガン・フォックスは目的地に着く前に外しておいた指輪をつける。今日は彼女と夫の結婚記念日。またもやオーセンティック感バリバリなレストランで結婚十周年ぐらいを祝うわけだがこの二人、金を持っていることは一目瞭然だがあまり幸せそうではなくどうやら溝ができているようである。フォックスなのに借りてきた猫のように大人しいミーガン・フォックスは察するに夫の要求する貞淑な妻の演技に疲れているようだ。バイオレンスなどは見た感じ振るわないようだがナチュラルな見下し発言からしてこの夫は妻に要求が多いのだろう。それで不倫かぁ、まぁ気持ちも分かるよなぁ…ってそんなのを観に来たんじゃないぞ俺は!

「サプライズだ」とネクタイを取り出してミーガン・フォックスに目隠しをする夫。そのまま小一時間(長いな!)車を運転してようやく辿り着いたのは例の湖畔の別荘だ。中に入ると結婚記念日の盛り上げ演出で廊下にバラの花びらがビッグダディ家の節分の豆まきが終わった後ぐらいバラだけにバラまかれ照明は何十本も置かれたキャンドルのみという拘りっぷりでものすごいムーディーだがいよいよ『フィフティ・シェイズ』みが極まってきてしまった。「君はどんどん綺麗になる…」またもや甘ああああああい会話が始まってしまって大丈夫かなぁこれ…でも大丈夫でした翌朝になると夫突然「やぁおはよう」の一言を残して拳銃自殺! わけもわからんまま血と脳みそ片を顔半分に浴びたミーガン・フォックスの右手には夫の死体に繋がれた手錠が!

もはや貞淑な妻を演じる必要はないというかそんな余裕はそもそもねぇ死ぬじゃねぇかこれファック! ファックファック! さっきまで貞淑に『フィフティ・シェイズ』してたのに急にファックとシットを連発しうんとこしょどっこいしょと腰を深く沈めて死体を引きずり始めるミーガン・フォックスにちょっと笑ってしまった。なるほど! さっきまでのあれは前振りだったわけですね! はっはっは、大胆な映画だ。

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さて死体を引きずりながらとにかくこの絶望状況を打開するもの(※スマホは壊れました)はないかと別荘中を探索したところぶっちゃけわかってはいたことだが今のこれは不倫を知った夫が仕組んだ計画的復讐心中であることが判明。昨夜のムーディー演出などもすべて計画の内だったわけだがなんて回りくどい粘着質な復讐をするんだお前は普通に殺せよ! よくこんな奴との結婚生活続いたな逆に…まぁ金持ってるからな。粘着質は情に厚いとも言いますし…言わない? 言わなかったですすいません。

でまぁそれからようやく明らかに犯罪的なオッサン二人がやって来まして予告編のようなサスペンス映画になっていくわけですが結論から言いますと面白かったです。しょせん91分の映画だからほとんどワンシチュエーションでしかも前振りで30分ぐらい使ってるわけだからこの死体どーすんのサスペンスと犯罪的来訪者どうすんのサスペンスが合わせて60分というわけで本題に入ってからは中だるみなくほどほどのおもしろいが最後まで続く。尺埋めのためのダレ場を最初に持ってくるっていうの良い判断ですよね。だって死体引きずっての犯罪的来訪者との攻防とかそんな引っ張れないからな。

『スイス・アーミー・マン』じゃないので死体を道具的に活用するなんてできませし死体は基本重いだけのマジで邪魔な物体です。だからそこを無理に膨らませるんじゃなくてそうなった経緯に時間をかけることでアホっぽいネタを緊張感ありありに見せる。犯罪的来訪者もオッサン二人組なのでスケール極小ですけどハンデが重すぎるので絶対勝てないじゃんの絶望感がありつつ、その片割れが「殺しなんて聞いてないよ!」系のヘタレたオッサン(結構愛せるキャラ)であることが徐々にわかって上手くやれば死体ハンデありでも勝てるんじゃねぇか…? と思わせる。別荘で夫の死体を引きずるミーガン・フォックスというしょうもないワンアイディアを外堀を埋めていく形で真っ当なサスペンスとして成立させた技あり映画って感じですね。

別荘の構造を可能な限り活かした攻防は意外性こそないがきちんと段取りを踏んでエスカレートしていくので見応えあり。ゴア表現や血糊も少ないながらも使い方が効果的で、序盤は金持ち衣装に身を包んでいたミーガン・フォックスが死体トゥギャザーサバイバルの中でどんどん血に染まってワイルドな風貌になっていくのがなんとなく可笑しくも夫の束縛からの解放のテーマの端的な表現になっていて良い。夫が重荷とはよくある表現だがこの映画の場合は繋がれた死体なのでまさしく重荷、なんだか落語のような粋なB級映画だ。

【ママー!これ買ってー!】


ジェラルドのゲーム (文春文庫)

死体と繋がれちゃってどうしようのサバイバルといえばキングの『ジェラルドのゲーム』。そんなに面白くないと思うがNetflixで映画化もされた。

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