なんだか惜しい映画『ドント・ウォーリー・ダーリン』感想文

《推定睡眠時間:15分》

広大な荒野を爆走するクラシックカーの群れ! こんな映像を予告編で観せられたら観に行かないわけにはいかない。予告編およびタイトルから察するにおそらくこれはなにかしらの秘密の隠された奇怪なスモールタウンを舞台としたサスペンス・ホラー。最近の流行に乗ってフェミニズム的なテーマ性もあるように見受けられる。いやそれのどこに荒野を爆走する『マッドマックス』要素あるの…? 気になるでしょう、これは気になるでしょうよ。

しかし予告編とは難しいもの、基本は本編の見所をネタバレにならないよう細心の注意を払いつつ切り貼りして観客の興味をかき立てるわけだが、見所を見せなすぎると観客はあんまり興味を持ってくれない、さりとて見せすぎてもどんな映画か勘づかれて予告編だけで満足されてしまう。この映画の予告編は後者寄りであった。確かに予告編を観ればかなり面白そうなのだが、本編の面白いシーンは予告編に全部入ってたと言っても過言ではないので、ぶっちゃけて言えばこの程度かぁとか本編を観て思ってしまった。

これは予告編が悪いというよりも単純にシナリオが悪いんだろう。こう書けばネタバレになってしまうがたぶんこの予告編を観ただいたいの人はおそらくこんな映画じゃないかなぁと予想するものがあると思う。そのとおりおそらくこんな映画なのである。予告編を観ていなくても本編の冒頭10分ぐらい観ればまぁよほどカンの鈍い人でなければおそらくこんな映画と察するだろうが、実際おそらくこんな映画なわけである。

うーん…今の時代に? そのネタもう使い古されてない? 使い古されたネタでも現代風にアレンジが施されていればもちろん新鮮に観れるだろうが、なかったなぁそういうの。どんなネタかって往年の名作テレビドラマ『トワイライトゾーン』の1エピソードにありそうなネタである。そうねぇだからもしこの映画が1時間の上映尺だったら新鮮味はないけど良く出来た映画だと思ったかもしれない。しかし現実の『ドント・ウォーリー・ダーリン』はきっちり2時間ある。そしてその追加1時間分を引っ張れるだけのネタの捻りはここにはない…というわけで端的に言えば冗長。これに尽きる。

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ファッショナブルな幻想シーンやシュールな色彩はなかなか見物なので映像的には悪くない。主演のフローレンス・ピューも身体を張った熱演で、自分で顔面にサランラップ巻くシーンとか俺はそういうのが苦手なのでひぇーなのだがなんか呼吸が確保できるようにこっそりチューブとか入れてるのかな映画撮影だしとか思って探すも見当たらずどうもガチ巻き、その心臓に悪い役者根性を堪能する映画と割り切れば楽しめるのは間違いない。

しかし…だからこそ…やっぱシナリオにもう一捻り欲しかったというか…これはネタバレギリギリのラインの感想なのだが、あの最後の方とかは実にこう実に惜しいところまで行ったんじゃないかと思うんだよ俺は。つまりそのなんというかですねああ言葉選びが難しいなそのねええと、主人公の若奥様フローレンス・ピューが、「これまでは幸せな人生だった!」って叫ぶシーンが最後の方にあるんです。でもフローレンス・ピューのこれまでの回想シーンを見るとそれ全然幸せに見えない。

そこには確かにこの手垢の付いたプロットを少しだけ逸脱する作り手の皮肉があったと思う。妻は家に入って家事をやる、夫は外へ出て仕事をする、これが夫婦の幸せですと誰かに言われれば現代の人は俺を含めて反射的に「そんなの自由じゃないぞ!」と反論するだろうと思う。けれどもじゃあ自由に生きたところで夫婦は、あるいは人は幸せになれるのかと言うと、それも甚だあやしいというのは多くの人が肌で知っていることなのではないかと思う。

ただこの映画はその人生の袋小路にまでは突っ込まない。その一歩手前で留まって観客に問いかけをするでもなく宙づりの状態で終わってしまう。その煮え切らなさのおかげで『トワイライトゾーン』の1エピソードにありそうなやつを無駄に長くしただけの映画に結果的にはなってしまっているのだからもったいない話だと思う。そりゃその先を描けばどうやっても辛辣な内容になりますから多くの観客は喜ばないかもしれないけれども、といって観客の喜ぶハッピーエンドになっているわけでもないのだから、潔く辛辣方向に舵を切った方が作品にとっては良かったんじゃないだろうか。

あちなみに荒野を爆走するクラシックカーですけれどもこれはなんのことない○○シーンだったのですが終盤にはちゃんと同じ場所でのカーチェイス展開あり。でもこれは通り一遍のカーアクションをやってるだけって感じで今ひとつテンションが上がらなかった。それよりも冒頭の何ゲームというのか知らんがフローレンス・ピューらスモールタウンのワイフたちが頭に酒だかのグラスを乗せて誰が最後まで乗せたままダンスを続けられるか競っているのを夫連中が下卑た笑みを浮かべながら眺めている光景のなんとも言えない厭さの方がテンション上がる。そうなんだよなぁ、そういう厭さの演出は面白いんだよなぁ…。

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そういえば『アス』のオマージュみたいなシーンがあったのだがもしかしてこの監督オリヴィア・ワイルド、ジョーダン・ピールのフォロワーなんだろうか。ジョーダン・ピールは新生『トワイライト・ゾーン』を手掛けたりもしているし。

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